第3話 部屋、散らかりすぎました。
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Today's Heroine
朝比奈 莉乃
CLIENT DATA
年齢:23歳
身長:160cm
職業:会社員
雰囲気
・おっとり
・少しマイペース
・甘え上手
・片付けが苦手
外見
・黒髪ボブ
・童顔
・部屋では大きめのTシャツ姿
主人公への第一印象
★★★☆☆
恋愛タイプ
素直になれない
依頼内容
『部屋の片付けを手伝ってください。』
秘密
『男性を部屋へ入れるのは今日が初めて。』
ドキドキ度
★★★★☆
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午前九時。
神崎湊はスマホに表示された住所を確認しながら、小さなアパートの前で立ち止まった。
今日の依頼は部屋の片付け。
便利屋としては珍しくない仕事だ。
ただ一つ、依頼文の最後だけが少し気になっていた。
『散らかりすぎて玄関から入れません。』
「……さすがに大げさだよな。」
そう呟き、インターホンを押す。
『は、はいっ!』
慌てたような女性の声。
ガチャ。
ドアが開いた……が、ほんの五センチほどで止まった。
「……あ。」
中から困ったような声が聞こえる。
「す、すみません。」
「開きません……。」
湊は思わずドアの隙間を見つめた。
「もしかして、本当に……?」
「本当なんです。」
恥ずかしそうに答える声。
「荷物がつっかえちゃって……。」
数秒後、ドアの向こうからガサガサと物を動かす音が聞こえた。
「よいしょ……。」
「あと少し……。」
ようやく人ひとり通れるくらいの隙間ができる。
「どうぞ……。」
顔をのぞかせた女性は、肩までの黒髪を揺らしながら照れ笑いを浮かべた。
「朝比奈莉乃です。」
「神崎です。本日はよろしくお願いします。」
部屋へ足を踏み入れた湊は、思わず言葉を失う。
「これは……。」
床が見えない。
脱ぎっぱなしの服。
雑誌や漫画。
飲み終えたペットボトル。
段ボール。
買い物袋。
それらが部屋いっぱいに積み重なっていた。
「……やっぱり引きますよね。」
莉乃が肩を落とす。
「いえ。」
湊はゆっくり首を横に振った。
「ここまで片付けがいのある部屋は久しぶりです。」
「え?」
「終わったら気持ちいいですよ、きっと。」
一瞬きょとんとした莉乃は、小さく笑った。
「変わってますね、神崎さん。」
「よく言われます。」
二人で笑うと、張りつめていた空気が少しだけ和らいだ。
「じゃあ、まずは玄関から片付けましょう。」
「はい!」
そう返事をした莉乃の表情は、さっきより少し明るくなっていた。
まずは通路を確保する。
それだけでも、この依頼は半分終わったようなものだ。
まずは玄関からだった。
段ボールを重ね、空のペットボトルを袋へまとめる。
「こっちは燃えるごみですね。」
「はい!」
「雑誌はひもで縛りましょう。」
「はい!」
返事だけはいい。
けれど十分もしないうちに、莉乃は額に汗を浮かべていた。
「普段、全然片付けないんですか?」
「休みの日は『今日はやろう』って思うんです。」
「それで?」
「気づいたら夕方です。」
「なるほど。」
「なるほどじゃないですよね……。」
二人で顔を見合わせて笑う。
さっきまで気まずかった空気は、もうほとんど残っていなかった。
◇
「この箱、運びますね。」
部屋の隅に積まれた段ボールを持ち上げる。
「あっ!」
莉乃が慌てて声を上げた。
しかし、一歩遅かった。
段ボールの下に挟まっていた小さな布袋が滑り落ち、中から洗濯済みの下着が数枚、床へ広がる。
「…………。」
「…………。」
一瞬、時間が止まった。
「み、見ないでくださいっ!」
莉乃は顔を真っ赤にしながら飛びつき、慌てて布袋へ押し込んでいく。
「す、すみません!」
湊も反射的に反対方向を向いた。
「僕が不用意に持ち上げたせいで……。」
「違います! 私が片付けてなかったからです!」
数秒の沈黙。
先に吹き出したのは莉乃だった。
「……もう最悪です。」
「僕も忘れます。」
「本当に?」
「努力します。」
その返事がおかしくて、莉乃は肩を震わせながら笑う。
「神崎さん、正直ですね。」
「嘘は苦手なので。」
「ふふっ。」
恥ずかしい出来事だったはずなのに、不思議と気まずさは残らなかった。
◇
一時間後。
床が少しずつ見え始める。
「だいぶ変わりましたね。」
「信じられない……。」
莉乃は嬉しそうに部屋を見回した。
「あと、この棚だけですね。」
本棚の上に置かれた収納ケースを見上げる。
「私が取ります。」
脚立へ上る莉乃。
もう少しで届く、その瞬間だった。
「きゃっ!」
脚立がぐらりと揺れる。
湊は反射的に駆け寄り、腰を支えた。
「危ない!」
ケースは落ちずに済んだ。
莉乃も体勢を立て直す。
けれど、そのまま二人は至近距離で固まってしまった。
「…………。」
「…………。」
「だ、大丈夫ですか?」
湊が手を離す。
「はい……。」
莉乃は耳まで赤く染め、小さく息を吐いた。
「今日だけで二回も助けてもらっちゃいました。」
「何事もなくてよかったです。」
「……ありがとうございます。」
その声は、少しだけ照れていた。
◇
夕方。
部屋は見違えるほどきれいになっていた。
「すごい……。」
莉乃は部屋の真ん中でくるりと一回転する。
「床って、こんな色だったんですね。」
「忘れてたんですか。」
「忘れてました。」
二人で笑う。
報酬を受け取り、湊は荷物をまとめた。
「これで急に友達を呼んでも大丈夫ですね。」
「そうですね。」
部屋を見回した莉乃は、少し照れくさそうに笑う。
「……神崎さんが最初でした。」
「え?」
「男の人を部屋に入れたの。」
湊は少し驚いた表情を浮かべる。
「最初は、すごく緊張してたんです。」
莉乃はきれいになった部屋を見渡しながら微笑んだ。
「でも、神崎さんでよかった。」
その笑顔は、朝とはまるで別人のように晴れやかだった。
「それなら、この依頼を引き受けた甲斐がありました。」
「ありがとうございました。」
深々と頭を下げる莉乃に手を振り、湊は部屋をあとにした。
◇
アパートを出たところで、スマホが震える。
『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』
湊は立ち止まり、画面を開く。
『結婚式で、一日だけ恋人のフリをお願いします。』
「……また恋人役?」
湊は思わず苦笑した。
しかし依頼文の続きを読んだ瞬間、その表情が変わる。
『元カレの結婚式なんです。』
「……これは、大変そうだ。」
次回『元カレには、内緒です。』




