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6-2 寸借詐欺

6-2 寸借詐欺

 「みんなって、どういう意味ですか」

 「しらばっくれなくてもいいのよ。私が善人アプリで90点だということは、ユーチューブとかなんとかいうもので有名なんでしょ。前に取材に来たからね。それ以来、月に一人はあなたのような若者が来て、昼ご飯を食べて行くのよ。お金を落としたという手口も同じね。他のパターンはないのかしら、面白くないわ。

この前なんか、偶然二人が我が家で鉢合わせたこともあるのよ。ばつが悪そうだったわね。でも、一緒に食事をして、金を借りて、仲良く一緒に帰っていったわね」

 「いえ、私は決して・・・」

 「いいのよ。あなたは88点で善人なのよ」

 「えっ、いつのまに」

 「公園で私に近づいてくる時に測ったのよ。あそこに座っているとあなたと同じような人が声をかけてくるのよ。あなたで7人目かしら。

最初の頃は心配になってご近所さんに相談したんだけれど。すると、みんながこの善人アプリをすすめるのよ。悪い人間は善人アプリでわかるから、そうした人たちは相手にしないか、警察に通報した方がいいって教えられたの。相談した警察も、善人アプリを使うように指導するんだから」

 「それでどうだったんですか」

 「最初のうちは、40点以下の見るからに悪そうなおっさんばかり。アプリを使わなくても悪い人だってすぐわかったわよ。でも、かわいそうだからお昼ご飯食べさせて電車賃あげたわ。でも、そのうち40点以下の人はこなくなったわ。

テレビでやっていたけれど、組織的なオレオレ詐欺事件を起こして、たくさんの人が捕まったらしいのね。ばあさんの家で漬物と焼き魚と卵を食べて、小銭を稼いだって、たかが知れているものね。いくら悪人だからといっても、それでは未来がないわよ。もっと大金が入る方に走ったのね。

そうして、しばらく誰もこなくなったと思ったら、あなたのような若者が来るようになったのよ。善人度80点以上の人たちよ。はじめは本当にお金を落としたと思ったの。でも、結局は40点以下の人たちと同じ寸借詐欺なのね。どうしてあなたたちは80点以上の善人なのに詐欺をするの」

「どうしてと言われても・・・。食べるのに困って・・・」

「若い者は働きなさいよ。まさかこれを仕事と思っているんじゃないでしょうね」

「いえ、決してそんなことは」

「まあ、そのうち私もあなたたちと話をするのが楽しくなったんだけどね。2万円くらい、ホストクラブに行ったと思えばいいじゃないの。あら、私はホストクラブに行ったことがないんですけどね」

 「ホストクラブですか。お察しの通りです。ぼくは3か月前までホストクラブで働いていました。お客ともめて首になりました。たった2千円借りただけですよ。たしかにそれで5回目でした。でも、合わせてもたかが1万円ですよ。その女性にしたらはした金です。いつも喜んで貸してくれていたのに。このことが店にばれて、首ですよ。はした金なのに。

それでネットでこの仕事、いえ、仕事じゃないかもしれないですが、このことを見つけたんです。断っておきますが、今日が初めてです。おばあちゃんが初めてです。本当です。お金、必ず返しますから。本当の仕事を見つけて、働いて絶対に返しますから」

 「あなたのそういうところが善人なのね。あなたいま心底そう思っているでしょう」

 「ええ、心底そう思っています。嘘はつきません」

 「そう、あなたは嘘をついてはいないわ。でも、それがあとで嘘になってしまうだけ。あなたは意志が弱いだけなのよ。自分の家に帰って2・3日もすると、腹が減ってきて、また安易な道に走ってしまうのよ。禁煙を破るようにね。凄い罪悪感を感じながら、それでいて軽く流されてしまうのよ。客からお金を借りたときも、すぐに返そうと思っていたわよね。そこに偽りはなかったはずよ。しかし、いつものようにそれができなかったのよ。意志薄弱だから」

 「いえ、もう決して悪いことはしません。私は88点の善人なんですよ。自分が88点の善人だということを知る前は、たしかにいい加減に生きてきました。でも、88点だと知ってからは正しく生きようと思ったんです」

 「でも、私のところに金を騙しにきたわよね」

 「これを最後にしようと思ったんです。すぐ返しにきます。88点の善人なんですから」

 「そうね。88点の善人。88点の意志薄弱。善人の誰もが、意志が強いとは限らないのよ」

 「意志薄弱ですか」

 「そう、意志薄弱なお人よしよ。誰からも警戒されずに、受け入れられるお人よしよ。だけど、あなたは辛いことに耐える力がない。責任感もない。ただ流されるだけよ」

 「流されてどこが悪いんですか。いいじゃないですか。耐えるのが面倒なんですよ」

 「少しの我慢ができないし、思慮もないのよ。お人よしは悪に落ちていくだけよ」

 「私はお人よし度が88点ということになるんですか」

 「多分。善人でもいろいろなタイプがいるんじゃないの。あなたはお人よし善人よ」

 「そう言えば、子供の頃からお人よしと言われてきました」

 「そうでしょ。お人よしはそれほどの褒め言葉じゃないわ。それでもお人よしを改めることができないならば、私のような年寄りになるまで、ずっとお人よしでいることね。そうすると磨きがかかってくるわよ」

 「そんなものですか」

 「そうじゃない。詐欺師だとわかっていて飯を食わせて、お小遣いをあげているんですからね。こんな私をお人よしと呼ばずして誰をお人よしだというのよ。筋金入りのお人よしよ」

 「なんか気持ちがいいですね」

 「こんなところで同意するんじゃないわよ。

それよりも、そろそろ準備をしないと電車に間に合わないわよ。タクシーを呼ぶからね」

 「どうも、すみません」

 「あんた、こんなことしていたら、いつか警察に捕まるわよ。困ったらまた私のところに来なさい。ご飯ぐらい食べさせてあげるから。なんなら一緒に暮らしてもいいのよ」

 「えっ」

 「こんなばあさんと一緒に暮らすのは嫌でしょう」

 「いや、そんなことはないです」

 「そうしたところが、お人よしなのよ。とにかく、またいらっしゃい」

 「かならず来ます。お金を返しにきますから。ぼく、お人よしから本物の善人になって見せますから。努力して、88点に恥ずかしくない善人になってみせます」

 「88点、88点、ってよっぽどの自慢なのね」

「ホストクラブには88点はいませんでしたから。お客さんの中にもいませんでした。最後に店長は、88点だから信じていたのに、って言っていました」

「別に88点の善人にならなくていいんだから。88点に振り回される人生はバカバカしいわよ。さあ、タクシーが来たわ」

 「ありがとうございます。ご飯美味しかったです。焼き魚も卵も美味しかったです。漬物も美味しかったです。ぼくが大学生でないことは話しましたっけ。住んでいるのは東京じゃなく群馬です。田舎は山口や福岡ではありません。嘘をついてごめんなさい。おじいちゃんやおばあちゃんと会ったことがありません。田舎がどこかも知らないんです」

 「いいのよ。またこの田舎にいらっしゃい」

 「はい、きっと来ます」

 「これだけは覚えておきなさい。魚の食べ方が上手な人に悪い人はいないんだから」

 「はい。決して忘れません」

「さて、次はどんな善人が来ることやら」


                                         つづく


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