第4話 元カレには、内緒です。
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Today's Heroine
一ノ瀬 結衣
CLIENT DATA
年齢:24歳
身長:163cm
職業:会社員
雰囲気
・落ち着いている
・大人っぽい
・少し強がり
・本当は寂しがり屋
外見
・セミロング
・ネイビーのパーティードレス
・上品で綺麗系
主人公への第一印象
★★★☆☆
恋愛タイプ
一途
依頼内容
『元カレの結婚式で、一日だけ恋人のフリをしてください。』
秘密
『新婦は大学時代からの親友。』
ドキドキ度
★★★☆☆
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待ち合わせ場所は、市内でも有名なホテルだった。
休日ということもあり、ロビーには華やかな服装の人たちが行き交っている。
神崎湊は腕時計へ目を落とした。
約束の時間まで、あと二分。
「神崎さん、ですか?」
振り向くと、一人の女性が少し緊張した表情で立っていた。
ネイビーのパーティードレスに、小ぶりなバッグ。
派手さはないのに、思わず目を引く落ち着いた雰囲気だった。
「一ノ瀬結衣さんですね。」
「はい。本日はよろしくお願いします。」
二人は軽く頭を下げ合い、ロビーのソファへ腰掛ける。
「依頼内容は拝見しました。」
湊が切り出すと、結衣は静かにうなずいた。
「元カレの結婚式なんです。」
その一言だけで、事情の複雑さが伝わってくる。
「しかも、新婦は大学時代からの親友で。」
結衣は苦笑した。
「二人とも悪くないんです。私たちは何年も前に別れていて、そのあと二人が付き合い始めました。」
「そうだったんですね。」
「だから反対する理由なんてありません。」
そう言いながらも、膝の上で握った手には力が入っていた。
「でも、一人で出席する勇気がなくて。」
少しだけ目を伏せる。
「招待状をもらってからずっと悩んで……。」
「それで、便利屋を。」
「はい。」
結衣は照れくさそうに笑う。
「変な依頼ですよね。」
「そんなことありません。」
湊は首を横に振った。
「困っているから相談してくれた。それだけで十分です。」
その言葉に、結衣の表情が少しだけやわらいだ。
「ありがとうございます。」
「今日は恋人役として、しっかり務めます。」
「よろしくお願いします。」
立ち上がろうとした結衣が、小さく息を吸う。
「あの……。」
「はい?」
「会場では、腕を組んでもいいですか?」
「恋人役ですから。」
「……ですよね。」
少し照れながら笑う結衣に、湊もつられて笑った。
◇
受付を済ませると、結衣は小さく深呼吸した。
「大丈夫ですか?」
「思っていたより緊張してます。」
「無理はしないでください。」
「はい。」
結衣はそっと湊の腕へ手を添えた。
少しだけぎこちない。
それでも歩き始める頃には、不思議と自然な距離になっていた。
「結衣!」
声を掛けてきたのは、大学時代の友人らしい女性だった。
「久しぶり!」
「久しぶり。」
「こちらが彼氏さん?」
一瞬だけ結衣が湊を見る。
「うん。」
照れながら答える。
「神崎です。初めまして。」
「結衣から話は聞いてます。今日は来てくれてありがとうございます。」
友人は笑顔でそう言うと、「あとでゆっくり話そうね」と手を振って去っていった。
結衣は小さく息を吐く。
「一人目、終わりましたね。」
「まだ始まったばかりですよ。」
「そうでした。」
二人で笑う。
その笑顔は、待ち合わせのときよりずっと自然だった。
◇
控室で席札を確認していると、結衣が首元へ手を伸ばした。
「あれ……。」
「どうしました?」
「ネックレスが髪に絡まっちゃって。」
後ろへ手を回すが、うまく外れない。
何度試しても、髪が引っ張られるだけだった。
「神崎さん。」
「はい。」
結衣は少し恥ずかしそうに髪を片側へ寄せた。
「これ……外してもらえませんか?」
一瞬だけ間が空く。
「もちろんです。」
湊はゆっくり後ろへ回る。
香水がほのかに香った。
絡まった髪を傷つけないよう、指先で慎重にほどいていく。
「痛くないですか?」
「大丈夫です。」
二人とも自然と声が小さくなる。
静かな控室には、髪がさらりと揺れる音だけが聞こえた。
「……取れました。」
「ありがとうございます。」
振り返った結衣は、少し頬を赤くしながら笑う。
「こんなに近くに男の人がいるの、久しぶりでした。」
その言葉に、湊も少し照れくさそうに笑った。
そのときだった。
「結衣。」
聞き覚えのある男性の声に、結衣の表情が固まる。
ゆっくり振り返ると、タキシード姿の男性がこちらへ歩いてきていた。
ゆっくり振り返ると、タキシード姿の男性が穏やかな笑顔で立っていた。
「久しぶり。」
結衣は一瞬だけ息をのむ。
それでも、小さく微笑み返した。
「……久しぶり。」
男性は湊へ視線を向け、軽く頭を下げる。
「初めまして。今日は来ていただいてありがとうございます。」
「神崎です。本日はお招きいただき、ありがとうございます。」
短い挨拶を交わす。
結衣が想像していたような気まずい空気は流れなかった。
「新婦が待ってるんだ。」
「うん。」
「あとでゆっくり楽しんでいって。」
そう言い残し、新郎は会場の奥へ戻っていった。
その姿が見えなくなると、結衣はほっと息を吐く。
「思ったより普通でした。」
「はい。」
「来る前は、何を話そうとか、どんな顔をしようとか……ずっと考えてたんです。」
「でも、会ってみたら。」
湊は穏やかに笑う。
「結衣さんが思っていたより、時間はちゃんと前へ進んでいましたね。」
結衣は少し驚いたように湊を見つめ、それから小さく笑った。
「……そうですね。」
◇
披露宴が始まる。
新郎新婦の入場に、大きな拍手が響く。
乾杯、歓談、笑い声。
幸せな空気が会場いっぱいに広がっていた。
学生時代の思い出をまとめた映像が流れ始める。
スクリーンには、若い頃の結衣も映っていた。
三人で笑い合う写真。
サークル旅行の写真。
懐かしい日々。
「懐かしい……。」
結衣は小さくつぶやく。
胸が少しだけ締めつけられる。
でも、その痛みは以前ほど強くなかった。
隣を見ると、湊は何も聞かず、静かに料理を口へ運んでいた。
無理に励まさない。
無理に慰めない。
ただ隣にいてくれる。
それだけで、不思議と心が落ち着いた。
◇
披露宴がお開きになり、参列者がロビーへ集まり始める。
「結衣。」
振り返ると、純白のドレス姿の新婦が駆け寄ってきた。
「来てくれてありがとう。」
「こちらこそ、招待してくれてありがとう。」
二人は笑い合う。
「こちらが彼氏さん?」
「神崎です。初めまして。」
「結衣が来てくれて、本当に嬉しかった。」
新婦は結衣の手を握った。
「幸せになってね。」
「うん。」
その一言に、結衣も自然と笑顔になる。
もう無理をして笑っているわけではなかった。
◇
ホテルを出ると、夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。
「少し歩きませんか。」
「はい。」
二人は並んで歩き始める。
しばらくすると、結衣の足元がふらついた。
「っ……。」
ヒールが歩道のわずかな段差に引っかかった。
「危ない。」
湊がとっさに腕をつかみ、支える。
その勢いで、結衣の肩が湊の胸へ軽く触れた。
「あっ……。」
目が合う。
二人とも少し照れながら距離を空けた。
「すみません。」
「足は大丈夫ですか?」
「はい。」
結衣は少し恥ずかしそうに笑う。
「今日は恋人役なのに、私ばかり助けてもらってますね。」
「そんなことありません。」
湊は優しく笑った。
「困ったときに支えるのも、恋人の役目ですから。」
その言葉に、結衣は少しだけ頬を赤くする。
「……それなら。」
照れ笑いを浮かべながら言った。
「今日の恋人役は、百点ですね。」
◇
ホテルへ戻る途中。
結衣が立ち止まる。
「神崎さん。」
「はい。」
「私、本当は元カレを見返したかったわけじゃなかったんです。」
少しだけ空を見上げる。
「ただ、一人で行く勇気がなかっただけ。」
「みんな前へ進んでいるのに、自分だけ置いていかれた気がして。」
湊は静かにうなずく。
「でも今日は、一人じゃありませんでした。」
その一言に、結衣の表情がふっとやわらぐ。
「はい。」
「だから、もう大丈夫です。」
その笑顔は、朝ホテルで会ったときとはまるで違っていた。
◇
ホテルの入口で立ち止まる。
「今日は本当にありがとうございました。」
「こちらこそ、ご依頼ありがとうございました。」
結衣は少しいたずらっぽく笑う。
「今日のことは……。」
「元カレには内緒ですね。」
湊が先に言うと、結衣は声を上げて笑った。
「はい。私と神崎さんだけの秘密です。」
二人は笑顔で別れた。
結衣はもう振り返らない。
まっすぐ前だけを見て歩いていく。
その背中を見送りながら、湊のスマホが震えた。
『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』
画面を開く。
『逃げた犬を探してください。』
しかし、続きを読んだ湊は思わず苦笑する。
『でも、男の人には絶対になつきません。』
「……これは、手強そうだ。」
次回『犬より手強い依頼人。』




