第6話 今日だけ、お兄ちゃん。
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Today’s Heroine
星野 すず
CLIENT DATA
年齢:18歳
身長:154cm
職業:高校3年生(卒業したばかり)
雰囲気
・明るい
・素直
・少し甘えん坊
・笑顔が可愛い
外見
・黒髪ボブ
・パーカーにロングスカート
・小さなリュック
主人公への第一印象
★★★☆☆
恋愛タイプ
年上に安心感を覚える
依頼内容
『一日だけ、お兄ちゃんになってください。』
秘密
『児童養護施設で育ち、一度だけでも「お兄ちゃん」と呼べる人と過ごしてみたかった。』
ドキドキ度
★★★★☆
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午前十時。
神崎湊は駅前のベンチで、スマホの依頼内容をもう一度見返した。
『一日だけ、お兄ちゃんになってください。』
「……お兄ちゃん、か。」
恋人役や撮影の手伝い、部屋の片付け、犬探し。
便利屋を始めてから、いろいろな依頼を受けてきた。
だが、お兄ちゃん役は初めてだった。
「神崎さん!」
明るい声に顔を上げる。
小柄な女の子が、小さなリュックを揺らしながら駆け寄ってきた。
黒髪のボブに、ベージュのパーカー。
どこか幼く見える笑顔が印象的だった。
「星野すずです。本日はよろしくお願いします。」
「神崎です。よろしくお願いします。」
二人は軽く頭を下げ合う。
すると、すずは少し照れくさそうに笑った。
「依頼、びっくりしましたよね。」
「少しだけ。」
湊も笑う。
「正直、お兄ちゃん役は初めてです。」
「やっぱり。」
すずは小さく吹き出した。
「変なお願いですよね。」
「そんなことありません。」
湊は穏やかに首を横へ振る。
「依頼には、それぞれ理由がありますから。」
その言葉に、すずの表情が少しだけやわらいだ。
「ありがとうございます。」
二人は駅前を歩き始める。
今日の目的地は、大きなショッピングモールだった。
「どこか行きたい場所はありますか?」
湊が尋ねると、すずは少し考えてから笑う。
「特に決めてないんです。」
「そうなんですか?」
「はい。」
少し恥ずかしそうに頬をかく。
「今日は、お兄ちゃんと出かけることが目的なので。」
その言葉に、湊は思わず照れ笑いを浮かべた。
「責任重大ですね。」
「今日はよろしくお願いします、お兄ちゃん。」
言った本人が照れてしまい、慌てて両手を振る。
「あっ、ごめんなさい!」
「まだ早かったですよね!」
湊は思わず笑った。
「今日だけですから。」
「……はい。」
すずもつられて笑う。
ぎこちなかった空気が、少しだけ軽くなった。
◇
ショッピングモールへ入ると、休日ということもあって多くの買い物客でにぎわっていた。
「広いですね。」
「迷子になりそうです。」
すずが辺りを見回す。
「じゃあ、今日は迷子にならないようにしましょう。」
「はい。」
最初に入ったのは雑貨店だった。
「これ、かわいい。」
動物のマグカップを手に取り、嬉しそうに眺める。
「神崎さん……じゃなくて。」
一瞬考え込む。
「お兄ちゃんだったら、どっちが似合うと思います?」
白いうさぎと、茶色いくま。
二つを並べて見せてくる。
湊は少し悩んでから答えた。
「うさぎですかね。」
「どうしてですか?」
「笑った顔が、少し似てる気がします。」
「えっ。」
すずは目を丸くしたあと、照れくさそうに笑った。
「そんなこと初めて言われました。」
結局、すずはうさぎのマグカップを買うことにした。
レジを済ませると、小さな紙袋を湊へ差し出す。
「はい。」
「僕ですか?」
「お兄ちゃん、荷物持ってください。」
「もう完全にお兄ちゃんですね。」
「今日だけです。」
少し得意そうに笑うすずを見て、湊も思わず笑ってしまった。
その笑顔は、待ち合わせのときよりもずっと自然だった。
買い物を終え、二人はショッピングモールの中央広場へ向かった。
休日ということもあり、館内は家族連れや学生でにぎわっている。
「思ったより人、多いですね。」
「そうですね。」
エスカレーターを降りた、そのときだった。
「すみません!」
後ろから慌てた人が通り抜ける。
すずは思わずよろけた。
「あっ……。」
人の流れに押され、そのまま少し離されそうになる。
「お兄ちゃん!」
反射的だった。
すずは湊の腕へぎゅっとしがみつく。
人波が通り過ぎるまで、ほんの数秒。
二人はその場で立ち止まっていた。
「あ……。」
我に返ったすずは、慌てて腕を離す。
「ご、ごめんなさい!」
耳まで真っ赤になりながら頭を下げる。
「つい……。」
「大丈夫です。」
湊は少し照れくさそうに笑った。
「はぐれなくてよかったです。」
「はい……。」
すずも小さく笑う。
「今日だけって分かってるのに、本当にお兄ちゃんって呼んじゃいました。」
「そのための依頼ですから。」
その一言に、すずの表情が少しだけやわらいだ。
◇
昼になり、二人はフードコートで昼食を取ることにした。
「何にします?」
「私、オムライスが好きなんです。」
「じゃあ、僕はカレーにします。」
「なんだか兄妹っぽいですね。」
すずは嬉しそうに笑った。
食事を終え、ジュースを飲みながら一息つく。
しばらく穏やかな時間が流れたあと、すずがぽつりと口を開いた。
「私……児童養護施設で育ったんです。」
湊は何も言わず、静かに耳を傾ける。
「施設のみんなは優しかったし、先生たちも本当に家族みたいでした。」
少しだけ笑う。
「だから、不幸だったとは思ってないんです。」
でも、と続ける。
「友達がお兄ちゃんの話をしてると、ちょっとうらやましかったんです。」
「迎えに来てくれたとか。」
「ゲームで遊んでくれたとか。」
「ケンカしたとか。」
すずはストローを見つめながら、小さく笑う。
「そんな何気ない話が、私には全部新鮮で。」
少しだけ間を置いて続けた。
「高校も卒業して、春から新しい生活が始まります。」
「だから、その前に一度だけ。」
湊を見て、照れくさそうに笑った。
「お兄ちゃんがいる一日を過ごしてみたかったんです。」
◇
駅前へ戻る。
「今日は本当にありがとうございました。」
すずは報酬の入った封筒を両手で差し出した。
「こちら、今回の報酬です。」
「ありがとうございます。」
湊は封筒を受け取り、軽く頭を下げる。
別れ際。
すずは少しだけ立ち止まり、照れくさそうに笑った。
「神崎さん。」
「はい。」
「最後に一回だけ、いいですか?」
湊がうなずくと、すずは小さく息を吸った。
「……お兄ちゃん。」
その一言だけ言うと、自分で照れてしまい、顔を真っ赤にする。
「あっ……今の忘れてください!」
慌てて顔を隠す姿がおかしくて、湊は思わず笑った。
「忘れません。」
「もう……。」
すずも照れ笑いを浮かべる。
「でも、本当に楽しかったです。」
「私のわがままを叶えてくれて、ありがとうございました。」
湊は優しく微笑んだ。
「高校卒業、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
すずは深く頭を下げる。
「春から、新しい生活頑張ります。」
「応援しています。」
その言葉に力強くうなずくと、すずは新しい一歩を踏み出すように歩き始めた。
一度だけ振り返り、大きく手を振る。
湊も笑顔で手を振り返した。
◇
すずの姿が見えなくなった頃、湊のスマホが震えた。
『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』
画面を開く。
『祖父のお願いを、叶えてもらえませんか。』
依頼者は、
『桜井 美咲』
という若い女性だった。
「……おじいちゃんのお願いを、孫が依頼してきたのか。」
湊は小さく首をかしげる。
次回『おじいちゃんの約束。』




