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『恋の便利屋は、今日も依頼で恋をする。』  作者: 春野ケイ


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2/20

第2話 水着なんて、恥ずかしいですよ。

──────────────

Today's Heroine


西園寺 あかり


CLIENT DATA


年齢:22歳


身長:166cm


職業:大学4年生・フリーモデル


雰囲気

・明るい

・人懐っこい

・仕事になると真剣

・少し天然


外見

・栗色のロングヘア

・健康的なスタイル

・笑顔が眩しい


主人公への第一印象

★★★★☆


恋愛タイプ

甘え下手


依頼内容

『海での撮影を手伝ってください。』


秘密

『一人で海へ行くのが少し苦手。』


ドキドキ度

★★★★★

──────────────


 朝九時。


 潮の香りが漂う海岸で、神崎湊はスマホの画面と周囲を何度も見比べていた。


 依頼人との待ち合わせは、この海水浴場の駐車場。


 平日だから人は少ないが、釣りをする人や散歩を楽しむ人の姿はちらほら見える。


「神崎さんですか?」


 振り返ると、一人の女性が大きなキャリーケースを引きながら立っていた。


 白いパーカーを羽織り、キャップを深くかぶっている。


「西園寺あかりさん?」


「はい。今日はよろしくお願いします。」


 笑顔と一緒に頭を下げる。


 その笑顔は、人前に立つ仕事をしているからなのか、とても自然だった。


「荷物、結構ありますね。」


「全部衣装なんです。」


 キャリーケースのほかにも、大きなバッグが二つ。


 女性一人では確かに大変そうだ。


 湊はすぐに一つを持ち上げる。


「ありがとうございます!」


 あかりはほっとしたように笑った。


     ◇


 撮影場所は、人がほとんど来ない岩場の近く。


「ここなら背景もきれいなんですよ。」


 そう言ってスマホを取り出す。


「今日はこれで撮ります。」


「カメラじゃないんですね。」


「最近のスマホ、すごくきれいに撮れるんです。」


 軽い三脚を組み立て、スマホを固定する。


 タイマー撮影もできるが、今日は湊がシャッター係だ。


「じゃあ……着替えてきます。」


 あかりは近くの更衣室へ向かった。


 数分後。


「お待たせしました。」


 振り返った湊は、一瞬だけ言葉を失う。


 淡い水色のビキニに、透け感のある白いパレオ。


 派手というより、夏らしい爽やかな雰囲気だった。


「やっぱり恥ずかしいですね。」


 あかりは照れ笑いを浮かべながら、パレオの裾をぎゅっと握る。


「見慣れないですか?」


「……仕事ですから。」


「質問の答えになってませんよ?」


「正直に言うと、ちょっと緊張してます。」


 そう答えると、あかりは吹き出した。


「ふふっ。」


「笑いましたね。」


「だって、もっと慣れてる人だと思ってました。」


「恋人代行より緊張するかもしれません。」


「それ、モデルとしてはちょっと複雑です。」


 二人で笑う。


 そのおかげか、さっきまでのぎこちなさは少し薄れていた。


     ◇


「まずは立ったままでお願いします。」


「こうですか?」


「もう少し海の方を向いて……あ、その角度いいですね。」


 シャッターを押す。


 画面を確認すると、海と青空を背景にした一枚が映っていた。


「あ、いい感じ!」


 あかりは湊の隣へ駆け寄る。


「見せてください!」


 二人でスマホをのぞき込む。


 肩が軽く触れた。


「あ……。」


 お互いに少しだけ距離を取る。


「す、すみません。」


「いえ!」


 また同時に謝ってしまい、二人とも笑ってしまった。


 午前中の撮影は順調だった。


 立ち姿、座ったポーズ、波打ち際を歩く姿。


 最初は硬かったあかりの表情も、少しずつ自然になっていく。


「神崎さん。」


「はい?」


「写真、上手くなってません?」


「モデルさんがいいからですよ。」


 一瞬、あかりの動きが止まる。


「そういうこと、さらっと言うんですね。」


「本当のことです。」


 照れたように笑ったあかりは、小さく首を振った。


「その調子で褒められると、ちょっと照れます。」


 昼が近づき、日差しはさらに強くなっていた。


「あっ。」


 あかりがバッグの中をごそごそ探し始める。


「どうしました?」


「日焼け止め、塗り直さないと。」


 腕や首筋へ手際よく塗っていく。


 脚にも塗り終えたところで、困ったように動きが止まった。


「……やっぱり届かない。」


「え?」


 振り返ったあかりが、小さく笑って見せる。


「背中だけ、自分じゃ無理なんです。」


 少しだけ間が空く。


 波の音だけが聞こえた。


「あの……。」


 恥ずかしそうに視線を逸らしながら、あかりは小さな声で言う。


「お願いしても……いいですか?」


波の音だけが、静かに耳へ届く。


「あの……。」


 あかりは日焼け止めを差し出したまま、照れくさそうに笑った。


「お願いしても……いいですか?」


 湊は一瞬だけ固まった。


「ぼ、僕でいいんですか?」


「神崎さんしかいませんし。」


 そう言われると断る理由もない。


「……分かりました。」


 日焼け止めを受け取る。


「じゃあ、失礼します。」


「はい。」


 あかりは髪を前に流し、背中を向けた。


 白い肌に、海風がそっと吹き抜ける。


 湊は必要以上に見ないよう意識しながら、手のひらへ日焼け止めを出した。


「冷たっ。」


「すみません。」


「ふふっ、大丈夫です。」


 できるだけ手早く、ムラにならないように伸ばしていく。


 指先が触れるたび、自分でも分かるくらい緊張していた。


「神崎さん。」


「はい。」


「手、震えてますよ。」


「……ばれました?」


「ばればれです。」


 くすっと笑う声に、湊は苦笑いを返す。


「仕事なのに情けないですね。」


「私は、その方が安心します。」


「え?」


「慣れた感じで触られるより、ずっと。」


 振り返ったあかりは少し照れながら笑った。


「ありがとうございます。」


 その一言で、湊の肩から力が抜けた。


     ◇


 午後の撮影は、午前中とは別人のようだった。


「そのまま笑ってください!」


「こんな感じですか?」


「いいですね!」


 レンズ越しに見えるあかりの笑顔は、さっきまでよりずっと自然だった。


「神崎さんのおかげかも。」


「僕ですか?」


「はい。最初は緊張して笑えなかったんです。」


 照れ笑いを浮かべるあかりに、湊も笑みを返す。


「それならよかった。」


 一通り撮影を終えると、あかりは大きく伸びをした。


「終わったぁ!」


 青い海へ目を向ける。


「少しだけ、海を歩きません?」


「もちろん。」


 靴を脱ぎ、波打ち際を並んで歩く。


 ひんやりした海水が足元をくすぐるたび、あかりは子どものようにはしゃいでいた。


「気持ちいい!」


「仕事なのを忘れそうですね。」


「今日は、半分くらい楽しんじゃってます。」


 その瞬間だった。


「きゃっ!」


 濡れた岩で足を滑らせる。


 湊は反射的に腕を伸ばした。


「危ない!」


 ぐっと引き寄せた勢いで、あかりの体が湊の胸へ飛び込む。


 二人の距離が、一気に縮まる。


 目が合った。


 あと少し動けば、おでこが触れてしまいそうな距離。


「…………。」


「…………。」


 波の音だけが、二人の間を流れていく。


 先に我に返ったのは湊だった。


「す、すみません!」


 慌てて手を離す。


 あかりは頬を赤く染めたまま、小さく息をついた。


「いえ……。」


 胸へ手を当て、照れ笑いを浮かべる。


「びっくりしました。」


「ケガはありませんか?」


「はい。」


 少しだけ間を置いて、あかりは湊を見上げた。


「でも……。」


「?」


「神崎さんがいてくれて、よかったです。」


 その笑顔は、朝よりもずっと柔らかかった。


     ◇


 帰り支度を終え、駐車場まで荷物を運ぶ。


「今日は本当に助かりました。」


「こちらこそ。」


「実は最初、便利屋さんって少し不安だったんです。」


 あかりは照れくさそうに笑う。


「でも、今日一日で考えが変わりました。」


「それはよかったです。」


「写真だけじゃなくて、ちゃんと私のことも気にかけてくれて。」


 少しだけ視線を逸らし、小さな声で続ける。


「もし次も撮影するなら……また神崎さんにお願いしたいです。」


 湊は笑って答えた。


「便利屋みなとは僕一人なので、予定が合えばいつでも。」


「あ、そうでした。」


 あかりも笑う。


「じゃあ安心ですね。」


 二人は笑顔で手を振り、それぞれの帰路についた。


     ◇


 事務所へ戻った湊は、机に荷物を置く。


 そのタイミングでスマホが震えた。


『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』


 画面を開く。


『部屋の片付けをお願いしたいです。


 一人では動かせない家具があります。


 できれば長時間お願いできる方を探しています。』


「部屋の片付けか。」


 そこまでは、よくある依頼だった。


 だが、依頼内容の最後に書かれた一文を見て、思わず画面を見返す。


『散らかりすぎて、玄関から入れません。』


「……どんな部屋なんだ。」


次回『部屋、散らかりすぎました。』

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