第8話 レシピより難しいもの。
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Today's Heroine
白石 七海
CLIENT DATA
年齢:22歳
身長:160cm
職業:カフェ店員
雰囲気
・明るい
・頑張り屋
・少し天然
・照れ屋
外見
・肩までの茶髪
・白いブラウスにエプロン
・ポニーテール
主人公への第一印象
★★★★☆
恋愛タイプ
好きになると一直線
依頼内容
『料理を一緒に作ってください。』
秘密
『好きな人には、まだ一度も告白できていない。』
ドキドキ度
★★★★☆
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午前十時。
神崎湊は、小さなアパートの前でスマホを見つめていた。
『料理を一緒に作ってください。』
便利屋を始めてから、恋人役や犬探し、お兄ちゃん役まで経験した。
だが、料理を一緒に作る依頼は初めてだった。
「神崎さん!」
二階の通路から明るい声が響く。
顔を上げると、エプロン姿の女性が手を振っていた。
「白石七海です!」
「神崎です。よろしくお願いします。」
二人は玄関先で頭を下げ合う。
「どうぞ。」
部屋へ入ると、ワンルームの小さなキッチンには、きれいに並べられた食材が置かれていた。
ひき肉。
玉ねぎ。
パン粉。
卵。
「今日はハンバーグですか。」
「はい!」
七海は勢いよくうなずく。
「一週間後に好きな人へ作る約束をしたんです。」
「でも……。」
照れくさそうに笑う。
「料理は、びっくりするくらい苦手で。」
「料理教室へ行こうとも思ったんですけど、知り合いに会ったら恥ずかしいし……。」
少しだけ肩をすくめる。
「それで便利屋さんにお願いしちゃいました。」
湊は笑いながらうなずいた。
「でも、僕は料理の先生じゃありませんよ。」
「一人暮らしなので、簡単な料理くらいなら作れますけど。」
「それで十分です!」
七海は安心したように笑った。
「一人だと途中で心が折れそうだったので。」
「じゃあ、一緒に頑張りましょう。」
「はい!」
◇
まずは玉ねぎを切ることになった。
七海は包丁を持つものの、ぎこちない。
「こ、これで合ってますか?」
「指が少し危ないですね。」
「あっ。」
慌てて指を引っ込める。
「猫の手って難しい……。」
湊は少し考えてから、七海の隣へ立った。
「少し失礼します。」
「は、はい。」
後ろからそっと手を添える。
「指はこう丸めると安全です。」
「こうですか?」
「そうです。」
二人でゆっくり包丁を動かす。
トントン、と小気味いい音がキッチンへ響いた。
「切れました!」
七海は嬉しそうに笑う。
「できました!」
「最初にしては上出来ですよ。」
「本当ですか?」
「はい。」
その言葉だけで、七海は子どものように喜んだ。
その笑顔を見て、湊も自然と笑みがこぼれる。
◇
玉ねぎを炒め終え、今度は肉だねを作る。
「塩は小さじ一ですね。」
「任せてください!」
七海は自信満々に塩を入れた。
その直後だった。
「あ。」
「え?」
「今、僕も入れました。」
七海が固まる。
「……。」
湊も固まる。
二人でボウルを見つめる。
「二回入りましたね。」
「入りましたね……。」
数秒の沈黙。
次の瞬間。
「ふふっ。」
「あはは!」
二人同時に笑い出した。
「もう最初からやり直します?」
「そうしましょう。」
笑いながら材料を計り直す。
失敗したはずなのに、不思議と楽しかった。
◇
「神崎さん。」
「はい?」
「さっきから思ってたんですけど。」
「料理って。」
「一人でするより、誰かとした方が楽しいですね。」
七海は照れくさそうに笑う。
「そうかもしれません。」
「失敗しても笑えますから。」
「それ、すごく分かります。」
二人で笑い合った、そのときだった。
「あっ。」
七海が棚の上を見上げる。
「ケチャップ、上でした。」
小さな踏み台を持ってくる。
「私、取りますね。」
「気を付けてください。」
「大丈夫で――」
言い終わる前に、踏み台がわずかに揺れた。
「あっ!」
七海の体がぐらりと傾く。
湊は反射的に腕を伸ばした。
「危ない!」
「きゃっ!」
七海の体を受け止める。
踏み台から降りた勢いで、そのまま湊の胸へ軽くぶつかった。
「あ……。」
二人とも動きが止まる。
近い。
お互いの顔が、思っていたよりずっと近くにあった。
「だ、大丈夫ですか?」
「は、はい!」
七海は慌てて体を離す。
その拍子に、エプロンの腰紐がふわりとほどけかけた。
「きゃっ!」
慌てて後ろを押さえる。
「ご、ごめんなさい!」
湊はすぐに視線をそらした。
「見てません!」
「そう言われると、余計恥ずかしいです……。」
二人とも顔を赤くしたまま、しばらく何も言えなかった。
やがて七海が吹き出す。
「今日は失敗ばっかりですね。」
「でも、けががなくてよかったです。」
「はい。」
照れ笑いを交わすと、さっきまでの気まずさも少しだけ和らいだ。
◇
肉だねを丸め、フライパンへ並べる。
「緊張します……。」
「最初は強火で焼き色を付けて、そのあと弱火です。」
「はい。」
ジュウッという音と一緒に、食欲をそそる香りが広がる。
「なんだか、それっぽくなってきました!」
「もう十分、それっぽいですよ。」
焼き上がったハンバーグへソースをかける。
皿へ盛り付けると、見た目は店で出てきてもおかしくないくらい立派だった。
「できた……。」
七海は目を輝かせる。
「本当にできちゃいました。」
「食べてみましょう。」
二人で席に着き、手を合わせる。
「いただきます。」
一口。
七海はゆっくり噛んでから、ぱっと表情を明るくした。
「おいしい!」
「よかった。」
「いつもなら焦がしたり、生焼けだったりするのに……。」
嬉しそうに笑う七海を見ていると、湊まで嬉しくなった。
◇
食後。
テーブルの上には空になった皿が並んでいる。
「神崎さん。」
「はい。」
「これなら……喜んでもらえますかね。」
少しだけ不安そうな声だった。
「料理も、もちろん大事です。」
湊は微笑む。
「でも。」
「一番嬉しいのは、一生懸命作ってくれた気持ちだと思います。」
七海はその言葉を何度も噛みしめるようにうなずいた。
「私。」
照れくさそうに笑う。
「味ばっかり気にしてました。」
「でも、本当は気持ちも一緒に伝える料理なんですね。」
「きっと、その方が伝わります。」
七海は安心したように笑った。
「頑張ってきます。」
◇
数日後。
大学の講義を終えた湊のスマホが震えた。
送信者は、白石七海。
『神崎さん!』
その一言だけで、思わず笑ってしまう。
続けて写真が送られてきた。
食卓の上にはハンバーグ。
向かいにはもう一人分の皿。
そして、メッセージ。
『成功しました!』
さらに続けて。
『付き合うことになりました』
湊は思わず空を見上げた。
「よかった。」
短くつぶやく。
便利屋の仕事は、依頼が終わればそれで終わり。
でも、こうして幸せな報告が届く日は、少しだけ特別だった。
◇
そのとき、またスマホが震える。
『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』
湊は画面を開く。
『別れた恋人の荷物を、一緒に返しに行ってください。』
「……。」
荷物を返すだけなら、一人でもできる。
そう思った。
しかし、依頼文の続きを読んだ瞬間、表情が少しだけ変わる。
『一人では、ちゃんとさよならが言えないんです。』
「……なるほど。」
湊はスマホを静かに閉じた。
次回『さよならは、二人で。』




