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『ダンジョン水耕栽培』~追放された王室庭師、不毛の地を「水」だけで最強の農園に変える~  作者: Gさん
第3章 『聖女教会』編

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第28話 偽りの聖炎

 王都へ流れた『自由都市同盟の野菜』の噂。


 それが教会の耳に入らぬはずがなかった。


 彼らはそれがヴェルデ産であることをに知っていた。


 それは、自分たちがかつて「栄養失調」の責任を擦り付けて追放した


 聖女セシリアが、クロードのもとで


 健やかに生きている証拠に他ならない。


 農園の境界線。


 鈴の音と共に現れたのは


 異端審問官ヴァイパー率いる教会の制裁部隊であった。


「……見苦しい。神に捧げるべき『聖女』を盗み出し、泥にまみれた百姓の真似事をさせるとは」


 ヴァイパーは布越しに


 畑で楽しそうに収穫を手伝うセシリアを睨みつけた。



 異変に気付いたリリアーナが


 俺の隣で一歩前に出る。その瞳は軽蔑に満ちていた。


「あら、また懲りずにいらしたのですか。主を失った野良犬のような顔をして」


 彼女の声は、氷点下の冷たさを孕んでいた。


「……貴様、元王女リリアーナか。落ちぶれた分際で、教会の聖務を妨げるつもりか?」


「はぁ? 『落ちぶれた』……? 笑わせないでください。私は今、人生で最も有意義な時間を過ごしておりますわ。腐敗した教会で、少女一人満足に養えず、栄養学すら無視した狂信に耽る皆様とは違ってね」


 リリアーナは持っていた鎌を突きつけるように続けた。


「セシリア様はもう、あなた方の所有物ではありません。彼女はこのヴェルデの、そしてクロード様の保護下にある『一市民』です。不法侵入を続けるなら相応の報いを受けていただきます」



 ヴァイパーが錫杖を振り上げ、威圧的な魔力を放つ。


「セシリア様! このような不浄な地を離れ、大聖堂へ戻りましょう! 貴女は再び『白の聖女』として、民の祈りと寄付を糧にする、聖なる偶像に戻るのです!」


 だが、かつての怯えていたセシリアはもういない。


 彼女はイチゴの籠を抱えたまま、ヴァイパーを真っ直ぐに見返した。


「……嫌です。私は、もうあの冷たい地下室には戻りません。クロードさんの作った野菜を食べて、みんなと笑って過ごす。今の私は、あそこにいた時よりずっと……神様の近くにいる気がします!」


 セシリアの拒絶に、ヴァイパーの顔が怒りで歪んだ。


「ならば力ずくでも! 異端の魔力に汚染されたその魂を……焼き清めてくれる!」


 ヴァイパーが『聖炎』を放った。


 しかし、それはセシリアに届く前に


 彼女自身が放った圧倒的な黄金の障壁によって、霧散した。


 イチゴを食べて健康を取り戻した彼女の聖法気は


 今や教会の高官を凌駕するほどに高まっていたのだ。



 自分の魔法が赤子の手をひねるようにかき消された事実に


 ヴァイパーは戦慄した。


「ば、馬鹿な……。以前より、法力が何倍にも増しているだと……!?」


「当たり前ですわ」


 リリアーナが勝ち誇ったように告げる。


「適切な食事と休息。そして何より、本人の幸福。それこそが彼女の力の源。あなた方が否定した『食』こそが、本物の奇跡を生んだのですわ」


 ヴァイパーは這々の体で撤退を開始した。


「……覚えおけ。教会はセシリア様を諦めぬ! 次は……王国の騎士団と共に行使される『聖戦クルセイダム』の鉄槌が下ると思え!」


 去っていく彼らの背中を、俺は冷ややかに見送った。


「……聖戦、か。上等だ。こっちはその頃には、街全体を魔導農具で要塞化してやるよ」


 セシリアが俺の服の裾をぎゅっと掴む。


「クロードさん……私、もう負けません。ここが、私の居場所だから」


 彼女の目には、かつての虚ろな光はなく


 確かな意思の灯が宿っていた。

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