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黒い翼の魔法少女~指名手配された彼女は今日も元気にBLを嗜む~  作者: 浦野 情


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第10話 実力検査③

少し遅れました。申し訳ありません。


「さて、それでは次に石田杏珠さんお願いします」


「……ん」


 適性検査最後の出番は、これまで勤勉にメモを取り続けてきた杏珠さん。散々な結果に終わった私だけれど、ここは少しでも他の魔法少女の実力を見て学んでおきたい所。


 一体どんな魔法少女に変身するんだろう。


「……変身」


 そして杏珠さんが、たった一言だけそう呟いたその瞬間。


 ゴウッと、


 突如、辺りに吹雪が巻き起こった。


「ふぇっ!?」


「な、なんですのこれ!?」


「あーこれなんかやばそーなよかんー」


『あばばばばばばばばば!!??』


 決して比喩表現などではない。空は雲一つなく綺麗に晴れ渡っているはずなのに、普段通りに真夏の暑さを感じるはずなのに、さっきまでの一瞬のうちに辺りは雪だらけで碌に周りが見えなくなってしまっていた。


 いうなれば、視界だけがホワイトアウト状態。寒さなどは全く感じず、相変わらずの暑さで汗だけはだらだらと流れている。雪の感触も全然感じられない。


 つまりこれは、変身に伴うエフェクトのようなものなのだろう。西園寺さんや翠蓮さんが変身する時に起こした炎や竜巻に、熱や風力などが全く感じられなかったように。ちなみにインキューが起こす竜巻は物理的なものなので、普通に周りのものを吹き飛ばすことがある。私だけが例外なのだ。


 だから、本来そんなに慌てる必要なんてないんだけれども、突然視界が真っ白になったことで程度の差はあれどみんなパニックに陥っている。特にインキューはよくわからない声を上げているんだけれど、さすがにちょっと慌てすぎじゃない?


 そういえば如月先輩の声だけ全然聞こえなかったけど、全然慌てていないみたい。さすがは先輩。こういうのにも慣れているということなのだろうか。


「……完了」


 とか考えている間に、あれだけ真っ白だった視界が開け、元の景色に戻った。相変わらず空は雲一つなく晴れわたっていて、周囲には雪など全く積もっていない。元の訓練場そのままだ。


 そんななか、肝心の杏珠さんはというと――


「あれ?」


 変身前と、全く変わらない姿のままだった。


 白いワンピース一枚羽織っている姿はもちろん、白い運動靴も白い真珠のネックレスもそのままで、一体なにが違うのかわからない程にそのままの姿だった。


 唯一変わっているのは、三つのお団子を作っていた銀髪で、お団子が全てほどけて、足首まで届くほどに長いロングストレートの髪型になっていた。変化と言える変化は、本当にそれくらい。


「「「『…………???』」」」


 これに疑問を感じていたのはどうやら私だけではなかったようで、西園寺&翠蓮コンビも口を開けたまま呆然としている様子だった。あとインキューも。如月先輩だけは顎に手を当てながら杏珠さんを見つめていて、何か考え込んでいる様子だった。


「それでは杏珠さん、実力の方を見せてください」


「……ん」


 そう声にもならない声だけを発すると、杏珠さんは人差し指を案山子の方に向ける。


 すると、その人差し指の先端に白い小さな球体が出来上がり、


 バンっとそれを案山子に向けて発射した。


 私たちは、固唾を飲んでその弾の行方を見守る。


 …………。


 ……それにしても、何か遅くない?


 その弾は、あくまで私の推定に過ぎないけれど、時速20キロくらいの速さだと思う。だいたい自転車を全力でこぐのと大して変わらない速さだ。たしか、一般的な銃弾の速度が時速800キロ程度だと聞いたことがある。

 それと比べると、あまりにも遅い。どう考えても実戦向きではないだろう。


 しかし、それでも相手が物言わぬ不動の案山子である限り、いづれは当たる。そうしてその弾が案山子に命中すると、パンッと弾が弾けて、そのまま霧散した。


 案山子にはかすり傷一つついていない。


「「「『…………』」」」


「……終わり」


「はい、杏珠さんお疲れ様でした。これにて適性検査を終了いたします」


「「「『はっ?』」」」


 えっ、終わり? 私の聞き間違いじゃないよね?


 いや、検査がダメダメだった私が言える義理じゃないのはわかっているんだけど、それでもあの変身エフェクトからのこの結果は、なんというか、私たちにとっては衝撃が強すぎた。

 期待値だけ上がりに上がって、その実全然大したことなかったという形になってしまったから、皆思わず変な声を上げてしまった。


 いや、うん、違うよね。これは勝手に期待しすぎた私たちに責任があると思う。勝手に期待されて勝手に落胆されたような形になった杏珠さんには、同じ結果に終わった私からしたらむしろ同情すら覚える。


「…………」


 無言で元の配置に戻った杏珠さんになんて声をかければいいか、私がしどろもどろになっていると、いの一番に西園寺さんが声を掛けた。


「お、おほほほほ! 杏珠さん、その、あんまり気にすることはなくってよ? 人間誰だって失敗はありますもの!」


「そうそう。あんまり難しく考えないでさ、気楽にいこーよ気楽に」


 翠蓮さんも声を掛けるが、杏珠さんは相変わらず無反応。そこで、私も意を決して声を掛けてみることにした。


「あ、あの! わ、私も同じ結果に終わっちゃったからさ。二人の言う通りあんまり気にしなくていいと思うよ! これから私と一緒に頑張って行こ!」


 精一杯の笑顔を浮かべながら、杏珠さんに語り掛ける。


 ほっとけなかったし、何よりこのままだと、杏珠さんが前の私みたいになってしまうんじゃないかと心配だった。それだけは、経験してほしくなかった。


 すると、杏珠さんは私の方にゆっくりと顔を向けて、こう言った。


「……ありがとう。でも、大丈夫」


 そしてまた、どこからともなくメモ帳をとりだして、何かを書き込む作業に入ってしまった。


 如月先輩は声を掛けることなく、じっと杏珠さんの方を見つめているだけだった。


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