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『恋の便利屋は、今日も依頼で恋をする。』  作者: 春野ケイ


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14/20

第14話 真夏のサンタクロース。

──────────────

Today's Heroine

白石 優奈

CLIENT DATA

年齢:28歳

身長:160cm

職業:保育士

雰囲気

・明るい

・面倒見がいい

・頑張り屋

・少し無理をしがち

外見

・肩までの黒髪

・白いブラウスにロングスカート

・優しい笑顔

主人公への第一印象

★★★★☆

恋愛タイプ

恋愛より娘優先

依頼内容

『娘に、一日だけサンタさんをお願いできますか。』

秘密

『夫とは離婚し、一人で娘を育てている。』

ドキドキ度

★★★☆☆

──────────────


 午前十時。


 神崎湊は駅前の喫茶店で、依頼内容を読み返していた。


『娘に、一日だけサンタさんをお願いできますか。』


「……真夏にサンタ。」


 思わず苦笑する。


 便利屋を始めてから、恋人役や犬探し、婚約者役まで経験してきた。


 だが、サンタクロースになるのは初めてだった。


「神崎さん。」


 優しい声に顔を上げる。


 白いブラウスにロングスカート姿の女性が、小さく頭を下げた。


「白石優奈です。」


「今日はよろしくお願いします。」


「神崎です。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


 二人は席に着く。


 注文したアイスコーヒーが運ばれてくると、優奈は少し照れくさそうに笑った。


「変な依頼ですよね。」


「そんなことありません。」


 湊は首を横に振る。


「便利屋ですから。」


 その一言に、優奈は少しだけ肩の力を抜いた。


「ありがとうございます。」


 そう言って、小さく笑う。


「娘が五歳になるんです。」


「誕生日、おめでとうございます。」


「ありがとうございます。」


 優奈は嬉しそうに笑ったあと、少しだけ困ったような表情になる。


「少し前に、娘が聞いてきたんです。」


『ママ。』


『サンタさんって、お誕生日にも来てくれないの?』


 その言葉を思い出したのか、優奈は優しく目を細めた。


「私は『サンタさんは冬しか来られないの』って答えました。」


「そしたら娘が。」


 思わず笑ってしまう。


『じゃあ、お誕生日だけ特別に来てくれたらいいのにな。』


「その一言が、ずっと頭から離れなくて。」


 優奈は両手でグラスを包み込む。


「クリスマスまで待ちなさい、でもよかったんです。」


「でも、一度しかない五歳の誕生日だから。」


「今年だけは、夢を叶えてあげたくて。」


 その言葉に、湊は静かにうなずいた。


「分かりました。」


「今日は僕が、真夏のサンタクロースになります。」


 優奈は目を丸くしたあと、安心したように笑った。


「ありがとうございます。」


「娘、きっと大喜びします。」


     ◇


 二人はレンタル衣装店へ向かった。


「夏なのにサンタ衣装を借りる人なんて、私くらいですよね。」


 優奈が照れ笑いを浮かべる。


「店員さんも少し驚いてました。」


「でも。」


 湊は赤いサンタ服を見ながら笑う。


「真夏だからこそ、特別感があります。」


「そう言ってもらえると安心します。」


 更衣室から着替えて出てくると、赤い衣装に白いひげ、赤い帽子。


 鏡の前に立った湊を見て、優奈は思わず吹き出した。


「似合ってます。」


「本当ですか?」


「はい。」


「娘なら絶対に信じます。」


 笑いながら帽子へ手を伸ばす。


「あ、少し曲がってます。」


「え?」


「動かないでください。」


 優奈は背伸びをし、帽子をまっすぐに直す。


 顔と顔の距離が、不意に近づく。


「あ……。」


 二人とも同時に気付き、少しだけ動きを止めた。


「す、すみません。」


 優奈は慌てて一歩下がる。


「近かったですね。」


「はい。」


 湊も照れくさそうに笑った。


「でも、おかげで本物のサンタらしくなりました。」


 その言葉に、優奈もつられて笑う。


「ありがとうございます。」


 少しずつ、緊張がほぐれていった。



 午後三時。


 二人は優奈の自宅へ向かった。


「陽菜には、『お昼寝から起きたら、サンタさんが来るかもね』って話してあります。」


「信じてくれそうですか?」


 湊が尋ねると、優奈は笑った。


「多分、疑うことなく信じます。」


「まだ五歳なので。」


 玄関の前で、湊は深呼吸を一つした。


「少し緊張しますね。」


「私もです。」


 優奈は小さく笑い、ドアを開けた。


「ただいま。」


 リビングでは、小さな女の子が絵本を読んでいた。


 母親の声に振り向く。


「ママ、おかえり!」


 そして、その後ろに立つ赤い服を見た瞬間。


 目を丸くした。


「……。」


「……。」


 数秒の沈黙。


 次の瞬間だった。


「サンタさんだぁー!」


 満面の笑みで駆け寄ってくる。


 湊はしゃがみ込み、優しく笑った。


「こんにちは。」


「今日は陽菜ちゃんのお誕生日だから、特別に遊びに来たよ。」


「ほんと?」


「うん。」


「いい子にしてたって聞いたからね。」


 陽菜は嬉しそうに何度もうなずいた。


「わたし、おてつだいもしたよ!」


「ママのおてつだい!」


「それはサンタさんも聞いてるよ。」


 湊がそう言うと、陽菜は照れくさそうに笑った。


 その様子を見ていた優奈は、ほっとしたように胸をなで下ろす。


     ◇


「サンタさん!」


「プレゼントよりね!」


「いっしょにあそびたい!」


 陽菜は小さな手で湊の手を握る。


「もちろん。」


「今日はいっぱい遊ぼう。」


 三人はリビングで積み木をしたり、お絵描きをしたり、風船で遊んだりした。


 陽菜の笑い声が家中に響く。


「サンタさん!」


「これ見て!」


 描き上げた絵には、大きな赤い服のサンタと、笑顔のママ、そして真ん中で笑う陽菜が描かれていた。


「上手ですね。」


「えへへ。」


 陽菜は誇らしそうに胸を張る。


 優奈はその絵を見つめながら、小さく笑った。


「宝物になりそう。」


     ◇


 プレゼントを渡す時間になった。


「陽菜ちゃん。」


「はい!」


「お誕生日、おめでとう。」


 大きな箱を受け取った陽菜は、目を輝かせる。


「開けてもいい?」


「もちろん。」


 包装紙を一生懸命はがす。


「わぁ!」


 中から出てきたのは、ずっと欲しがっていたおままごとセットだった。


「これ!」


「ずっとほしかったの!」


 嬉しそうに抱きしめる。


「ありがとう、サンタさん!」


 その笑顔を見た優奈は、思わず目元を押さえた。


「どうしました?」


 湊が小さな声で尋ねる。


 優奈は笑いながら首を振る。


「嬉しくて。」


「こんなに喜ぶ顔、久しぶりに見ました。」


     ◇


「サンタさん!」


 陽菜が元気よく声を上げる。


「ママもいっしょ!」


「写真とろ!」


「え?」


 優奈は少し戸惑う。


「ママも?」


「もちろん!」


「おたんじょうびだから!」


 陽菜に手を引かれ、優奈は湊の隣へ立つ。


「もう少し近く!」


 陽菜はスマホを構えながら笑う。


「サンタさん、ママが遠いよ!」


「あ……。」


 優奈は照れながら、ほんの少しだけ肩を寄せた。


 その距離に、お互い少しだけ緊張する。


「はい、チーズ!」


 パシャッ。


 写真の中には、笑顔のサンタと、少し照れた母親、そして満面の笑みの陽菜が写っていた。


「やったぁ!」


 陽菜は嬉しそうに写真を見つめる。


「これ、ずっとのこす!」


     ◇


 夕方。


 たくさん遊んで疲れた陽菜は、お気に入りのぬいぐるみを抱いたまま眠ってしまった。


 寝顔を見つめる優奈は、小さく毛布を掛け直す。


「本当にありがとうございました。」


 静かな声だった。


 二人はリビングを出て、ベランダへ出る。


 夏の夕暮れの風が、心地よく吹いていた。


「久しぶりでした。」


 優奈がぽつりとつぶやく。


「こんなに家の中で笑ったの。」


「陽菜ちゃん、本当に楽しそうでした。」


「はい。」


 優奈は少し照れながら笑う。


「それと……。」


「男性と、こんなにゆっくり話したのも久しぶりです。」


 風が吹き、優奈の髪がふわりと揺れる。


「毎日仕事と育児だけで。」


「誰かと、こんな時間を過ごすことなんてなかったので。」


 湊は静かにうなずいた。


「今日くらいは、自分へのご褒美だと思ってください。」


 優奈は少し驚いたあと、優しく笑った。


「そうですね。」


「たまには、いいですよね。」


     ◇


 帰る時間になった。


 玄関まで見送りに来た優奈の後ろから、小さな足音が聞こえた。


「サンタさん!」


 眠そうな目をこすりながら、陽菜が立っていた。


「起きちゃったの?」


「うん。」


 陽菜は小さな手を大きく振る。


「またきてね!」


「冬もきてね!」


 湊はサンタ帽を軽く押さえながら笑う。


「もちろん。」


「いい子にしてたら、また会えるよ。」


「やったぁ!」


 陽菜は満足そうに笑った。


 優奈も深く頭を下げる。


「今日は、一生忘れられない誕生日になりました。」


「こちらこそ。」


 湊も笑顔で頭を下げる。


 真夏に訪れた、たった一日だけのサンタクロース。


 その思い出は、きっと冬になっても色あせることはない。


     ◇


 帰り道。


 湊のスマホが震えた。


『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』


 画面を開く。


『水着を選ぶのを、手伝ってください。』


「……僕が?」


 便利屋の仕事は、今日も予想外だった。


次回『試着室の向こう側。』


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