↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ダンジョン水耕栽培』~追放された王室庭師、不毛の地を「水」だけで最強の農園に変える~  作者: Gさん
第3章 『聖女教会』編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/35

第25話 亡国の騎士たち

 数日後。恐れていた事態がついに現実となった。


 ヴェルデの境界線に、ボロボロの衣服を纏った集団が現れたのだ。


 その数、およそ五十名。


 彼らは一様に痩せこけ、虚ろな目をしていたが


 目の前にそびえ立つ巨大な『樹のマンション』と


 瑞々しい緑の畑を見て、足を止めた。


「……幻覚だ」


「ああ……死ぬ前に、神様が良い夢を見せてくれたんだ……」


 彼らは地面に崩れ落ち、涙を流している。


 俺はため息をつき、拡声器(風魔法の応用)を使った。


「幻覚じゃありません。ここはヴェルデ農園都市です。……腹が減っているなら、まずは飯にしましょう」


 大鍋で煮込んだ『特製ミネストローネ』の匂いが漂うと


 彼らの目に光が戻った。


 それは、生存への執着の光だった。



 広場に設置した炊き出し所。


 野菜たっぷりのスープと焼きたてのパンを


 難民たちが無我夢中で貪っている。


 その中に一人、ひときわ小柄だが筋肉質な男が


 震える手でスプーンを握りしめていた。


 豊かな髭。


 ドワーフ族だ。


「……美味い。……美味すぎて、腹が立つわい」


 男は涙と鼻水を髭に垂らしながら、悪態をついた。


「王国じゃあ、貴族どもが腐った芋すら独占しやがる。なのに、ここではこんな極上の野菜が、ただのスープに入ってやがる……!」


 俺は彼に近づき、声をかけた。


「お代わりはあるぞ。……ところで、その手。ただの農民じゃないな?」


 彼の手は分厚く、無数の火傷とタコの痕があった。


「……フン。わしはガント。王都で鍛冶屋をやっていた。だが、国が『金属供出令』なんてふざけた真似をしやがって商売あがったりだ」


「金属供出?」


「ああ。『土壌再生』の儀式とやらに使う装置のために、鍋釜から職人のハンマーまで奪おうとしやがった。……道具を奪われるくらいならと、逃げてきたんだ」


 俺はニヤリと笑った。


 農園には農具や


 今後必要になるプラントの部品を作る技術者が不足していたのだ。


「ガントさん。あんたの腕、俺が買います。……最高の素材と、最高の工房を用意すると言ったら?」


「……なんだと?」


 ドワーフの目が、職人のそれに変わった。



 その時、難民たちの護衛をしていた一人の剣士が


 俺の元へ歩み寄ってきた。


 錆びついた鎧。


 無精髭。


 だが、その背筋は伸びている。


 見覚えのある顔だった。


「……やはり、お前だったか。クロード」


「レオか? レオナルドなのか?」


 彼はかつて、王城の庭園警備を担当していた騎士だ。


 実直で真面目な男で、庭師だった俺ともよく言葉を交わした仲だった。


「生きていて良かった……。お前が追放されたと聞いた時は、絶望したよ」


 レオナルドは苦笑し、腰の剣を外して俺の前に差し出した。


「俺はこの様だ。民を守る騎士でありながら、飢えに苦しむ彼らを連れて逃げることしかできなかった。……クロード、笑ってくれ。俺は、国を捨てた裏切り者だ」


「笑うわけないだろう」


 俺は彼の手を取り、強く握り返した。


「君は五十人の命を守りきって、ここまで辿り着いた。……立派な英雄だよ」


「クロード……ッ!」


 気丈に振る舞っていたレオナルドの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


 ずっと張り詰めていた緊張の糸が、切れた瞬間だった。



 その日の夜。


 入浴と食事を済ませ


 少し顔色の良くなったレオナルドとガントを、俺は正式に雇用した。


「レオ、君には『警備隊長』を任せたい。この街の治安と、これからの防衛戦力の指揮をとってくれ」


「……ああ。この命に代えても、この楽園を守ってみせる」


 レオは、以前のような鋭い騎士の顔つきに戻っていた。


「ガントさんは、『工廠長こうしょうちょう』だ。ダンジョンの鉱脈から採れる鉄もミスリルも使い放題だ。農具でも武器でも、好きに打ってくれ」


「カッカッカ! ミスリルだと? 王国の宝物庫より豪華じゃねえか! 腕が鳴るわい!」


 難民の中には、他にも仕立て屋や大工など、手に職を持つ者が多くいた。


 王国の失策は、国を支える『技術』と『良心』を流出させ


 皮肉にも俺の農園を最強の都市へと進化させてしまったのだ。


 人材は揃った。

 住居もある。

 食料もある。


 あとは――迫りくる【王国の闇】を迎え撃つだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。