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『ダンジョン水耕栽培』~追放された王室庭師、不毛の地を「水」だけで最強の農園に変える~  作者: Gさん
第2章 『拠点』編

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第9話 菌糸の森

「オーナー! 戻りましたぜ! へへっ……笑いが止まらねぇ!」


『銀の牙』のリーダー、ガリウスが


 息せき切って拠点に駆け込んできた。


 彼らの装備は一新されていた。


 傷だらけだった革鎧は新品のプレートメイルに変わり


 背中にはパンパンに膨らんだ麻袋を担いでいる。


 ドサッ!


 テーブルの上に袋が置かれると、中から眩い光が溢れ出した。


「全部売れました。いや、取り合いになって値が吊り上がったんです。……これが今回の売上、金貨50枚です」


「50枚……!?」


 リリアーナが息を呑む。


 それは、王宮の騎士団長の年収に匹敵する額だ。


 たった一回の取引で、それが手に入ったのだ。


「約束通り、手数料の3割は頂きましたがそれでも俺たちにとっちゃ夢みてぇな大金だ。あんたは俺たちの福の神だよ!」


 ガリウスたちは拝むように俺を見た。


 野菜を食べ続けたおかげか


 彼らの肌艶は良く、筋肉も以前より引き締まっているように見える。


 俺は冷静に金貨を確認し、頷いた。


「商売繁盛で何よりです。……では、次の発注をお願いしても?」


「おうよ!あんたの頼みなら、ドラゴンだって狩ってくるぜ!」



 俺が彼らに渡したのは、金貨と共に作成した「買い物リスト」だ。


「まずはガラス瓶とコルク栓を大量に。マヨネーズやピクルスを瓶詰めにして販売します。生鮮食品より日持ちがし、付加価値もつきますから」


「なるほど、瓶詰めか!それなら遠くの街へも運べるな!」


「次に、大豆と米の種籾。それから……スパイス類の苗木。これらはダンジョン内では手に入りませんから」


 俺の計画は明確だ。


 ダンジョン内で「生産」し、外の資源を「輸入」する。


 ガラス瓶があれば、保存食産業が始められる。


 大豆があれば、味噌と醤油が作れる。


 食文化の充実こそが、生活の質(QOL)の向上に直結するのだ。


「了解だ。……ところでオーナー、ひとつ忠告がある」


 ガリウスが声を潜めた。


「王都じゃ、『謎の野菜』の噂でもちきりだ。王家が調査団を編成するって話も出てる。……あんた、もしかして王宮と何かあったのか?」


 勘のいい男だ。俺は少しだけ目を細めた。


「……さあね。ただ、俺はこの農園を守るためなら何でもしますよ」



 冒険者たちが去った後、俺はリリアーナを連れて


 拠点のさらに奥、『湿気の多い日陰エリア』へと向かった。


「クロード、ここはジメジメしてて暗いわ。何をするの?」


「殿下、農業には3つのサイクルがあります。生産者(植物)、消費者(俺たちや魚)、そして最後の一つが……『分解者』です」


 俺は、枯れたミントの茎や


 剪定した野菜の枝を積み上げた山を指差した。


 これらはただのゴミではない。


「ここへ、前回採取した『光るキノコ』の胞子と俺の魔力を混ぜて植え付けます」


 そう、ダンジョン栽培の第3の柱。「菌床きんしょう栽培」だ。



 本来ならオガクズをブロック状に固めて菌床を作るが


 ここでは魔力を含んだ植物の残骸が最高の培地になる。


 俺が手をかざし、成長促進の魔力を送ると――


 ボコッ、ボコボコッ!


 見る見るうちに、白や紫の美しいキノコたちが菌床から溢れ出した。


「わぁっ! 宝石みたい!」


「これは『月光茸ムーン・マッシュルーム』です。味はシイタケに近く、魔力回復効果が高い。そしてこっちは……」


 俺は、赤黒い斑点のあるキノコを慎重に指差した。


「これは『爆裂胞子茸ボマー・ファンガス』です。衝撃を与えると、麻痺毒を含んだ胞子を爆散させます」


「……え? それは食べられるの?」


「いいえ。これは『地雷』です」



 リリアーナが顔を引きつらせる。


「じ、地雷って……」


「王家の調査団が来るなら、備えが必要です。このキノコをダンジョンの入り口付近に植え付けておけば、天然の防衛ラインになります」


 俺は笑った。


 植物は優しいだけじゃない。


 自然界において、毒や棘は立派な生存戦略だ。


「入り口には『爆裂胞子茸』の地雷原。通路には絡みつく『鋼鉄蔦アイアン・アイビー』を配置。そして奥には、我々の楽園がある」


 俺はキノコの菌糸が


 暗闇の中でネットワークを広げていく様を幻視した。


 菌類は、森のインターネットとも呼ばれる。


 このダンジョン全体に菌糸を張り巡らせれば


 侵入者の位置を感知することも可能になるだろう。


「さあ、忙しくなりますよ、リリアーナ様。美味しいキノコ鍋を食べながら、防衛プランを練りましょう」


 最強の野菜と、最凶の罠。


 俺の『ダンジョン・マネジメント』は、いよいよ本格化しつつあった。

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