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『ダンジョン水耕栽培』~追放された王室庭師、不毛の地を「水」だけで最強の農園に変える~  作者: Gさん
第3章 『聖女教会』編

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第27話 商業の魔女

 王国軍を撃退してから数日。


 ヴェルデ農園は、別の問題に頭を抱えていた。


 それは――『物が余りすぎている』ことだ。


「クロード様、第3倉庫も満杯です! これ以上、トマトもキュウリも入りません!」


 セシリアが涙目で報告してくる。


 リリアーナの魔法と俺の農業知識


 それに加えて難民たちの労働力が加わった結果


 生産効率が爆上がりしてしまったのだ。


「クロードたちが食べて消費するにも限界があるな……。腐らせるには惜しい品質だし」  


 アナスタシアが山積みの木箱を見て溜息をつく。


「ああ。これを『金貨』に変えて塩や衣類、薬などの生活必需品を買わなきゃならないんだが……」


 王国とは敵対関係にあるため、正規の市場は使えない。


 闇商人にも頼んでいるが、あまりの物量に捌ききれない。


 俺たちが途方に暮れていたその時、レオが報告に来た。


「クロード様、南の街道から妙な馬車が来ます。……軍旗はなし。商人のようですが、雰囲気が只者じゃない」



 現れたのは、黒塗りの高級馬車だった。


 護衛には屈強な傭兵を数名従えている。


 馬車から降り立ったのは


 モノクルをかけ、漆黒のドレスに身を包んだ女性だった。


 艶やかな黒髪に、計算高さを感じさせる紫色の瞳。


 そして、ふさふさとした『狐の耳』が生えている。


 亜人の商人のようだ。


「お初にお目にかかります。噂の『独立農園』の主は、あなたですわね?」


 彼女は優雅にカーテシーをした。


「私はエロディ。大陸全土に顧客を持つ、しがない行商人ですわ」


「しがない商人が、オーガ革の靴を履いているとはね。……何の用だ?」


 俺が警戒すると、彼女は妖艶に微笑んだ。


「商機《ビジネス》の匂いを嗅ぎつけて来ましたの。王国が血眼になって探している『奇跡の野菜』……私に見せていただけます?」



 俺は彼女を倉庫へ案内し


 自慢の「プチトマト(品種:リリス)」の木箱を開けた。


 まるで宝石のように輝く、真紅の果実。


 エロディは一つ手に取り、陽の光にかざし、そして口に運んだ。


 プチッ。


 薄い皮が弾け、濃厚な甘みと酸味が口いっぱいに広がる。


「……ッ!?」


 彼女の目が大きく見開かれた。


 狐の耳がピクリと反応する。


「な、何ですの、これ……!?菓子より甘い……? いえ、酸味とのバランスが絶妙……! それに、食べた瞬間に微かな魔力が染み渡る……!」


 彼女は震える手で、もう一つ、二つと口に放り込んだ。


「王都の貴族たちが食べているトマトとは、もはや別の植物ですわ! これを『野菜』と呼ぶのは冒涜です!」


 彼女はモノクルを光らせ、俺に詰め寄った。


「クロード様。この『赤い宝石』……すべて私に預けてくださいませんこと?」


「預ける?」


「ええ。王国は今、食糧難でインフレ状態。ですが、貴族たちは裏ルートで高価な美食を求めています。……私がこれを、『他国の最高級フルーツ』として王都の闇市場や、隣国の富裕層に売りさばいてみせますわ」



 エロディの提案は具体的だった。


 彼女は「自由都市同盟」にコネクションを持つ大商人であり


 王国の包囲網など彼女の流通網の前では無意味だった。


 ヴェルデ産の野菜を、市場価格の5倍で買い取る。


 代わりに、農園で不足している


 塩、香辛料、布地、医薬品を卸値で提供する。


 さらに、王国の内部情報(情勢)を定期的に共有する。


「Win-Winの関係ですわ。あなた方は富と物資を、私は莫大な利益を得る」


 彼女は契約書とペンを差し出した。


 俺はリリアーナたちと顔を見合わせ、頷いた。


「わかった。契約成立だ、エロディ」


「ふふっ、良い決断です。……これで、私の商会は安泰ですわ」


 エロディは大量のトマトと


 ついでに試食して絶叫した「マヨネーズ」を馬車に積み込むと


 嵐のように去っていった。


 ついでに今まで雇っていた闇商人たちもエロディに再雇用してもらった。


 残されたのは、彼女が前金として置いていった、山のような金貨の袋。


「……これで当分、資金には困らないな」


 アナスタシアが金貨の山を見て呟く。


「ああ。これで、さらに設備投資ができるぞ」


 最強の『武力』に続き、俺たちは最強の『販路』を手に入れた。


 ヴェルデの野菜が世界中にばら撒かれる時


 それは剣よりも強く、人々の心を掴む『武器』となるだろう。

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