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『ダンジョン水耕栽培』~追放された王室庭師、不毛の地を「水」だけで最強の農園に変える~  作者: Gさん
第2章 『拠点』編

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第16話 泥にまみれた元同僚

「クロード、嬉しい悲鳴だけど……限界よ」


 市長室(仮設ログハウス)で、リリアーナが帳簿を伏せて溜息をついた。


 都市ヴェルデの人口は


 予想を遥かに超えるペースで増え続け、千人を突破しようとしている。


「畑の拡張はできても、収穫する手が足りないわ。難民たちは素人ばかりだし、教育には時間がかかる……」


「想定内です、殿下。……そろそろ、農業を『人力』から卒業させましょう」


 俺は窓の外を指差した。


 そこには、俺が徹夜で組み上げた


『農業用ゴーレム』たちが整列していた。


 泥と石で作ったボディだが


 関節部には潤滑液代わりのスライム粘液を使用し


 動力源には魔石を埋め込んでいる。


「名付けて『アグリ・ゴーレム』です。不眠不休で耕し、種を撒き、収穫する鋼鉄の農夫です」


「すごい……! これなら百人力ね!」


「さあ、試運転といきましょうか」



 俺たちが畑へ向かうと、職業斡旋所の前で一悶着が起きていた。


「どいつもこいつも!私は王宮の『二等庭師』だったガストンだぞ! なぜ私が下働きなどせねばならん!」


 聞き覚えのある甲高い声。


 ボロボロの衣服に身を包んでいるが、その傲慢な態度は変わっていない。


 かつて王宮で、俺に雑用を押し付け


「泥いじりがお似合いだ」と笑っていた元同僚、ガストンだ。


「おい、そこの責任者!私を幹部として迎え入れろ! クロードとかいう元平民の下で働くのは癪だが、知識なら私のほうが上だ!」


 彼は俺を見つけるなり


 救世主を見つけたかのように(しかし態度は上から目線で)


 駆け寄ってきた。


「おお、クロード! 元気そうだな。聞いたぞ、ここで小銭を稼いでいるそうじゃないか。特別に私が手伝ってやろう」


 周囲の難民たちが、白い目で彼を見ている。


 俺は静かに彼を見返した。


「久しぶりですね、ガストン。……王宮の庭はどうしました?」


「うっ……そ、それは……土が枯れたから仕方なく……な。だが、私の腕が落ちたわけではない! さあ、私に指揮を執らせろ。この素人どもを指導してやる」



 ガストンは自信満々に腕まくりをする。


 だが、俺は首を横に振った。


「指導? 必要ありませんよ。……起動!」


 パチンと指を鳴らす。


 ズズズズズ……!


 背後に待機していた50体の『アグリ・ゴーレム』が一斉に動き出した。


 彼らの動きは精密機械のように正確だ。


 右腕のアタッチメントで土を耕し、左腕から種を射出。


 さらに背中のタンクから適切な量の水を噴霧する。


 その速度は、熟練の農夫の10倍以上。


「な……なんだ、あれは……!?」


 ガストンが腰を抜かす。


「自動化農業です。彼らは文句も言わず、ミスもせず、24時間働き続けます。……ガストン、あなたの『知識』はこのゴーレム以上に役に立ちますか?」


「つ、つ……土魔法も使えない人形ごときに……!」


「彼らは土壌のpH値を測定し、肥料の配合をリアルタイムで調整しています。

今のあなたに、それができますか?」


 俺の言葉に、ガストンは絶句した。


 王宮でふんぞり返っていた彼のアナログな技術など


 ここのハイテク農業の前では無価値なのだ。



 プライドをへし折られたガストンは、その場に崩れ落ちた。


「そ、そんな……。じゃあ、私は……ここでも不要なのか……? 王宮も追い出され、ここでも……」


 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして震える彼。


 かつての憎たらしい態度は見る影もない。


 俺はため息をつき、一枚の書類を差し出した。


「……人手は足りていないと言ったでしょう。仕事ならありますよ」


「ほ、本当か!? 幹部か!? それとも現場監督か!?」


「いいえ。『バイオプラント』の管理業務です」


「ば、ばいお……?」


「簡単に言えば、『肥料作り』です。街から出る排泄物や生ゴミを発酵させ、堆肥を作る重要な仕事です」


 ガストンの顔が引きつる。


 かつて彼が「汚い」と最も嫌っていた仕事だ。


「い、嫌だ! 私はエリートなんだぞ!そんな汚い仕事……」


「嫌なら出て行ってください。ここでは『働く者』しか食べられません。それに……」


 俺は冷たく言い放った。


「土を汚いと見下す人間に、美味しい野菜は作れませんよ。一から学び直しなさい」


 ガストンはしばらく葛藤していたが


 背に腹は代えられない空腹と、周囲の冷ややかな視線に耐えきれず


 震える手で書類を受け取った。


「……やります。やらせてください……」


 こうして、食料生産の自動化に成功し


 同時に「肥料係」も確保できた。



 ……ガストンは後に『堆肥マスター』として覚醒し


『土作りこそ農業の本質だ!』と熱弁する真面目な職員になるのだが……


 それはまた別の話。

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