第21話:デジャブ
ブラックの手がかりを探す中、大蜘蛛、シュヴァルツ、ハエの大群を撃退したシンとアラストルを誘う様に壊れた塔の上で夕暮れの空が広がるのだった。
アラストルは我に返ると落ちて来たシンに気づいて駆け寄る。
「シン!大丈夫!?ハエにやられたの!?」
揺り起こされたシンは起き上がると首を横に振って立ち上がる。
「ハエじゃねー」
シンはそう言うと首を傾げて剣を鞘に収めるアラストルと共に天を見上げる。
「綺麗にぶち抜いたなぁ」
「うん。何か大きいのが落ちてきて頭が真っ白になって……。気づいたら壊れてた」
アラストルの言葉を聞いたシンは「マジかぁ」と呟くと背中から筋肉質な黒い翼を出す。
「アラストル。上に行こう。上からならまだ行ってない場所見つけられるかもしれねぇ」
頷いたアラストルを抱き上げるとシンは羽ばたいて飛び上がり、巨大な煙突の様になった塔から出ると周囲を見渡す。
すると、空から見てもわかる程大きな門から続く壁に囲まれた広場の様な場所でシンに向かって手を振る人影が見えた。
「シン!私はここよ!!」
その言葉を聞いたシンが広場に向かって急降下するとアラストルの悲鳴が虚空に響き渡る。
シンは着地すると文句を言うアラストルを下ろすが、そこには自分を呼んだブラックの姿は無かった。
「……ちょっと!?聞いてるの!?シン!!」
「……ん?あぁ。悪ぃ」
アラストルの怒りの声でシンは我に返るが、その瞬間に地響きの様な音と共に壁の向こうから大蜘蛛が現れる。
「クハハハ。やはり、貴様あの女の為に来ていたのか。あの方に逆らう様な愚か者が居るとは。人間共は随分平和ボケしたらしいな」
そう言うと大蜘蛛は跳び跳ねてシンとアラストルの目の前に着地する。
「あの方の許しも得たからな。本気でお前を殺してやる」
そう言うと大蜘蛛の身体が黒い炎の様な魔力に包まれたかと思うとその魔力で形作られたサソリの尾の様な物が現れる。
アラストルが身構える中シンは大蜘蛛の複眼の中でも一際大きな眼を睨むと口を開く。
「こっちから聞く暇が省けた。俺の仲間を返してもらおうか」
シンの言葉を聞いた大蜘蛛は笑いだすと漆黒の尾をシンの目の前に振り下ろしてくる。
尾が刺さった石畳が腐食していくのを見たアラストルが怯む中、シンは大蜘蛛を睨み続ける。
「あのお方とか言う奴の事、俺の仲間の居場所を言え。そうすれば見逃してやる」
「ほざけ!!!」
大蜘蛛が尾を振り回すとシンは背中の剣を抜いて尾を弾くと突きを打ち込もうとするが、前顎で弾かれてしまう。
弾かれた剣を地面に刺すとシンは剣を軸にして大蜘蛛の顔面に蹴りを浴びせると剣を地面から抜いて背中に収めて殴りかかるが、大蜘蛛は尾でシンを打ち上げたかと思うとそのまま尾を突き刺して地面に叩きつけてしまう。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
刺さった尾から流れ込む灼熱と激痛にシンの視界から色が消えて、己の咆哮に聴覚が支配される中アラストルが大蜘蛛の尾を剣で斬ると大蜘蛛も悲鳴をあげながら後ずさる。
「自慢の尾も斬られたら片無しね」
アラストルが剣を構えて言うと大蜘蛛が唸り声をあげた瞬間に尾が再生される。
「そ、そんな!」
アラストルが悲痛な叫びをあげると息も絶え絶えになったシンが立ち上がる。
シンは腹から抜いた尾を投げ捨てると右腕をロケットランチャーに変えると大蜘蛛に撃ち放つ。
アラストルも蒼剣に祈りを込めて大蜘蛛に雷を落とす。
ロケット弾と雷を浴びた大蜘蛛の身体は炎に包まれるが、大蜘蛛は悲鳴もあげずに尾で炎を薙ぎ払うと飛び上がり、シンたちに向かって落ちてくる。
シンとアラストルは大蜘蛛の巨体を避けると二人同時に剣で突きを打ち込む。
大蜘蛛が怯むとシンは剣を背中に収めてから右腕をショットガンに変えるとアラストルが斬りつけた場所に魔弾を撃ち込む。
大蜘蛛が悲鳴をあげて後ずさるとシンは右腕を元に戻して背中の剣を抜き、魔力を込めて刀身を伸ばすと大蜘蛛の巨体に魔力の刃を振り下ろす。
シンの剣撃で裂かれた箇所にアラストルの雷が落ちると大蜘蛛の身体は蒼炎に包まれる。
大蜘蛛の悲鳴が響き渡る中、シンは再び剣を振り上げると魔力の刃を大蜘蛛に振り下ろす。
剣撃で蒼炎が消えるが、その瞬間に雷が落ちて大蜘蛛の身体は再び蒼炎に包まれる。
シンは刀身を戻して剣を背中に収めると右手を拳銃に変えて魔弾を撃ち放つが、蒼炎を消そうと振り回された尾で魔弾は弾かれてしまう。
大蜘蛛は雄叫びを上げると口から無数の光弾の様な魔力を吐き出してくる。
大蜘蛛の魔力を食らったシンが吹き飛ぶと大蜘蛛はアラストルに向かって走り出す。
六本の脚で駆け寄る大蜘蛛の速度はアラストルに逃げる猶予など与えなかった。
大きく開かれた口を目前にしたアラストルの脳内には「死」と言う単語と感じるであろう激痛が浮かぶ。本能からかアラストルは目を閉じたその瞬間
「裁きの銃弾!!」
シンの声が頭の上から聞こえてアラストルが目を開くと大蜘蛛は悲鳴をあげながら地面に口づけをするかの様に口を地面に埋めていた。
シンは着地するとスナイパーライフルに変えていた右腕を元に戻してから背中の剣を抜いて魔力で刀身を伸ばすと大蜘蛛に向かって振り下ろす。
シンの剣撃を受けた大蜘蛛が悲鳴をあげるとアラストルは祈りを込めてから蒼剣を振り下ろして雷を大蜘蛛に浴びせる。
大蜘蛛の身体が蒼炎に包まれるとシンは剣を背中に収めて右手をハンドマシンガンに変えて魔弾を撃つが大蜘蛛はシンの魔弾など物ともせずに全身を震わせると体表の毛を飛ばしてくる。
シンがアラストルを庇うと全身の後面に杭の様な大蜘蛛の毛が刺さってしまう。
大蜘蛛の毛が深く刺さって動けないシンを嘲うと大蜘蛛は尾を突き刺そうとしてくるが、アラストルはシンを押し倒して共に尾を避ける。
シンは何とか立ち上がるが、刺さった毛のせいで動きが緩慢になっていた。
アラストルはシンに刺さった毛を抜こうと近づくが、大蜘蛛が飛び上がったのを見たシンは「来るな!!」と叫ぶ。
シンの叫びを聞いて歩みを止めたアラストルの前でシンは大蜘蛛に潰されて前顎で何度も地面に打ちつけられてしまう。
「随分、冷酷なんだなぁ?動けぬ仲間を見捨てて自分だけ助かるとは」
大蜘蛛の言葉にアラストルは首を横に振って蒼剣を構えるが、大蜘蛛は全身を震わせて体表の毛をアラストルに向かって撃ち飛ばす。
その瞬間に蒼剣が光るとアラストルを中心にドーム型の青いバリアの様な物が現れると飛んで来た大蜘蛛の毛はバリアに触れた瞬間に炭化して消滅する。
「見ろ。貴様は自分や仲間を守る術を持っているのに自分を守る事にしか使わない。お前は人の形をしているが、俺と同じ魔物だ。この人でなし。お前のせいでこの男は無駄に傷つき、お前たちはここで死ぬのだ!!」
大蜘蛛の言葉を否定するかの様に小刻みに首を横に振るが、アラストルは蒼剣を手から放すと膝から崩れる。
「……違う。……私は……お前とは……違う……お前……とは……違う……。」
アラストルがうわ言の様に何度も呟く中、大蜘蛛は動かなくなったシンに背を向けてアラストルの前に尾を垂らす。
「たった一言で「壊れる」様な矮小な貴様らがこの俺の前に立つ事がそもそも間違いなのだ。今の姿こそが貴様らには相応しい。死ね」
大蜘蛛が尾を振り上げた瞬間、大蜘蛛が影に覆われる。
大蜘蛛が振り返ると夕日を背負ったシンが宙に居た。
「裁きの銃弾!!」
シンの魔弾を受けた大蜘蛛の顔面が地面に埋まると激震が走る。
シンは着地すると右腕を元に戻してアラストルに駆け寄る。
「私は……違う」
呟き続けるアラストルを見たシンは跪いてアラストルの目線に合わせると涙を流しながら虚ろな目をしているアラストルに語りかける。
「そうだ。お前はあいつとは違う。俺の仲間だ。俺の事を信じてくれて、涙を流せる心を持ってる。あいつとは大違いだ。アラストル。アラストルは俺の大切な仲間だ。だから、何を言われても耳を貸すな。俺を信じろ」
そう言ってシンはアラストルの涙を指で拭うと拳を握る。
背後から近づいてきた大蜘蛛はシンとアラストルを纏めて仕留めようと尾を振り下ろすがシンは立ち上がると振り向きざまに裏拳を打ち込んで大蜘蛛の尾を殴って弾く。
「俺の仲間を泣かすんじゃねーよ!!!」
「下らん事をほざくな!!死ねぇ!!!」
大蜘蛛が尾を振り回すがシンはその全てを拳で殴って弾く。
そんな中、アラストルはまだ呟いていた。
「私は……違う。……私は……違う?……私は……あいつと……違う……?」
シンは大蜘蛛の尾を殴りながらアラストルの呟きに応えるかの様に叫ぶ。
「アラストルはお前なんかと違う最高な奴なんだ!俺を殴ったり、雷浴びせてくるけど、いつでも心配してくれて、助けてくれる最高の仲間だ!!だから、アラストルを泣かせたお前を絶対に許さねぇ!!!」
シンが叫び終えると大蜘蛛に雷が落ちる。
シンが振り返ると泣き腫らした顔で照れくさそうに笑うアラストルの姿が有った。
シンは頷くとジャンプして蒼炎に包まれた大蜘蛛の顔面に飛び蹴りを食らわせた後にフック、アッパーと殴った後に右ストレートを打ち込むと同時に拳から魔力を撃ち放つ。
シンの魔力を真正面から至近距離で浴びた大蜘蛛が吹き飛ぶとシンは背中の剣を抜いて走り出すと大蜘蛛に突きを打ち込もうとするが、前顎で打ち上げられてしまう。
シンは空中で体勢を整えると右腕をライフルに変えて狙撃しようとするが、大蜘蛛は全身を震わせて体表の毛を広範囲に飛ばしてくる。
アラストルは蒼剣の張った結界で毛を防ぎ、シンは大蜘蛛の毛が何本も刺さりながらも落ちて来た己の剣と共に着地すると瞬きをした瞬間に瞳が紅くなりその瞬間に魔力で全ての毛を弾き飛ばす。
シンはジャンプすると大蜘蛛に飛び蹴りを打ち込もうとするが、大蜘蛛の前顎で防がれてしまう。
シンが着地すると大蜘蛛は口から光弾の様な魔力を放ってシンを吹き飛ばす。
大蜘蛛は吹き飛んだシンを追いかける様に飛び上がるとその巨体でシンを踏み潰した後に前顎で何度もシンを地面に叩きつける。
「大口を叩く者がどうなるのか!奴隷風情の人間たちが俺たち魔族に逆らえばどうなるか教えてやる!!くたばれぇ!!!」
何度も前顎を振り下ろした大蜘蛛の動きが止まると、ゆっくりだがしっかりとした足取りでアラストルが大蜘蛛に近づいていく。
「ほぅ。自ら処刑されに来るとはな」
大蜘蛛がそう言うとアラストルは首を横に振る。
「違うわ。私は私の大切な仲間を助けに来たのよ。それとさっきのお礼もしなきゃいけないしね」
アラストルはそう言うと大蜘蛛の顔面を蒼剣で斬り上げる。
怒り狂った大蜘蛛が吠えると大きく開かれた口の中にシンの魔弾が何発も撃ち込まれる。
大蜘蛛が悲鳴をあげて後ずさるとシンは右手を元に戻してからジャンプする。
大蜘蛛は雄叫びをあげながらアラストルに駆け寄るが
「もう怖くないわ。私は一人じゃないもの」
アラストルがそう言って蒼剣を振り下ろすと大蜘蛛に雷が落ちる。
大蜘蛛の身体が蒼炎に包まれると大蜘蛛は悶え苦しんで空に向かって咆哮するが、その瞬間に天を仰いだ大蜘蛛の腹部にシンの飛び蹴りが命中してシンは大蜘蛛を貫いて着地する。
その衝撃でひっくり返った大蜘蛛は風穴の開いた無防備な腹部を空に向かって晒す姿になる。
「(何故だ?この既視感は……?以前にもこの様な事が有ったか?)」
大蜘蛛の脳裏には過去の事が思い起こされていた。
遥か昔
「……を泣かすんじゃねーよ!!!」
その言葉を聞いた直後に大蜘蛛は今と同じ様に力無く腹を天に向けていた。
その時に命を奪い合った悪魔を思い出しながら大蜘蛛はもう動く事すらせずに絞り出す様に声を出す。
「……貴様ら。……ウェイドと言う……名の悪魔を……知っているか?」
「ウェイド?知らないわ」
アラストルが答えるとシンは地面に刺さってる剣を抜いて背中に収めてから口を開く。
「ウェイドってのは俺の親父の名だ」
シンの言葉を聞いた大蜘蛛の全ての複眼が青に戻ると笑いだす。
「クハハハハハ……ハハハハハ……。そうか。道理で……勝てぬ訳だ。……なら、あの小娘とウェイドの子供が貴様か……。こんな因果があるか……?……お前の探してる奴は……あの方の……」
大蜘蛛の言葉を遮る様にいきなり爆発が起きると大蜘蛛の巨体は砕け散っていた。
「……何が起きたの?」
アラストルが剣を鞘に収めて戸惑っているとシンは首を横に振る。
「俺にもわからねぇ」
二人が言葉を交わしていると轟音を立てながら門が開く。
アラストルはシンの方を向くと「行く?」と訊ねる。
シンは頷くと門に向かって歩き出す。
「シン!」
アラストルに呼び止められたシンが振り返るとアラストルは抱きついて来る。
「ありがとう。私、シンが大切な仲間だって言ってくれて凄く嬉しかった」
アラストルの言葉を聞いたシンは笑うと「嬉しかった?今は嬉しくないのか?」と
ふざけて訊ねるとアラストルは首を横に振り、シンの顔を両手で包むと背伸びをして唇を重ねてくる。
シンが硬直するとアラストルは背伸びを辞めて唇が離れる。
アラストルはニッコリと笑い「これからもよろしくね。シン」と告げてくる。
シンは頷くがアラストルに背を向ける。
「おぅ。よろしくな。でも、キスはもうするな。そういうのはずっと一緒に居たい大切な相手とするもんだ」
シンはそう言うと歩き出す
「ずっと一緒に居たいからしたんだよ?」
アラストルはそう言いかけたが、大蜘蛛の「あの女の為に」と言う言葉を思い出して言葉を飲み込むと
「……うん。わかった」
そう言ってシンの後を追うのだった。
はい。21話読了感謝です。
今回は大蜘蛛との決着がつき、アラストルのシンに対しての好感度が上がる1話でした。
それでは、次回のお話でお会いしましょう。
失礼します。




