第1話 今日だけ、私の彼氏になってください。
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Today's Heroine
桜庭 美月
CLIENT DATA
年齢:22歳
身長:158cm
職業:大学4年生
雰囲気
・明るい
・素直
・少し天然
・笑顔が可愛い
外見
・黒髪セミロング
・えくぼが印象的
・清楚系
主人公への第一印象
★★★☆☆
恋愛タイプ
一途
依頼内容
『今日だけ恋人のフリをしてください。』
秘密
『祖母に恋人がいると嘘をついてしまった。』
ドキドキ度
★★★★☆
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大学の講義を終えた神崎湊は、駅へ向かう途中でスマホの通知に気づいた。
『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』
画面を開く。
『恋人代行をお願いしたいです。
詳しい事情は直接お話ししたいので、本日お時間をいただけませんか。』
湊は小さく息を吐いた。
「恋人代行、か……」
便利屋を始めて一年。
家具の組み立て、引っ越し、迷い猫探し、イベントの設営。
依頼の種類はさまざまだったが、恋人役だけは毎回少し緊張する。
とはいえ、内容だけで断ることはしない。
依頼には、必ず事情がある。
『十八時でしたらお時間あります。駅前のカフェでいかがでしょうか』
返信すると、すぐに「ありがとうございます」と返ってきた。
◇
約束の時間ちょうど。
カフェの窓際で、一人の女性が落ち着かない様子で時計を見ていた。
白いブラウスに薄い青色のスカート。
黒髪を肩のあたりまで伸ばした、どこか柔らかな雰囲気の女性だった。
湊に気づくと、慌てて立ち上がる。
「神崎さんですか?」
「はい。便利屋みなとの神崎です」
「あ……白石美月です。本日はよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる姿から、かなり緊張しているのが伝わってくる。
二人は向かい合って席に座った。
注文を済ませると、湊は穏やかな声で切り出した。
「依頼内容はメッセージで拝見しました。事情を聞いてもいいですか?」
「……はい」
美月はカップを両手で包み込み、小さく息を吸う。
「祖母が入院してるんです。」
その一言で、店の賑やかな音が少し遠く感じた。
「小さい頃からすごく可愛がってもらっていて……この前お見舞いに行ったとき、『彼氏ができたら一度くらい会わせてね』って笑って言われたんです。」
少しだけ視線を落とす。
「私、今まで一度も彼氏ができたことがなくて……」
照れ笑いを浮かべたあと、小さく肩をすくめた。
「その場の雰囲気で、『今度連れてくるね』って言っちゃいました。」
「なるほど。」
「最初は友達に頼もうと思ったんです。でも男友達も少ないし、さすがにお願いしづらくて……」
そこで少し恥ずかしそうに笑う。
「ネットで便利屋さんを調べていたら、恋人代行の相談も受けているって見つけて……。」
「それで、僕に依頼を。」
「はい。」
美月はもう一度頭を下げた。
「無理を言っているのは分かっています。でも、おばあちゃんに安心してほしくて……」
湊は数秒だけ考え、それから静かに笑った。
「お受けします。」
「……え?」
「依頼ですよね。」
「は、はい!」
「じゃあ、明日だけ僕が彼氏です。」
一瞬きょとんとした美月は、次の瞬間、ほっとしたように笑った。
その笑顔には、小さなえくぼが浮かんでいた。
「ありがとうございます……!」
「ただ、一つだけ。」
「はい?」
「恋人役なら、打ち合わせは必要です。」
「打ち合わせ?」
「おばあさんに『好きな食べ物は?』って聞かれて、お互い答えが違ったら困りますから。」
「あ……。」
美月は目を丸くしたあと、吹き出した。
「たしかに。」
「恋人らしく見えるように、お互いのことを少し覚えておきましょう。」
「よろしくお願いします。」
そう言って差し出された右手を、湊は軽く握り返した。
それが仕事の始まりだった。
……少なくとも、そのはずだった。
打ち合わせは一時間ほど続いた。
好きな食べ物、苦手なもの、大学で専攻していること。
祖母に聞かれそうなことを一つずつ確認しながら、二人は何度も笑った。
「好きな食べ物は?」
「オムライスです。」
「じゃあ僕はカレーですね。」
「ちゃんと覚えます。」
そう言って美月はバッグから小さなメモ帳を取り出した。
「本当に書くんですか?」
「だって、間違えたら恋人ってばれちゃいますから。」
真剣そのものだ。
湊は思わず笑ってしまう。
「そんなに笑わないでください。」
「すみません。でも、おばあさんのことが本当に大切なんだなって伝わってきて。」
その一言に、美月は照れくさそうに笑った。
◇
翌日の午後。
二人は病院のロビーで待ち合わせをした。
昨日とは違う淡い水色のワンピース姿の美月は、湊を見つけると安心したように微笑んだ。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
病室へ向かう途中、美月が足を止める。
「あの……お願いがあるんです。」
「なんでしょう。」
「病室では、『白石さん』じゃなくて……『美月』って呼んでもらえますか?」
「分かりました。」
美月はほっと息をつく。
しかし、また何か言いたそうに視線を泳がせた。
「まだあります?」
「……恋人って、手くらいはつないでますよね。」
言い終える頃には、耳まで真っ赤になっていた。
湊は照れ笑いを浮かべながら右手を差し出す。
「必要なら。」
美月は小さくうなずき、その手に自分の手を重ねた。
少しひんやりしていて、かすかに震えている。
「緊張してます?」
「すごくしてます……。」
その様子を見ていた美月が、小さく笑う。
「神崎さんでも緊張するんですね。」
「正直に言います?」
「はい。」
「昨日、ちゃんと眠れませんでした。」
「……えっ?」
「恋人役の依頼は何度か受けていますけど、毎回緊張するんです。」
「慣れないんですか?」
「慣れたと思ったら駄目だと思っていて。」
湊は照れくさそうに頭をかく。
「依頼だからこそ、相手に嫌な思いをさせたくないんです。失敗したらどうしようって考え始めると、毎回なかなか寝付けなくて。」
一瞬きょとんとしていた美月は、やがて吹き出した。
「ふふっ。」
「笑いましたね。」
「だって、私だけじゃなかったんだって思ったら、少し安心しちゃいました。」
さっきまで強張っていた表情が、すっとやわらぐ。
「じゃあ、お互い様ですね。」
「はい。」
二人は顔を見合わせて笑った。
仕事として始まったはずの時間が、少しだけ自然なものに変わった気がした。
◇
病室へ入ると、祖母は嬉しそうに目を細めた。
「あらあら、本当に連れてきてくれたの。」
「おばあちゃん。」
「こんにちは。神崎です。」
軽く頭を下げると、祖母は何度もうなずいた。
「美月は昔から恥ずかしがり屋でねぇ。男の子に話しかけられただけで逃げてきた子だったの。」
「お、おばあちゃん!」
「だから安心したよ。」
祖母はそう言って、美月の手を優しく握る。
「こんな優しそうな人に出会えて。」
その言葉に、美月は照れながらも、どこか嬉しそうだった。
病室を出る頃には、窓の外は雨になっていた。
「降ってきましたね。」
湊は売店で傘を一本買う。
「一本しか残ってなくて。」
「駅まで近いですし、大丈夫です。」
二人で肩を寄せ合いながら歩き始めた。
沈黙は、不思議と気まずくない。
「今日は、本当にありがとうございました。」
美月がぽつりと口を開く。
「おばあちゃん、あんなに笑ったの久しぶりでした。」
「それなら依頼成功ですね。」
「はい。でも……。」
少しだけ照れ笑いを浮かべる。
「今日が、すごく楽しかったです。」
その言葉には、依頼人としてのお礼だけではない響きがあった。
駅へ着き、美月は封筒を差し出す。
「こちら、報酬です。」
「ありがとうございます。」
湊は受け取り、軽く頭を下げた。
「また困ったことがあれば、ご相談ください。」
「……はい。」
少しだけ迷ったあと、美月が笑う。
「そのときも、神崎さんが来てくれますか?」
「便利屋みなとは僕一人なので。」
一瞬きょとんとした美月は、すぐに笑顔になった。
「よかった。」
そう言って手を振り、人混みの中へ歩いていく。
その背中を見送りながら、湊のスマホが震えた。
『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』
画面を開く。
『海での撮影補助をお願いしたいです。
報酬 50,000円』
「……五万円?」
思わず画面を見返す。
こんな依頼が届くとは思ってもいなかった。
次回『水着なんて、恥ずかしいですよ。』




