第9話 実力検査②
「ねえインキュー」
『インキュバッスだ』
「前にやったように、私の周りをまわってくれない?」
私はインキューに、前回やったように竜巻を起こしてくれないかと頼んでみる。
するとインキューは、少し考えるそぶりを見せてからこんなことを言い出した。
『あー、それなんだけどよ。少しやり方を変えてみねえか?』
「やり方を変える?」
『ああ。俺が回るんじゃなくて、お前が変身しろって心の中で命じるんだ。他の魔法少女を見た感じ、変身するのにこれといって決まったトリガーはなかったみたいだし、別に本人の意思次第でいつでも変身できるんじゃねえかなーって思うんだ』
インキューの言うことを簡単にまとめると、俺がいちいち竜巻を起こさなくても変身できるようにしてほしいとのこと。魔法少女の変身方法に決まったやり方はないからできるんじゃないかとの主張だが、大方自分が回ると疲れるだけだからやりたくないというのが本音だろう。
私は即答する。
「却下」
『な、なんでだよ!?』
「だってさ、それって今言うことじゃなくない? 変身する方法がわからないっていったのはインキューの方なんだし、それでいろいろ試行錯誤してあのやり方で変身できたんじゃん。自分の言ったことには責任持つべきだと思うんだよね」
『いや、そ、それは……』
「それに、本当に自分の心の中で命じるだけで出来るかどうかも分からないし、そもそもそんなことで変身出来たら苦労しないって話なんだけど、仮にできるとしても練習が必要じゃない? 早苗さんから実力を見せてって言われている今それを言うべきじゃないと思うんだけど」
『…………いや、でも』
「なによりあんた、自分がそれやりたくないだけでしょ。疲れるから』
『うぐっ!?』
インキューが胸を押さえて苦しみだす。どうやら図星だったらしい。
とにかく私は、あの変身方法を貫くと決めたのだ。その理由には他にも、自分が気に入ったからというのもあるが、それはインキューには言わないでおく。
「さ、わかったらとっととグルグルまわってちょーだい」
『ちくしょおおおおおおおおおおおおお!!』
観念したインキューは半ばやけくそ気味なのか凄まじい勢いで私の周りをグルグルまわる。その勢いで再び竜巻が起こり、私の体は宙に浮かんで、魔方陣が現れ、私の体を通過していく。
そうして出来上がったのは、所々に白いリボンをあしらった暗黒令嬢のドレスを着た、白髪の魔法少女の私だった。
「なるほど。それでは適性を図ります。なんでもいいので、なにか技を見せてください」
早苗さんがそう言いながら、持っていた紙に何かを書き込んでいる。
周囲を見渡すと、顎に手を当てながらなにやらうんうんと頷いてる如月先輩を始め、西園寺さんは目をキラキラさせながら私を見ていて、翠蓮さんは暇そうにあくびをしている。その後ろ、はるか後方にいる杏珠さんは、私を見ながらまた何かメモをとっているようだった。
とまあ、周囲の反応を伺うのはこれくらいにして、そろそろお披露目といかないと!
右手を前にかざして、左手を右腕に添える形で構える。いつかの映像で見た、魔法少女が使っていた技を思いうかべる。
プリンセスをも貫く、閃光をわが手に!
「マジカルビーム!」
私はその場で適当に考えた技名を思いっきり叫んだ。
…………。
太陽が照り付ける日差しの元、だらだらと汗が流れる。
何も、起きない。
「だ、だったら!!」
私はイメージを変えて、両手を前に突き出し、掌を前にかざす。
自分のイメージカラーはおそらく黒。そこから連想されるのは闇。さらにそこから私は、自分が仕えそうな闇の技を適当に考えた。
「暗黒弾!」
私は再び技名を思いっきり叫んだ。
…………。
真夏日にも関わらず。ヒューとそよ風が吹いた気がした。
やはり、何も起きない。
「そ、それなら!」
私は自身の右手に、あの時届いた槍の姿を思い浮かべる。すると、私の右手にその槍が顕現した。
よし、ここまではいい。心なしか、変身前に持った時よりも軽く感じる。
私はその槍の刃先を前に突き出し、案山子に向かって思いっきり駆け出した。
「うおおおおおおおお!!」
巨大案山子はどんどんと近づいていき、ついに槍の先端が案山子に当たり――
カチンッ
まるで金属にでもあたったかのように跳ね返された。
「あれ?」
「ああ、言い忘れていましたが、その案山子は特殊な魔力によって包まれています。並大抵の兵器では傷をつけることもできません。実際のプリンセスを想定したものなので」
遠くから、早苗さんの冷静な指摘が飛んでくる。
その場に突っ立っている事数秒。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
私は恥ずかしさをこらえながら槍で案山子に攻撃し続けた。何度も突き刺し、薙ぎ払い、おそらく生身の人間相手なら数人倒せるほどの威力を浴びせ続けた。
それでも、案山子にはかすり傷一つ付くことはなかった。
「……はい。もういいですよ、歩夢さん。お疲れ様でした」
「はぁ、はぁ……」
ついに早苗さんからストップがかかり、私の適性検査はさんざんな結果に終わってしまった。
私は地面でくたびれていたインキューの元に駆け寄り、拾い上げ、その体を思いっきり揺らした。
「うわあああああんねえインキュー!! 私何もできなかったんだけどどーゆーことぉーーーー!?」
『うわ、ちょ、だからやめろ頭が割れるんだってばうぇ!?』
「ねえ! 二人はどうやって技を出したわけ!?」
私はインキューをその場に投げ捨て、西園寺さんと翠蓮さんのコンビに話しかけた。
いくら何でもあの結果はおかしいと思う。
そうでなきゃ、西園寺さんも翠蓮さんも初っ端からあんな技を出せるわけないと思う。
すると二人は目を合わせた後、気まずそうに話し出した。
「お、おほほほほ……。いや、その、どうやったかと言われましてもねぇ?」
「うーん、あたしたちも今回初めて技を出してみたわけだし……」
「ええっ!?」
「基本的に、プリンセスが出ない限り外では技を使うなって言われていたし……。まあ、イメージだよイメージ。自分のイメージカラーや精霊から使える技を連想して、適当にやってみたらできたって感じ?」
「そ、そうですわ! わたくしもそんな感じでやってみたらできましたの。ですから、歩夢さんもそのようにやってみるといいと思いますわ!」
「いや、その……」
実際そのようにやってみてできなかったんだけど……。もしかして、私って魔法少女としての適性そのものが無いのかな?
なんだか自信がなくなってきた……。




