第2話 魔法少女セット
家に帰って、早速購入したTS魔法少女ものBL本を読んでみる。
タイトルは『僕たちが魔法少女って本当ですか!? ~君と僕との甘い夢~』
うーん、実にシンプル。だがそれがいい。
えーっとなになに?
『俺の名前はインキュバッス。ユートピアでは嫌われ者の精霊だ。面倒くさいが、今日も魔法少女にぴったりな女の子を探しに出かけるぜ』
えっ、これが精霊?
なんかいつもテレビで見かけているような可愛らしい精霊と随分印象が違うな~。これはこれで斬新で好きかも。
あれ、この精霊早速見慣れない街に来たせいで道に迷ってるじゃん。
可愛いところもあるんだね。
あっ、トラックが迫ってきてる。危ない!
『ふう、危なかった~。大丈夫かい、君?』
そこへ現れたのは、いかにも美少年といったかんじの可愛い男の子。すんでのところでインキュバッスを助ける。
『ひう……な、なるほど。こいつ、男のくせになかなか見どころがありそうだな。いいだろう、この際誰でもいい。この俺と契約を……ボソボソ』
『えっ? 何て?』
声ちっさ!? 陰キャかよ!
『この俺とぉ!!』
『うわびっくりした!?』
『こ、こここの俺と、け、契約を結ぶのはどうだろうか?』
『契約? 何の?』
『そ、それは、その、あ、あれだよ、あれ。……ボソボソ』
コミュ障かな?
『……君、精霊だよね? もしかして、魔法少女の?』
『そ、そうだ! お前、魔法少女になる気はないか?』
『えぇ、でも僕男だよ?』
『性別など関係ない! 俺の魔法ならば、たとえ男だろうと魔法少女にしてやろう!』
『うーん、どうしようかな~』
こんな怪しい精霊と契約何て結ばなくていいと思うよ?
『よし、わかった! 僕、魔法少女になる!』
何で!?
てなかんじで、終始ノリと勢いで突っ込んでいくストーリーが、いつの間にか病みつきになっていった。
そして気が付けば、随分な時間がたっていた。
「うぅううううううう、悲しいよぉおおおおおおおお!!」
結局数時間かけて、私はその日のうちにこの摩訶不思議なBL本を制覇してしまった。
だって実際面白かったし、すごく感動したんだもん。
特に最後のシーンで親友のTS魔法少女が死にかけた時、自身の能力で安らかに眠らせて、最期にいい夢を見させてあげたっていうシーンはとてもよかったわ~。
それで世界が平和になって、『魔法少女に性別など関係ない。次の魔法少女は君だ!』っていうしめくくりもいいよね。
親友とのイチャイチャシーンもかなりレベルが高かったし、これは買ってよかったかも。
「いや~でも満足したわ。今夜は良い夢が見れそうだな~って、うん?」
ぺらぺらと最後の作者あとがきのページをめくったさきに、何やら気になるものを発見した。
『魔法少女セット 購入はこちら』
その矢印の先についていたのは、なにやら怪しげなQRコード。
「なんだろう、これ?」
試しに近くに置いてあった自分のスマホでQRコードを読み取ってみる。
そこから案内されたのは、これまた怪しげな謎の通販サイト。
私は、思わず首を傾げた。
なんだろうこれ。写真が載っていないし、商品も『魔法少女セット』の一点しかない。
しかも値段もかなり安い。私のお小遣いで十分買える金額だ。
「…………」
いやいや、どうみてもおかしいよこれ。絶対何かの罠だって。
私きいたことある。これ、俗にいう闇サイトってやつ。
法律で禁止されている、違法なものを取り扱っているんだって。
だから、こんなサイトで絶対取引なんてしちゃ……いや、でもまてよ?
こんな一般で買える本の中に、闇サイトに誘導するものなんて普通貼ってあるかな?
こういうのってきちんと精査されるものじゃないの?
そもそもこれを勧めてきたのはおっちゃんだし、おっちゃんが悪者なんていうはずがないし、だいたいここに書いてある商品だって『魔法少女セット』としか書かれてないわけで……。
普通に考えたら、魔法少女になりきれる子供向けのコスプレ衣装か何かじゃないかな?
うーん……。
「まっ、試しに買ってみよっかな」
状況証拠から考えて、私は魔法少女なりきりコスプレセットの可能性が高いと考えた。
おっちゃんだって、魔法少女になるなとは言ったけど、魔法少女になりきるなとは言ってないわけだし、やっぱり私の中で魔法少女に対する憧れは止められないわけで。
まあ、仮に変なのが届いちゃったら、またその時に考えればよし。
「購入っと」
これでOK。あとは商品が届くのを待つだけ。
魔法少女セット。一体どんなものが届くのかな~。楽しみだな~!
それは、数日後に届いた。
「歩夢~! あなたあての荷物が届いたわよ~!」
お母さんからの呼びかけに応じて私は玄関へと降りた。
随分と大きな商品だった。
私の身長と同じぐらいの大きさの細長い箱が、そこに置いてあった。
「随分と大きいわね。あんた一体何買ったの?」
「えへへ、内緒」
「はぁ。あんまり変な物買っていると、お小遣い抜きにしますからね?」
「はーい」
母からの注意を受けつつ、私は荷物を自分の部屋へと運ぶ。
それにしても重い。体感だと数キロはあるんじゃないかと思うほどだ。
これって、もしかして魔法少女の衣装じゃない?
どうしよう……お母さんの言う通り変な物だったら、本当にお小遣い抜きにされちゃう……。
「ふう、おもかった~」
なんとか自分の部屋へと運び終えた私は、早速開封作業に入る。
「さてさて、どんなものが入っているかな~?」
カッターでテープを切って、ふたを開けてみると――
「……へっ?」
そこには、驚くべきものが入っていた。
「…………」
私は、それらと一緒に入っていた取扱説明書らしき紙を拾う。
そして、折りたたんであるその紙を広げて、書いてあることを声に出して読む。
「『この度は、魔法少女セットのご購入ありがとうございました。ぜひあなたも魔法少女となり、街を救うヒーローとなってください。内容物:槍一点、精霊一点』……」
私は、改めて箱の中身を見てみた。
入っていた物の一つは、私の身長と同じぐらいの長さを誇る、大きな金色の槍だった。
運んだ時の重さや刃の研ぎ具合から、それがレプリカなどではない、正真正銘の本物であることが伺える。
柄の部分には可愛らしい白いリボンの装飾が施されており、テレビなどでよく見る、魔法少女がもっている武器とほぼ同じものであるということが直感でわかった。
そして、入っていたもののもう一つは、何かのぬいぐるみのようなものだった。
可愛らしい悪魔、とでも表現した方がいいのだろうか。悪魔特有の蝙蝠の羽が生えており、体の色は紫。上半身は裸で、下半身に布一枚巻いているだけの独特なデザイン。
顔の形は少し歪で、人間のようにも、それこそ悪魔のようにも見えるフォルム。
というか、これって……
「インキュバッスじゃない……」
そう、数日前に呼んだばかりの『僕たちが魔法少女って本当ですか!? ~君と僕との甘い夢~』で出てきた、精霊のインキュバッスにそっくりなのだ。
当時はこんな精霊いるわけないだろと思いながらげらげら笑って読んでいたのだが、こうして生身で見てみると、まるで本当にそこにいるかのように感じられて、正直気味が悪い。
いや、まるで、じゃなくて、まさか……?
私は、インキュバッスと思われるその精霊を触ってみた。
「温かい……」
まるで、本当の生き物を触っているような感覚。皮膚の部分も本物さながらのようにすべすべしていた。
ごくりっと、私は生唾を飲み込んだ。
そのまま、ゆっくりと抱き上げてみる。
インキュバッスは手足をだらんとぶら下げたままで、起きる様子はない。
というか、心臓の鼓動や血液の脈すらも感覚がない。
「……はぁ」
なんだ、ただの偽物か。
まさかここまで本物と同じように作りこまれているなんて思いもしなかった。
でも、これを購入したのは流石に失敗だったかも。どうやって廃棄しようかな――。
なんて考えていた時だった。
ドクンッと
突然、インキュバッスを抱きかかえていた手に、心臓の鼓動の感覚が伝わってきた。
「……えっ?」
私があっけにとられていた直後、
『……俺を呼ぶのは、誰だ?』
インキュバッスの両目が開いて、私を視界にとらえた。




