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8-1 神

8-1 神

 「兄貴、このアプリ知ってます。今、流行っているらしいんですよ」

 「なんだ、そのアプリは」

 「善人アプリって言うらしいんですがね。この前、キャバ嬢がおれの顔にスマホをかざしたから、いったい何すんだよって怒鳴ったら、すっとぼけた顔で、善人アプリを知らないのかってぬかすんですよ」

 「バカか、おまえは。善人だって? あの良い子・悪い子の良い子の善人だろう。善人なんておれたちにとって真逆なものじゃないか。ちゃんちゃら笑わせてくれるぜ。おれたちの辞書には、どこを探しても善人はないんだ。おれたちには悪人アプリの方が似合っているんだ。覚えとけ」

 「でも、おれ81点だったんですよ。女が驚いて、おれを善人だって言うんですよ。その女は71点だって言うんです。71点でも自慢するんですよ」

「ゴローが81点なら、みんな90点以上じゃないのか。いや、みんな100点か?」

「その女が言うには、たいていの奴は70点だって言うんですよ。だから、71点を自慢して、来る客、来る客、飽きもせず、みんなを測っていたそうなんですよ」

「じゃ、ゴローの81点は凄いのか」

「そうなんですよ。今まで来た客で80点以上はおれで2人目だそうなんですよ。1人目は80点で、おれが最高点だそうです」

 「ゴローが最高点か。信じられねえな。そのキャバクラ、人間のカスばっかり集まってんじゃねえのか」

「おれもそう思ったんすけど、世の中70点だらけらしいですよ」

「ゴローが善人か? 世も末だな。おまえは筋金入りのチンピラじゃねえか。少年院を出たり入ったりしていた男のどこが善人なんだ。その女のスマホ、壊れてたんじゃないのか」

 「おれもそう思って、おれのスマホでも試したんです。するとやっぱり81点だったんですよ。店にいるみんなのスマホで試してみたんですけど、全部81点でした。おれ81点で、店にいる奴の中で一番だったんですよ」

 「はしゃぐんじゃないよ。それ、頭の悪さ測ってんじゃないのか。きっと頭の悪い奴の点が高く出るんだよ、きっとそうだ。でも、よかったな。学校のテストでこんなに高い点をもらったことないだろう。いつも0点だったもんな」

 「ひどいな兄貴。兄貴も知っているだろう、あのかけ算のできないテルミだって70点だったんですよ。頭の悪さには関係ないって」

 「かけ算は、おまえだってできないんじゃないのか」

 「九九くらい言えますよ」

 「そりゃあ、上出来だ。おっ、何をするんだ。勝手におれの写真を撮るんじゃないよ。ぶっ殺すぞ」

 「兄貴、凄いぜ。100点が出た。満点だ。パンパカパーン、トリプル役満に、大穴ゲット。兄貴は超・超・超・超・超・超・善人だ。完全無欠の善人だ」

 「バカか、おまえは。おれのどこが善人だ。バカも休み休みに言え」

「でも、善人アプリが100点を出したんですぜ。見てくださいよ」

「バカ、こんな点が信じられるか。おれが善人でないことはゴローが一番よく知っているだろう。人殺し以外の悪いことは、何でもしてきたからな。おれは正真正銘の悪党よ」

 「そうですよね。兄貴は悪党ですよね。このまえもやくざを半殺しにしたものね」

 「おれのしまを荒らすからよ。なめられたら終わりのこの世界だからな。

おまえのスマホ、きっと壊れてんだ。ちょっと貸してみろ、おまえを測ってやるから・・・。81点だな」

「そうでしょう。81点でしょ。壊れてないんすよ。兄貴は100点なんだ」

「ちょっとおれのスマホにもその善人アプリちゅうのをインストールして、測ってみてくれ」

「へい。

やっぱり100点すよ。凄いっすね」

「100点なんて、世の中にはざらにいるんだろう」

「いや、これまで誰もいないそうなんすよ。でも、どうして兄貴が100点だってことが、これまでばれなかったんだろう」

「おれの顔にスマホを向ける勇気のある奴がいると思うか?」

「そりゃあ、いねえ。そうだね。誰も兄貴の顔を調べねえからわからなかったんだ」

「ゴロー、このことは誰にもしゃべるんじゃねえぞ」

「へい。それにしても、どうして兄貴の顔が100点なんだろう。顔つきは怖いですよね。警察だってよけて通るくらいですものね」

 「顔つきはしょうがないだろう。以前、チンピラに刀で切りつけられて、顔にこんな大きな傷が残ったからな。あの時は不覚をとったな。金属バットで殴られた跡が右目の上に残っているし。まあ、これも男の勲章よ」

 「兄貴のもともとの顔は良いんすけどね」

 「は、は、は。おちょくるんじゃないぞ」

 「このアプリ、兄貴のもともとの顔を見ているんじゃないですか」

 「もともとの顔ってどんな顔だよ」

 「善人の顔ですよ」

 「だからおれのどこが善人だと言うんだ。つまらんことを言ってると、しばきあげるぞ」

 「だって、おれにとっては優しい兄貴ですよ」

 「まさか、おまえが点に細工したんじゃないだろうな。おちょくっていたら本当にどつくぞ」

 「おれみたいに頭の悪い人間にそんな難しいことができるわけないじゃないですか。このアプリ、きっと人間の心が分かるんですよ」

 「ゴローが81点の善人だというのは、おれも認めるよ。そこらの根性の曲がったサラリーマンより、おまえの方がずっと素直な奴だよ。心の奥が透明だ」

 「素直な人間は善人なんですかね? 心の奥が透明だと善人なんですかね?」

 「根性の曲がった人間よりは善人だろう。心の濁った奴よりは善人だろう」

 「兄貴からそんなことを言われると、照れるじゃないすか。子供の頃から親に虐待され、物心ついたときには誰からも嫌われ者ですよ。親を半殺しの目に合わせて家を飛び出したのが、中学2年の夏ですよ。それからはやくざな生活ですよ。そんなおれのどこが善人なんですか」

 「ゴローが善人でなくて、誰が善人なんだよ。ゴローがどんな悪いことをしようが、おれから見たら、おまえは間違いなく善人だよ。お天道様はお見通しだ。ははは、おれたち、お天道様が出ている道を歩いてないけどな」

 「おれが善人なら、やっぱり兄貴は超・超・超・超・善人、いや神様、仏様だ」

 「バカ言ってんじゃないぞ。この話はここらでやめだ。なんぼ話してたって銭にはならない。

このところ、あの店の上りが少ないようだけど、あいつがちょろまかしてんじゃないのか。呼び出して、やきを入れてやろう。そう言えば、あいつの娘、高校生だったな。客でも取らすか」

 「いいですね。上玉ですよ。早速手配します」

 「あのじじい、たいそう金をため込んでいるらしいから、資産がどのくらいあるか確かめておけ。根こそぎいただくぞ」

 「兄貴といると張り合いがあるな。人生こうでなくっちゃ」


                                         つづく


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