4-1 ホームルーム
4-1 ホームルーム
「アッチャン、43点だよ。きっと、相当な悪に生まれてきたんだ。中学生のうちに性根を入れ替えないと、将来どんな悪いことをするか、わからないからね」
「アッチャン、今まで何にも悪いことしてないよ」
「今はいいかもしれないよ。だけど、これからだよ。将来かっぱらいをしたり、強盗をしたり、殺人を犯すかもしれないんだよ。私たちがきちんと教育するのが、友達というものじゃないの」
「でも、善人アプリで測らなかったら、アッチャンは別に悪い奴だということにはならなかったはずだよ」
「ぼくたち騙されていたんだよ。いや、アッチャンは騙していたつもりはないかもしれないけど。本人に自覚症状はなかったんだから。そういう意味では、アッチャンには責任はないんだよ。善人アプリは顔に隠された本性を見ているんだからね」
「思い出しました。かれは小学校3年生の時、ぼくから消しゴムを借りて返していません」
「ただ忘れただけじゃないの。あなただって私が貸した本を返さなかったじゃない」
「えっ、いつのことだよ」
「小学校1年生の時よ」
「何の本だよ」
「アリとキリギリスよ」
「まあ、いいじゃない。昔のことだし。忘れちゃったよ」
「そうよ、みんな小さな間違いはあるじゃない、アッチャンが消しゴムを返さなかったのだって些細なことじゃない。小さな間違いを、悪いことをしたと決めてかかるのは、よくないんじゃない」
「でも、ぼくたちと明らかに違うのは、善人アプリの点が一人だけ有意に低かったことなんだ。これは事実だよ」
「そうだ、そうだ。60点以下はアッチャンだけだよ。それも43点。これはあきらかに異常だよ」
「異常なのはアプリの方じゃないの。もう一回全員で測り直しましょうよ」
「ああ、いいよ。きみもいいよな」
「ほら、やっぱりアッチャンだけ43点だ。どこかに原因があるとしか考えられないね」
「何なんだよ。その原因って」
「遺伝子に原因があるんじゃないの。塩基配列に問題があるとか」
「そんな遺伝病みたいに言っては、失礼でしょ」
「じゃあ、どこが悪いっていうんだよ」
「遺伝子じゃなきゃ、環境だ。家庭教育が悪かったんじゃないの」
「なんてこと言うのよ。アッチャンのご両親を知っているけれど、とても良い人たちよ」
「じゃあ、小学校の時の先生か友達が悪かったんじゃないの。なにかトラウマをかかえているんじゃないのか」
「ぼく、アッチャンと小学校の時からずっと一緒だけど、いじめられたようなことはなかったと思うけど」
「あなたの知らないところで何かがトラウマになったのよ。友達にしゃべれない辛いことがきっとあったのよ」
「アッチャン、何か思い当たることある?」
「いや、特別ないけど」
「そんな過去のことを詮索するのはやめようじゃないか。これからかれとどのように付き合っていくかが大事なんじゃないか。かれを異常者扱いをするのは、まるで中世の魔女狩りじゃないか。もっと前向きで建設的な話をしようよ」
「中世の魔女狩りを見たことがないからわからないけど、アッチャンの過去を問い詰めても解決にはならないのは確かだね」
「それじゃ、提案だけど、私たちは60点以上から80点未満の凡人だったけど、ハルヨチャンだけが82点の善人だったじゃない。ハルヨチャン、善人として何か意見はない?」
「82点って言われても、別にみんなと同じだから」
「ハルヨチャン、82点の自覚がないの? 善人としての自覚が足りないわよ。あなただけよ、善人として選ばれたのは」
「選ばれたって、そんなに仰々しく言わなくてもいいんじゃないの。そもそも、選んだのはただのアプリでしょ」
「茶々を入れるのはやめて頂戴。いま、その善人アプリを前提に話をしているのよ。その前提を否定する気?」
「いや、そのつもりはないけど」
「話を元に戻しましょう」
「80点を超えた人は、隣のクラスにもいないそうよ」
「そう言えば、昨日隣のクラスの連中が、ハルヨチャンを見に来てたのはそのせいか」
「そうよ。そのくらい選ばれた人間なのよ。しっかりと自覚してくれないと困るわよ」
「善人として一生生きていかなくてはならないのよ。きっといいところに就職できて、金持ちの人と結婚できるんだわ」
「勉強できなくてもいいのね。善人って」
「うらやましい」
「そんなこと言うのは、やめましょうよ。善人だって大変なことがあるかもしれないんだから。ハルヨチャン、なにか言ったらどうなの。反論した方がいいわよ」
「おとなしすぎるのよね。おとなしい人が点数高いのかしら」
「そんなことはないよ。アッチャンだっておとなしいじゃないか」
「どうしてあなたは点数が高いのよ」
「そんなこと言われても」
「髪型じゃないの。ショートカットが印象良いのかも」
「でも、他のショートカットの人たちは凡人だったわよ」
「背が高いのは関係ないわよね」
「あくまで顔だけだからね」
「じゃあ、最近何かいいことした?」
「いえ、別に。家で夕ご飯の後の食器を洗ってるくらいかな」
「へえ、食器洗ってるんだ」
「お母さんも働いているから、家事を手伝わなくっちゃあいけないんだ」
「私だって手伝っているわよ。食器洗いだけでなく、日曜日は洗濯もしているわよ」
「えっ、おまえが。意外だな」
「あら、私だって」
「あ、それは嘘だね。調子こくんじゃないよ」
「あっ、それはひどいわ」
「まあまあ。女子は結構家の手伝いをしているんだね。でも、それは善人の点数には関係ないようだ。そんなことじゃないような気がするんだ。あくまで顔だからね」
「いや、そうした日々の善行が顔に現れるんじゃないの」
「顔が先か、行いが先か、それが問題だ」
「なに気取ってるのよ。点数が先よ」
つづく




