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8-3 神

8-3 神

 「ばばあ、なんでおれたちの前に立つんだよ。じゃまだ、どけ」

 「兄貴を拝みだしたよ、このばばあ」

 「ばあさん、どいてくれないか。じゃまなんだよ。みんな見ているだろう」

 「えっ、たくさんの人間がおれたちを取り囲んで兄貴を拝みだしたよ」

 「不吉だろう。おれが死ぬとでも言うのかよ。その念仏みたいなのをぶつぶつ言うのやめろ」

 「えっ、まだどんどん増えていってるよ。ひざまずくんじゃないよ。立てよ。立てったら。

どうなっているんだ。そんな子供まで拝ませるんじゃないよ、どけ、どけ、おれは見世物じゃないぞ」

「あのビルの二階からもおれを拝んでいるぜ」

 「いったい何が起こってんだ」

 「やめろ、靴を舐めんじゃないよ。よだれで汚いだろう」

 「皺くちゃな手でおれの手を触るな」

 「泣くな。泣くなって言っているんだ」

 「兄貴、おかしいですよ。みんな狂っているんじゃないでしょうね」

 「いくら蹴散らしてもおれに縋り付いてくるよ。不気味だぜ。100人はいるな。まるでゾンビのようだぜ」

 「兄貴、走って逃げましょうよ」

 「おう、そうだな。事務所で会おう」


 「年寄りたちだから、さすがに走ってついてこれなかったな。それにしてもどうなっているんだ。ゴロー、わかるか」

 「いや、何が何だか。あんなんじゃ、外を歩けませんぜ」

 「そうだよな。外に出て、みんながすがってきて拝まれたら歩けないよな。変装でもしなければな。でも、いったい何があったんだ」

 「あっ、ネットに今さっきのおれたちがあがってますよ」

 「おう、見せてみろ。えっ、ウルトラ善人登場だって。100点満点の善人。神様降臨だって。えっ、おれが神様?」

 「やばいよ、兄貴。本当に神様にされちゃってるよ」

 「だから、ばばあやじじいが拝んでいたのかよ。ふざけんな、おれは悪党なんだよ」

 「兄貴が前科6犯の悪党ということは、もうばれてますよ。名前や履歴も全部暴かれている」

 「そんなおれがどうしてウルトラ善人なんだ」

 「兄貴、よくわからないんだけど、兄貴は試練を与えられたことになっているそうですぜ。他の連中に代わって悪事を働いて、一人で他の人の罪を引き受けているんだって」

 「なんだそりゃ。そんなことはない。おれ、好きで悪いことしてきたんだぜ。断言するけど、他の奴のために悪いことをしてきたことは、一度たりとてないぜ」

 「そうだよね。でも、100点の善人は普通の善人ができないような試練を引き受けてきたことになっているよ。イエス・キリストの再来とも書かれているよ」

 「なんだ、そりゃあ。わけがわからんこと言ってるな」

 「兄貴、どうしやす。もう外を歩けませんよ。もうすぐここもわかって、たくさんの人が押しかけてきますよ。時間の問題です」

 「くそ、こうなったら来た奴みんなどつくか」

「どついても、どついても、連中引き下がりませんよ。殴っても蹴っても一銭にもならないし」

「それならいっそ連中から金をふんだくるか」

「えっ、それもありかもしれませんね。兄貴は神様なんだから、連中、喜んで金を貢いでくれるかもしれませんぜ」

 「賽銭箱を用意しろ。大口のお布施も受け付けよう」

 「大口のお布施をしてくれた奴には、兄貴の汗のついたハンカチをやるっていうのもどうでしょう」

 「おっ、冴えてるな。そこの壺もやるか」

 「この番茶も売りつけましょうよ」

 「おお、この部屋のもの全部金になるぞ」

 「神様がこんなやくざな姿でいいんですかね」

 「そうだな。あそこの寺の坊主に金貸していたな。衣装と賽銭箱を持ってこさせよう。おまえもその衣装を着るんだぞ」

 「えっ、おれもですか。おれ81点ですよ」

 「おれの弟子だからいいんだ。いま修行の途中なんだから」

 「弟子ですか」

 「そうだ。もうおれの子分じゃねえ。おれの一番弟子だ」

 「一番弟子ですか。なんか良い響きですね。おれ、子分よりも弟子の方が好きかもしれません。

やくざの修行から坊さんの修行に変わっただけですよね。兄貴と一緒なのは変わりないし」

 「そうだ、やくざも神様も庶民から金をふんだくる分には違いはねえよ」

 「兄貴、頭剃るんですか?」

 「バカ、剃るわけないだろう。そんなかっこ悪いことできるわけないだろう。おれたち坊さんになるわけじゃないんだから。おれ、神様なんだから。イエス・キリストだって頭丸めていないだろう。頭剃るのいやだから、おれたちの教団のモデルはキリスト教にしよう。ゴロー、あとからキリスト教の本を買って来い。人を騙すためにも、少しは勉強しておかないとな。難しい本は駄目だからな。手っ取り早く漫画がいいな。イエスの自伝のようなものはないのか。自伝はない。そうか。それなら、伝記がいいな。遠くの本屋で買えよ。誰にもわからないように変装していくんだからな。神様が漫画読んで勉強してるなんて、かっこ悪いものな」

「兄貴、本格的になってきましたね。それなら、仏教の衣装は合わないんじゃないですか」

「とりあえずだから、いいよ。おれ教会に知り合いいないから」

「わかりました。金が入ったら、徐々に本格的なものそろえていきましょうね」

「そうだ。おれたち金儲けをするんだという本筋を忘れないようにな。念を押しておくが、おれたちは悪党だからな」

 「さすが兄貴ですね。転んでもただでは起きないんだから」

 「おれたち有名人になってしまったから、今までのようにお気楽に生きられなくなってしまったぜ。その分の代償を払ってもらわないとな」

 「金稼げますかね」

 「今までのちんけな稼ぎとは一桁も二桁も違うぞ。なにせ神様だからな。善人アプリ万歳だ」

 「善人アプリ万歳。100点満点万歳」

「よし、これから宗教に進出するぞ」


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