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『ダンジョン水耕栽培』~追放された王室庭師、不毛の地を「水」だけで最強の農園に変える~  作者: Gさん
第3章 『聖女教会』編

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第21話 王室侍医の嘘

 一方その頃


 クロードを追放した王都では、深刻な事態が進行していた。


 かつて栄華を誇った市場からは緑色が消え


 並んでいるのはしなびた根菜や、カビの生えた黒パンばかり。


 土壌魔法の乱用による塩害と地力低下は


 もはや隠しようのないレベルに達していたのだ。


 王城の奥深く、国王の寝室。


「ゴホッ、ゴホッ……。苦しい……。何か、もっと喉越しの良いものはないのか……」


 病床に伏せる国王が、掠れた声で訴える。


 その枕元に立つ男がいた。


 長い髭を蓄え


 尊大な態度を崩さない男――王室筆頭侍医ケノービである。


「陛下、ご辛抱ください。今は耐える時です」


「だが……噂では、辺境のヴェルデという街で瑞々しい野菜が採れると……」


「なりません!」


 ケノービは強く遮った。


「よろしいですか、陛下。医学には『身土不二しんどふじ』という言葉がございます。人は生まれ育った土地の作物を食べなければ、体内のマナ循環が狂い、健康を損なうのです」


 彼はもっともらしい顔で、とんでもない自説を展開した。


「ましてや、ダンジョンのような不浄な地で土も使わずに育った野菜など……あれは野菜の形をした『毒』です。陛下のような高貴なお体には、この王国の『正統な土』で育った穀物こそが薬なのです」



 ケノービの熱弁は続く。


「食生活をコロコロと変えてはいけません。急激な変化は体に毒です。今は粗食こそが、陛下の自然治癒力を高めるのです」


「うぅ……そうか……。ケノービがそう言うなら……」


 国王は力なく頷き、侍女が差し出した硬いパンの粥を


 無理やり口に運んだ。



 その様子を見届けたケノービは、恭しく一礼して部屋を出た。


「では、私はこれにて。薬の調合がございますので」


 重厚な扉が閉まる。


 その瞬間、ケノービの表情から「忠臣の顔」が消え


 卑しい笑みが浮かんだ。


「……フン、チョロいものだ。あんな干からびた餌、誰が食うか」



 深夜。


 王都の下町にある会員制の高級酒場。


 その裏口に、目深にフードを被ったケノービの姿があった。


「……ブツは?」


「ヘヘッ、届いておりやすぜ、先生」


 闇商人が木箱を開ける。


 薄暗い路地裏が、一瞬だけ鮮やかに照らされたような気がした。


 箱の中に詰められていたのは


 宝石のように輝く『ヴェルデ産・朝摘みレタス』と『完熟トマト』


 そして『極甘ごくあまメロン』だった。


「おお……! これだ、これこそが『緑の宝石』、『紅の雫』だ!」


 ケノービは震える手でトマトを掴み、そのままガブリと噛みついた。


 ジュワッ!


 口いっぱいに広がる濃厚な甘みと酸味、そして圧倒的な生命力。


「んんぅぅッ! 美味い! 細胞が歓喜しておる!」


 彼は汁を垂らしながら恍惚の声を上げた。


「陛下には毒だなんだと言っておきながら、先生もワルですねえ」


「黙れ商人。愚民や老いぼれには、この高濃度の栄養は強すぎるのだよ。国を支える私のような頭脳エリートだけがこれを独占……いや、管理すべきなのだ」



 ケノービは金貨が詰まった袋を商人に投げつけた。


 その額、通常の野菜の数百倍。


「さあ、もっとよこせ!来週分も予約だ!」


「へいへい、毎度あり。……いやぁ《《あの方》》の野菜は高く売れて笑いが止まりませんなぁ」  


 商人が下卑た笑いを浮かべる。



 ――この闇商人。


 実は、クロードが組織した『ヴェルデ商業組合』の別動隊である。


 ヴェルデの市長室では


 ゼフィルス(風魔法による盗聴)からの報告を受けたクロードが


 売上帳を見ながらほくそ笑んでいた。


「予想通りですね。王国の特権階級ほど、裏でこっそり買っている」


「しかも、通常の数百倍の価格で……。ボロ儲けじゃないクロード」


 リリアーナが呆れつつも感心している。


「彼らが『王国の土』にこだわっている間に、僕たちは彼らの資金を吸い上げる。食料危機が本格化すれば、彼らはさらに高値でも買うでしょう」


 クロードは冷たい瞳で王都の方角を見やった。


「どんどん食べて、健康になってくださいケノービ先生。その代金が、あなたたちが捨てた庭師の軍資金になるとも知らずに」


 王国の腐敗は、皮肉にも


 クロードの懐を潤している、最大の資金源となっていたのである。

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