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『ダンジョン水耕栽培』~追放された王室庭師、不毛の地を「水」だけで最強の農園に変える~  作者: Gさん
第3章 『聖女教会』編

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第26話 それは農具です

 ガン、ガン、ガン!!


 早朝から、農園の一角に鉄を打つ音が響き渡っている。


 新設された工房で


 ドワーフのガントは真っ赤な顔でハンマーを振るっていた。


「カッカッカ! なんだこの『ミスリル』の純度は! 王家の宝剣だって、こんな上物は使っちゃいねえぞ!」


 俺がダンジョン深層から持ち帰った鉱石を前に


 ガントは涎を垂らさんばかりだ。


「ガントさん、頼んでいた『アレ』はできたか?」


「おうよ領主様。……だが、本当にこれでいいのか? こいつは『農具』の域を超えてるぞ」


 彼が差し出したのは、銀色に輝く筒状の魔道具だった。


 俺が設計し、ガントが鍛え、リリアーナが魔力を込めた自信作だ。


高圧魔導洗浄機ハイドロ・ブラスター


 本来は、収穫した根菜の泥を落としたり


 高い枝に水を撒くための道具だ。


 だが、水圧を最大まで高めれば――


「試し打ちだ。あの大岩を狙ってくれ」


 俺がトリガーを引くと


 圧縮された水流が『ヒュンッ!』という音と共に射出された。


 数メートル先の大岩が、音もなく真っ二つに切断される。


「……まるでウォーターカッターだな」


「おいおい、領主様……岩が豆腐みたいだぞ。百姓一揆でも起こす気か?」



 その日の午後。


 平和な農作業の音が、鋭い『警報』によって切り裂かれた。


 風魔法によるサイレンが、農園全体に鳴り響く。


「クロード様! 北の境界線に、王国の騎兵が現れました!」


 警備隊長となったレオが駆け込んでくる。


「数は?」


「10騎。偵察部隊でしょう。……ですが、旗印は『近衛騎士団』。手練れです」


 近衛騎士団。


 王族直属のエリート部隊か。


 俺たちはすぐに現場へ向かった。


 境界線の柵越しに、豪奢な鎧を着た騎士たちが馬を並べている。


「おい! ここの責任者を出せ!不法占拠者どもめ!」


 先頭の男が怒鳴った。


 俺とレオが前に出ると、男はレオの顔を見てニヤリと笑った。


「おや、誰かと思えば『国捨てのレオナルド』ではないか。薄汚い百姓に成り下がったか?」


「……帰れ、バラック。ここは私有地だ。貴様らの権限は及ばない」


 レオが静かに警告するが、バラックは鼻で笑った。


「黙れ。貴様らが匿っている難民と盗まれた物資を全て返してもらおうか。さもなくば、この農園を火の海にするぞ」



 交渉決裂だ。


 バラックが剣を抜くと


 他の9騎も一斉に抜刀し、柵を破壊しようとした。


「やれやれ……せっかく植えた防風林を傷つけるなよ」


 俺はため息をつき、レオに目配せをした。


「レオ、やれるか?」


「侮るな。俺の新しい『相棒』を試す絶好の機会だ」


 レオが腰から抜いたのは


 ガントが打ったばかりの剣――『ミスリルの長剣』だ。


 バラックが襲いかかる。


「国を捨て、錆びついた剣で何ができる!」


 ガキンッ!!


 金属音が響いた瞬間


 宙を舞ったのはバラックの剣の「刀身」だった。


「なっ……!? 俺の剣が……!?」


「悪いな。王国の量産品なまくらとは鍛冶屋の腕も素材も違うんだよ」


 レオの一撃は、相手の剣ごと鎧の肩口を浅く切り裂いていた。


「ひ、怯むな! 魔法兵、焼き払え!」


 後衛の騎士が火魔法の杖を構える。


 畑に火を放つつもりだ。


 それは一番やってはいけないことだ。


 俺の「農家魂」に火がついた。


「俺の大事な作物に、指一本触れさせるかよ」


 俺は『ハイドロ・ブラスター』を構えた。


「な、なんだその筒は!?」


「ただの農具だよ。……水撒き用のな!」


 ズドォォォォォン!!


 最大出力で放たれた水流は、火球を飲み込み


 そのまま騎士たちを馬ごと吹き飛ばした。


 水圧で鎧がへこみ、彼らは泥まみれになって地面を転がる。


「ぐわぁぁぁ!?」


「の、農具ごときが、なぜこんな威力を……!」



 勝負は一瞬だった。


 レオの剣技と、俺のオーバーテクノロジー農具の前に


 王国のエリートたちは手も足も出なかった。


 猿ぐつわを噛まされ、縄で縛られたバラックたちが転がされている。


「な、何なんだ……この強さは……? 貴様ら、本当に農民か……?」


 恐怖に震える彼らに、ガントが鼻をほじりながら近づいた。


「はん。わしの作った道具にケチをつけるからバチが当たったんじゃ」


 俺はバラックを見下ろして告げた。


「王に伝えろ。


『これ以上干渉するなら、次は水撒きじゃ済まさない』


 とな」


 彼らを解放し、王都へと追い返した後。


 レオが剣を鞘に納め、ふぅと息を吐いた。


「……これで、王国もここを無視できなくなるな」


「ああ。だが、これで守れることがわかった。……みんな、よくやった!」


 難民たちから歓声が上がる。


 自分たちを守る力がここにはある。


 その事実は、彼らに何よりの安堵を与えたようだった。


 ヴェルデ農園は今日


 名実ともに『独立勢力』としての一歩を踏み出したのだ。

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