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黒い翼の魔法少女~指名手配された彼女は今日も元気にBLを嗜む~  作者: 浦野 情


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第7話 インキュバッスのスキル

 

 と、そこへ。


 パンパンッと。

 早苗さんが二回手を叩いてその場を静まらせた。


「はいはい。おふざけはそこまでにして、その場に並びなさい」


 早苗さんの号令で、如月先輩と彩芽、翠蓮コンビが私の前に横一列で並んだ。みんな早苗さんの言うことを聞く限り、指導はちゃんといきわたっているらしい。


「杏珠さん、あなたもよ」


 と思ったら、早苗さんが、部屋の隅に向かってそんなことを言い出した。私はそこで初めて、部屋の隅っこにもう一人女の子がいることに気づいた。


 その子は、一言で言うなれば目を引く見た目で地味な感じと言い表した方がいいのだろうか。白い。とにかくなにもかもが白いのだ。


 白い透明な肌を持つその少女は、白いワンピース一枚を羽織っているだけの姿だった。さすがに下になにかしら着ているだろうけど、それを一切感じさせない着こなし具合に、私は思わず目を奪われた。


 他にも、履いているものは白い運動靴、アクセサリーは本物かどうかわからない白い真珠のネックレス。髪は銀髪で、頭の上に三つお団子を作っている状態。

 となれば瞳の色も白一色なんだけど、なぜだろう。その子の目には光が宿っていない感じがして、どこか不気味だった。


「…………」

 

 その子はこちらを見ると、読んでいた分厚い本を閉じて、のっそりとこちらへ向かってきた。そして、無言で如月先輩たち三人の横に並んだ。


 普段から無口なのかな?


「はい、じゃあ改めて紹介するわね。こちらは今日からこのチームに配属となった一ノ瀬歩夢さん。チームで動く以上、お互いの連携も大事になってくるから、みんな仲良くしてあげてね。歩夢さん、この四人が今日からあなたと一緒に活動する魔法少女よ。左から、如月藍里さん、西園寺彩芽さん、東雲翠蓮さん、石田杏珠さんよ。仲良くしてあげてね」


「改めてよろしくね~」


「ふふっ、せいぜいわたくしの立派な踏み台になることですわ!」


「まあ適当にやろうぜー」


「……ん」


 早苗さんの紹介のあと、みんなそれぞれ個性満載の挨拶を交わしてくる。ていうか彩芽さんのお嬢様設定まだ続いていたんだね……。


 まあとにもかくにも、賑やかなグループになりそうなのはとてもいいことだと思う。ここからの交流次第で、わたしたちの今後が決まると言っても過言ではないだろう。


「改めまして、よろしくお願いします!」


 なので、わたしも元気いっぱいに挨拶をする。初対面の印象はとても大事だ。第一印象が一番大事にはなるのだが、面と向かって話すときの第二印象も、その人の人となりを大きく知るための材料になる。


 特に私みたいな誰にも話せない事情がある人間は、そこを悟られないためにも、こういった所で好感度を上げることは非常に重要だ。


「それと、一つ皆さんに話しておくことがあります。歩夢さんの精霊は特別な種で、人間の言葉を話すことができます。なので、その点を留意しておくように」


「「「えっ?」」」


 早苗さんがそう話すと、みんな揃って目を丸くして、私の隣で羽ばたいているインキューを見つめる。その表情には驚きというか、信じられないといった感情が前面に出ている。


 すると、それを聞いたインキューがびくっと紫色の体を縮こまらせて、自信なさげに言った。


『な、なんだ。お前ら今更気が付いたのか? こ、ここここのインキュバッス様をそこらの精霊と見間違うなんて、頭が高いぜ?』


 部屋の中で、三人分の絶叫が響き渡った。やっぱり精霊がしゃべるというのはすごく珍しいことみたい。

 それはそうとインキュー。あんた私以外の人と話すとき、声が小さくなってる気がするんだけど、大丈夫?


 それにしても、杏珠さんだけ相変わらずなんのリアクションもない。そこが少し気になったけど、まあそれが彼女の性格なのだろう。




 その後、私たちは早苗さんと如月先輩の案内で天桜院内を歩いて見て回った。


 私がいたビルの中にはソファーやテーブルが置いてある休憩スペースがあり、魔法少女たちはそこを自由に使えるらしい。主に学校の宿題をするのに使われているみたいだが、本を読むのでも、ただだらだらいるだけでもいいのだとか。

 今度BL本を持ってこようかな。


 他にも上の階には図書館スペースもあり、主に魔法少女の扱う魔法やプリンセスに関する専門の本や論文が置いてある。ただ、基本的には持ち出しは禁止されていて、その場で読むことしかできないみたい。まあ私にはあまり縁のない場所かな。

 難しいことは苦手だし、BL本も置いてあるわけじゃなさそうだし。


『お前さっきから邪な事考えてないか?』


「うん? なんのこと? 別に変なことは何も考えてないわよ」


『いや、思いっきり顔に出ているから。しかも無自覚ときた。これは厄介だぞ……』


「?」


 どうしたものかと言った様子で頭を抱えるインキュー。


 よくわからないが、勝手にこちらの心を読もうとしてくるのはやめてほしい。いくら精霊でも、いや精霊だからこそ、女の子のプライバシーには配慮してもらいたいもの。


 まあそれは置いておいて、他にも別のビルの中には魔法専門の研究施設があるらしい。そこは魔法少女である私たちでも立ち入ることは出来ないみたいで、限られた人しか入れないようだ。


 こうしてみると、本当に学校、というよりは大学みたいだ。

 大学にはまだ行ったことがないけど、学生が過ごしやすいように多くの施設や研究機関があるとは聞いたことがある。まさにこんな感じじゃないのかな。


「それじゃあ最後に、あなたたちの実力を図らせてもらうわね」


 そう言って早苗さんが最後に案内したのは、ビルを出て少し歩いたところにある、車の中でも見かけた訓練場だった。

 だだっ広い敷地に大きなかかしが横並びにいくつか置いてあるだけの場所。私たちは、その場所に足を踏み入れた。


 敷地内に一歩足を踏み入れると、一瞬空気が揺れたような、そんな気配を感じた。

 恐らくこれが、魔法を通さないと言われる結界なのだろう。魔法は通さなくても、人や動物は普通に行き来できるらしい。

 何とも便利な結界であるが、間違って誰かが入ってきてしまった時には大変な事故が起こりそうでもある。まあ、そもそもここは関係者しか入れない天桜院の敷地内なのだから、そんなことはまず起こらないだろうけど。


「ここでは、魔法少女であるあなたたちの適性を図らせてもらいます。如月さん。お手本を見せてあげて」


「わかりました~。出ていらっしゃ~い、フリーズ」


 そう言うなり如月先輩が掌を上に向けると、次の瞬間、こぶし大くらいのサイズの氷の塊が顕現して、それは徐々に大きくなっていった。

 そしてちょうど先輩の頭と同じくらいの大きさにまでなると、氷が砕けて、中からひし形の八面体のクリスタルが宙に浮いて出てきた。


「「「おおっ!!」」」


 私を含め皆が驚きの声を上げる中、先輩がそのフリーズと呼ばれたクリスタルの精霊を撫でる。


『--------!』


「よしよ~しいい子ね。皆にも紹介するわ。この子がうちの精霊のフリーズちゃん。よく生き物っぽくないって言われるけど、この子もちゃんとした精霊だから、仲良くしてあげてね」


 如月先輩が紹介すると、フリーズは、ぴょんぴょんと跳ねながらクルクルと回って喜びを表現している。


 へぇ、これは驚いた。うちのインキューはいかにも悪魔って感じの精霊だから、みんなこんな感じの見た目かと思っていたのだけれど、どうやら違うらしい。精霊にもいろいろな種類があるもんなんだなぁ。


 なんて感心していると、如月先輩がこちらを向いてにこっと微笑んで、次にインキューに視線を向けて、


「特にインキュバッスちゃんとは、同じ精霊どうし通じ合えるものがあるんじゃないかしら? ぜひとも仲良くなってほしいのだけれど」


 と言ったのだ。


「だってインキュー。あんた何か話しかけてみなさいよ」


『そのインキューってのやめろって……。後俺様、あんまり他人と話すの得意じゃないんだが……』


「なんかどっかで見たことあるような設定だけど、そんなこと言ってたら誰とも仲良くなれないわよ。いいから何か言ってみなさい」


 するとインキューは『俺は精霊なんだぞ……人間よりも偉いはずなのに……』『なんで俺はこんな言いなりになっているんだ……?』とかなんとかぶつぶつ呟きながら、羽を羽ばたかせてフリーズに近づいた。


『よ、よお。お、俺様は、その……イ、インキュバッスっていうんだ。その……よろしくな』


『-------。-----------??』


『あ゛っ!? なんだてめえやるのか!?』


「えっ、インキュー。その精霊の言ってることわかるの?」


『インキューじゃないインキュバッスだ。こいつ【躾がなっていないな。後輩は先輩を敬うのが礼儀じゃないのか??】て言ってきやがった!』


「あら~これはびっくりね。まさかうちの精霊の言葉がわかるなんて~」


「ぜひともあたしの精霊とも会話させてみたいものだな」


「…………んっ」


 如月先輩に続き、翠蓮さんも興味深げにインキューとフリーズを眺めまわしている。杏珠さんはいつの間にか持っていたメモ帳に何やら書き込んでいた。


 けれどそんななかで、なぜか西園寺さんだけが頬を膨らませてこっちを恨まし気な目で見ていた。えっ、私なにかしたかな? と思ったら、プイッとそっぽを向いてしまった。


 よくわからないが、とりあえずインキューには色々言いたいことがある。


「ねえインキュー」


『インキュバッスだ』


「どっちでもいいけど、フリーズの言うことももっともよ。相手は先輩なんだから、ちゃんと敬わないと」


『お前まであいつの肩を持つのか!?』


「そりゃそうでしょ。あと、あんたやっぱり他の人や精霊とも話せるようになっておきなさい。特に精霊。今後は通訳になってもらうから」


『俺の扱いちょっと雑過ぎない?』


「いつものことでしょ」


 インキューのこのスキルはかなり重要だ。

 上手くやれば精霊どうしで仲良くなれるし、そうすれば私も他の魔法少女と話すときの壁を取り除ける。お互いの精霊が仲良くしているのだから、こちらも仲良くしましょうって言いやすくなるのだ。


 だから、この調子でいけば、学校にいた時のようにはならないはず……。


「はいはい。おしゃべりはこのくらいにして、如月さん。そろそろ変身に入って頂戴」


「あっ、はい。わっかりました~」


 そんな考え事をしていると、早苗さんがそろそろ先に進んでほしいというので、如月先輩もそれを了承する。


「それじゃあ、いくわよ、フリーズ」


『--------!!』


 合図とともに、先輩がフリーズを指で押した。


 次の瞬間、先輩の体が氷漬けになっていった。


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