8-2 神
8-2 神
「駄目ですよ。そんなことしちゃあ」
「見て、見て。あの人100点だよ」
「駄目ですって」
「だってママ、あの人100点なんだよ」
「しー。だから駄目だって言ってるでしょう。そっちを見ないの」
「生まれて初めてだよ、100点の人に会うの。スーパーじゃなくてウルトラ善人だよ。こんな人見たことないよ。神様かもしれない」
「大きな声を出さないの。ちょっとこっちに行くわよ」
「だって、100点なんだよ。ママ、今までに100点の人に会ったことあるの?」
「ないけど、何かの間違いよ」
「そうかなあ、やっぱりママは68点だ」
「こんなところでそんなことするんじゃないの。前にも言ったでしょ」
「ほら、やっぱり狂ってないよ。あの人100点だよ」
「もうわかったから、黙っておいて。だからあの人を見ないの」
「ぼくのクラスには80点以上の人、誰もいないよ。先生もみんな70点なんだから。パパとママは73点と68点でしょ」
「そんなこと大きな声で言わないの」
「あのおじさん怖い顔しているけど、本当はウルトラ善人なんだ。善人アプリが教えてくれているんだから。写真を撮って、クラスのみんなに写メしておこう」
「なんてことするのよ。まだこっちに気づいていないからいいけど」
「クラスのみんなに見せてあげるんだ。みんなびっくりするよ」
「善人アプリが間違っているってこともあるでしょ。善人アプリをむやみに信じちゃいけないわよ。まさか、日頃善人アプリで遊んでいるんじゃないでしょうね」
「ぼくは遊んでいないけど、ケンちゃんや正君は遊んでいるよ。善人アプリで大人の人を調べて、85点以上の人に話しかけて、お菓子やおもちゃをねだっているんだって。みんな嬉しそうに何か買ってくれるらしいよ。良い人だからね」
「そんな恥ずかしいことするんじゃないわよ。善人の中にも悪い人はいっぱいいるんだから」
「えっ、善人にも悪い人いるの」
「大人になったらわかるの。大人の人に近づいちゃいけないわよ。いくら85点以上の人だったとしてもよ。あの人を見たらわかるでしょ。見なくていいの。100点でも0点じゃないの。誰が見ても悪い人よ」
「誰が見ても悪い人かもしれないけれど、善人アプリが見たら100点満点なの。善人アプリの方が正しいんだ。ママのような偏見がないもの」
「そんなわけがないわよ。もう、屁理屈は言わないの。とにかく悪い人に近づいてはいけないわよ」
「善人アプリで60点未満の悪い人には近づかないようにしているんだ。公園で話しかけられても、善人アプリで確かめて60点未満だったら、走って逃げるんだ」
「そんなことに使っているの。走って逃げなくてもいいでしょ。相手も驚くでしょうに」
「だって、ケンちゃんがお母さんからそう教わったんだって」
「みんなそんなことしているの」
「しているよ。ママ、知ってる? 太郎君のお父さん、56点なんだって。悪人には見えないんだけどね。これからはお父さんがいる時に、太郎君の家に遊びに行ってはいけない、と言われているそうだよ」
「太郎君のお父さん、とても明るい人で、少年野球の指導も熱心にしていたわよね。全然悪い人には見えないんだけど、注意した方がいいのかもしれないわね」
「そうでしょ。みんな注意しよう、と言っているんだ」
「ママがそう言ったとお友だちに言ってはいけないわよ」
「大丈夫。
太郎君のお父さんもみんなに避けられていることを知っているんだ。だって、お父さんも56点だってわかっているんだから」
「そうよね。みんな自分の点を知っているのよね」
「お父さんも点数を上げようとして、本を買っていろいろ勉強しているらしいんだけど、点が上がらないらしいんだ。かわいそうだよね。この前は、訪問販売の人が来て、高いサプリメントを買わされたそうだよ。でも、効き目はなかったって」
「太郎君のお父さんも必死なのね。別に56点でも関係ないのにね」
「そうだよね。ずっといい人だったのにね。善人アプリができたばっかりに、子供に嫌われるようになったって、毎日泣いているらしいよ」
「何とかならないものかしらね。でも、太郎君のお父さんと二人っきりになってはいけないわよ」
「うん、気を付けるよ。でも、さっきのあの怖いおじさんが100点だっていうのは、凄いことでしょう。あの人きっと神様だよ」
「どうしたのかしら。善人アプリにバグがあるんじゃないの。あの人どう見てもやくざでしょ。決していい人じゃないわ。ああいう怖い人にスマホを向けてはいけないわよ。気を付けて頂戴。誘拐されるわよ。
これからは誰にも善人アプリをかざしてはいけないわよ。世知辛い世の中になったんだから」
つづく




