第24話 リリアーナ、タワマンを作る
王国の崩壊は時間の問題だ。
アナスタシアの情報を元に、俺は緊急会議を開いた。
「というわけで、近いうちに数百、いや数千人規模の難民が、このヴェルデに押し寄せる可能性がある」
俺が地図を広げて言うと、リリアーナが眉をひそめた。
「数千人……か。今の宿泊施設だけじゃ、とても入り切らないわね」
「ああ。だから作る。……『高層集合住宅』をな」
俺が黒板に描いたのは
日本でよく見る「団地」や「マンション」の設計図だ。
限られた土地に多くの人を住まわせるには
横ではなく「縦」に伸ばすしかない。
「縦に積む家……? クロード、発想がドワーフみたいね。でも、石積みでこんな高い建物を作ったら、地震で崩れちゃうわよ?」
「普通の石ならな。だが、俺たちには『最高の建築士』がいるだろう?」
俺はリリアーナを指差した。
「えっ? 私?」
建設予定地は、農園の西側に広がる荒地だ。
俺はアイテムボックスから、ダンジョンの深層で採取した
『鉄木の種』を取り出した。
鉄のように硬く、火にも強い特殊な木だ。
「リリアーナ、君の『建築魔法』で、この種を急成長させてほしい。ただし、この設計図の通りに『空洞』を作りながらだ」
「なるほど……木そのものを住処にするのね! エルフの里でも巨木に住むことはあるらしいけど、こんなに計画的にやるのは初めてよ」
リリアーナが杖を構える。彼女の緑色の瞳が、魔力で輝き出した。
「母なる大地よ、天を衝く塔となれ――『樹界創生』!」
ズズズズズッ……!!
大地が振動し、植えたばかりの種が爆発的に発芽した。
幹は太く、螺旋を描きながら空へと伸びていく。
リリアーナの精密な魔力操作により
枝は「床」となり、幹は強固な「柱」となり
葉は屋根を覆う「瓦」となる。
わずか数十分。
そこには、高さ30メートル(10階建て相当)の
巨大な「生きた樹のマンション」が誕生していた。
「す、すごい……。本当に建ってしまった……」
見上げていたセシリアが口を開けて呆然としている。
「外見は木ですけど、中は平らで……まるで王城の回廊みたいです」
俺たちは完成した「樹のマンション」の内見を行った。
壁は木材の温かみがありながら、鉄のように硬い。
窓枠として開けられた部分には
後でガラス(ケイ砂から精製済み)をはめ込めば完璧だ。
「でもクロード、高い階の人は水汲みが大変じゃないか?」
アナスタシアの鋭い指摘。
さすが皇女、インフラへの視点が鋭い。
「問題ありません。見てください」
俺が壁の蛇口のような突起をひねると、ジャーッと水が出た。
「この樹の『導管』を利用して、地下水を屋上のタンクまで吸い上げ、各部屋に配水しています。つまり、全室『上水道完備』です」
「なっ……!? 魔導ポンプもなしに!?」
「植物が水を吸い上げる『浸透圧』の力ですよ。自然のエネルギーです。トイレも、下層の浄化槽(スライム処理施設)直結です。衛生的で、臭いもしません」
俺の説明に、彼女たちは言葉を失った。
「帝都の高級宿より快適じゃないか……」
「これを難民用にするんですか? 贅沢すぎて、誰も出ていかなくなりますよ……?」
リリアーナは額の汗を拭いながら
誇らしげに自分の作品を見上げた。
「ふふっ、私の魔法とクロードの知識が合わされば、お城だって作れそうね」
「ああ。頼りにしてるよ、リリアーナ」
俺が頭を撫でると、彼女は耳を赤くして嬉しそうに目を細めた。
こうして、ヴェルデの空に巨大な「緑の塔」がそびえ立った。
無機質なコンクリートではなく、葉の揺れる音が心地よい
世界で唯一の「ボタニカル・タワーマンション」だ。
収容可能人数は、一棟で50世帯・約200人。
俺たちはこれを、あと数棟『生やす』予定だ。
準備は整った。
迷える難民たちよ、いつでも来るがいい。
ここでは、衣食住の全てが保証されているのだから。




