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『恋の便利屋は、今日も依頼で恋をする。』  作者: 春野ケイ


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13/20

第13話 妹の彼氏、面接します。

──────────────

Today's Heroine

藤原 千夏

CLIENT DATA

年齢:26歳

身長:163cm

職業:会社員

雰囲気

・面倒見がいい

・サバサバしている

・妹が大好き

・少し意地っ張り

外見

・ショートボブ

・パンツスタイル

・シルバーの腕時計

主人公への第一印象

★★★☆☆

恋愛タイプ

恋愛より家族優先

依頼内容

『妹の彼氏を見極めたいので、一日だけ恋人になってください。』

秘密

『妹を取られるのが少し寂しい。』

ドキドキ度

★★★★☆

──────────────


 午前十時。


 神崎湊は駅前の広場で、依頼内容をもう一度見返した。


『妹の彼氏を見極めたいので、一日だけ恋人になってください。』


「……面接、か。」


 恋人役の依頼はこれまでにも受けた。


 しかし今回は、恋人を演じることが目的ではない。


 妹の彼氏がどんな人なのか、一緒に見極めるための依頼だった。


「神崎さん!」


 元気な声に振り向く。


 ショートボブの女性が、小走りで近づいてきた。


「藤原千夏です。今日はよろしくお願いします。」


「神崎です。よろしくお願いします。」


 二人は軽く頭を下げ合う。


「早速なんですが。」


 千夏は苦笑しながら切り出した。


「妹に初めて彼氏ができたんです。」


「おめでたい話ですね。」


「そうなんです。」


「……でも。」


 少しだけ複雑そうに笑う。


「姉としては、簡単に『よかったね』って言えなくて。」


「本当に大事にしてくれる人なのかなって、どうしても気になっちゃうんです。」


 湊は静かにうなずく。


「今日はダブルデートという形なんですね。」


「はい。」


「妹には『私も彼氏ができた』って言っちゃって。」


「その彼氏役が神崎さんです。」


 少し申し訳なさそうに頭を下げる。


「無茶なお願いですよね。」


「いえ。」


 湊は穏やかに笑う。


「今日は恋人役というより、一緒に面接官ですね。」


 その一言に、千夏は吹き出した。


「それです!」


「その表現、ぴったりです!」


 二人の緊張が少しだけほぐれた。


     ◇


 待ち合わせ場所のショッピングモールまでは徒歩十分ほど。


 歩き始めたところで、千夏が急に立ち止まった。


「神崎さん。」


「はい?」


「妹の前では……。」


 少しだけ視線を泳がせる。


「ちゃんと恋人らしくしてくださいね。」


「もちろんです。」


「じゃあ……。」


 千夏は深呼吸を一つして、小さく右手を差し出した。


「手、つなぎますか。」


「……。」


 湊は一瞬だけ驚いたが、すぐに笑ってうなずく。


「そうですね。」


 そっと手を重ねる。


 恋人つなぎではなく、自然に指を重ねるだけ。


 それなのに、二人とも少し照れくさかった。


「思ったより……。」


 千夏が小さく笑う。


「緊張しますね。」


「僕もです。」


 思わず笑い合う。


 すると、その笑顔を見ていた小さな男の子が母親へ言った。


「ママ、あのお兄ちゃんとお姉ちゃん、仲良しだね!」


「しっ。」


 母親は苦笑しながら子どもの頭をなでる。


 二人は顔を見合わせ、さらに照れてしまった。


     ◇


ショッピングモールへ到着すると、妹が大きく手を振った。


「お姉ちゃーん!」


 その隣には、背の高い青年が立っている。


「待たせちゃった!」


 妹は駆け寄るなり、湊へ興味津々の視線を向けた。


「こちらがお姉ちゃんの彼氏さん?」


「初めまして。」


 湊が頭を下げる。


「神崎湊です。」


「妹の美咲です!」


 元気いっぱいに笑う。


「こっちが彼氏の翔太!」


「初めまして。」


 翔太も礼儀正しく頭を下げた。


「よろしくお願いします。」


 その落ち着いた受け答えを見て、千夏は心の中で少し拍子抜けする。


(……思ったより、ちゃんとしてる。)


「今日はね!」


 美咲が嬉しそうに笑う。


「映画を観て、ご飯を食べて、それから少し買い物する予定なの!」


「せっかくだから、四人で一日楽しもうって決めたんだ!」


「いいですね。」


 湊が笑うと、翔太もうなずいた。


「上映まで四十分くらいあるので。」


「その間に雑貨を見ようって話してたんです。」


「じゃあ行こう!」


 美咲は翔太の手を引き、少し前を歩き始める。


 その後ろで、千夏が小さな声で話しかけた。


「神崎さん。」


「はい。」


「妹って、意外と鋭いんです。」


「だから……今日だけは、妹たちの前では恋人らしくお願いします。」


 少し照れながら続ける。


「手をつないだり、少し距離が近くなったりしても……演技だと思ってください。」


 湊は穏やかにうなずく。


「分かりました。」


「今日は最後まで、恋人役を務めます。」


 千夏はほっとしたように微笑んだ。


「よろしくお願いします。」


 こうして四人のダブルデートが始まった。



 雑貨店へ入ると、美咲は楽しそうに店内を歩き回った。


「このマグカップかわいい!」


「翔太、見て見て!」


「本当だ。」


 翔太は笑いながらマグカップを受け取り、値札をちらりと見る。


「でも、こっちの方が軽くて使いやすそうじゃない?」


「確かに!」


 二人は自然と相談しながら商品を選んでいる。


 その様子を見て、千夏は小さくつぶやいた。


「ちゃんと相手のことを考えてる。」


「いい彼氏ですね。」


 湊も静かにうなずいた。


 そのときだった。


「お姉ちゃん!」


 美咲が振り返る。


「彼氏さんと距離遠くない?」


「え?」


「せっかくのデートなんだから、もっと近く歩こうよ!」


 千夏は一瞬だけ固まる。


 依頼のことを思い出し、小さく息を吸った。


「……神崎さん。」


「はい。」


「お願いします。」


 湊は小さくうなずく。


 千夏は少し照れながら、そっと湊の腕へ自分の腕を絡めた。


「あ……。」


 思っていたより近い。


 二人とも少しだけ照れてしまう。


「うんうん!」


 美咲は満足そうに笑った。


「そのくらい仲良しじゃないと!」


 翔太も苦笑しながらうなずく。


「仲が良さそうで安心しました。」


 その言葉に、千夏は思わず苦笑した。


(演技なんだけどね。)


     ◇


 映画館へ向かう。


 上映まであと十分。


 四人はポップコーンと飲み物を買い、シアターへ入った。


 席は四人並びだった。


 美咲がチケットを見比べながら笑う。


「あ、お姉ちゃん。」


「彼氏さんと離れてるよ。」


 見ると、


 千夏―美咲―翔太―湊


 という並びになっていた。


「これじゃ変だよね。」


 美咲は楽しそうにチケットを交換する。


「はい!」


 並びは、


 湊―千夏―美咲―翔太


 になった。


「これで完璧!」


 千夏は小さくため息をつく。


「妹には敵いません。」


「美咲さんは、元気ですね。」


 湊が笑うと、千夏もつられて笑った。


     ◇


 映画が始まる。


 館内が暗くなると、自然と会話も止んだ。


 途中、突然大きな効果音が鳴る。


 ドンッ!


「きゃっ。」


 千夏は思わず肩を震わせる。


 反射的に、湊の腕をぎゅっとつかんでしまった。


「あ……。」


 我に返り、慌てて手を離す。


「す、すみません!」


「びっくりして。」


「大丈夫です。」


 湊は小さく笑う。


「映画ですから。」


 そのまま映画に視線を戻す。


 千夏は自分の鼓動が少し速くなっていることに気付き、頬を赤くした。


     ◇


 映画を見終えた四人はフードコートへ向かった。


「面白かったね!」


 美咲は嬉しそうに笑う。


「最後、泣きそうになっちゃった。」


「俺もちょっと危なかった。」


 翔太も照れ笑いを浮かべる。


 食事中も、翔太は自然に美咲の飲み物を運び、空いたトレーをまとめて片付けていた。


 店員への「ごちそうさまでした」も忘れない。


 その姿を見ながら、千夏は小さく息を吐く。


「……もう十分ですね。」


 湊も静かにうなずいた。


「僕もそう思います。」


     ◇


 帰り際。


 翔太が千夏へ向き直った。


「お姉さん。」


「今日はありがとうございました。」


「正直、少し緊張してました。」


 千夏は少し驚く。


「どうして?」


「初めて会うので。」


 翔太は照れくさそうに笑う。


「認めてもらえるか、不安でした。」


 一度、美咲を見る。


「でも。」


「僕は本気で美咲さんを幸せにしたいと思っています。」


「まだ頼りないところもありますけど。」


「よろしくお願いします。」


 千夏は少しだけ目を潤ませながら笑った。


「……うん。」


「妹をよろしくね。」


 美咲は嬉しそうに千夏へ抱きつく。


「お姉ちゃん!」


「幸せになるから!」


「分かってる。」


 千夏は優しく頭をなでた。


     ◇


 二人を見送った帰り道。


 千夏は空を見上げながら笑う。


「妹の彼氏。」


「合格です。」


 湊も笑った。


「満点だったと思います。」


 千夏は少し照れながら続ける。


「それと。」


「神崎さん。」


「はい。」


「恋人役も、合格でした。」


 湊は思わず苦笑する。


「ありがとうございます。」


 二人は顔を見合わせ、自然と笑い合った。


     ◇


 湊のスマホが震える。


『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』


 画面を開く。


『娘に、サンタさんをお願いできますか?』


「……サンタ?」


 便利屋の仕事は、今日も誰かの笑顔のために続いていく。


次回『真夏のサンタクロース。』


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