第13話 妹の彼氏、面接します。
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Today's Heroine
藤原 千夏
CLIENT DATA
年齢:26歳
身長:163cm
職業:会社員
雰囲気
・面倒見がいい
・サバサバしている
・妹が大好き
・少し意地っ張り
外見
・ショートボブ
・パンツスタイル
・シルバーの腕時計
主人公への第一印象
★★★☆☆
恋愛タイプ
恋愛より家族優先
依頼内容
『妹の彼氏を見極めたいので、一日だけ恋人になってください。』
秘密
『妹を取られるのが少し寂しい。』
ドキドキ度
★★★★☆
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午前十時。
神崎湊は駅前の広場で、依頼内容をもう一度見返した。
『妹の彼氏を見極めたいので、一日だけ恋人になってください。』
「……面接、か。」
恋人役の依頼はこれまでにも受けた。
しかし今回は、恋人を演じることが目的ではない。
妹の彼氏がどんな人なのか、一緒に見極めるための依頼だった。
「神崎さん!」
元気な声に振り向く。
ショートボブの女性が、小走りで近づいてきた。
「藤原千夏です。今日はよろしくお願いします。」
「神崎です。よろしくお願いします。」
二人は軽く頭を下げ合う。
「早速なんですが。」
千夏は苦笑しながら切り出した。
「妹に初めて彼氏ができたんです。」
「おめでたい話ですね。」
「そうなんです。」
「……でも。」
少しだけ複雑そうに笑う。
「姉としては、簡単に『よかったね』って言えなくて。」
「本当に大事にしてくれる人なのかなって、どうしても気になっちゃうんです。」
湊は静かにうなずく。
「今日はダブルデートという形なんですね。」
「はい。」
「妹には『私も彼氏ができた』って言っちゃって。」
「その彼氏役が神崎さんです。」
少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「無茶なお願いですよね。」
「いえ。」
湊は穏やかに笑う。
「今日は恋人役というより、一緒に面接官ですね。」
その一言に、千夏は吹き出した。
「それです!」
「その表現、ぴったりです!」
二人の緊張が少しだけほぐれた。
◇
待ち合わせ場所のショッピングモールまでは徒歩十分ほど。
歩き始めたところで、千夏が急に立ち止まった。
「神崎さん。」
「はい?」
「妹の前では……。」
少しだけ視線を泳がせる。
「ちゃんと恋人らしくしてくださいね。」
「もちろんです。」
「じゃあ……。」
千夏は深呼吸を一つして、小さく右手を差し出した。
「手、つなぎますか。」
「……。」
湊は一瞬だけ驚いたが、すぐに笑ってうなずく。
「そうですね。」
そっと手を重ねる。
恋人つなぎではなく、自然に指を重ねるだけ。
それなのに、二人とも少し照れくさかった。
「思ったより……。」
千夏が小さく笑う。
「緊張しますね。」
「僕もです。」
思わず笑い合う。
すると、その笑顔を見ていた小さな男の子が母親へ言った。
「ママ、あのお兄ちゃんとお姉ちゃん、仲良しだね!」
「しっ。」
母親は苦笑しながら子どもの頭をなでる。
二人は顔を見合わせ、さらに照れてしまった。
◇
ショッピングモールへ到着すると、妹が大きく手を振った。
「お姉ちゃーん!」
その隣には、背の高い青年が立っている。
「待たせちゃった!」
妹は駆け寄るなり、湊へ興味津々の視線を向けた。
「こちらがお姉ちゃんの彼氏さん?」
「初めまして。」
湊が頭を下げる。
「神崎湊です。」
「妹の美咲です!」
元気いっぱいに笑う。
「こっちが彼氏の翔太!」
「初めまして。」
翔太も礼儀正しく頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
その落ち着いた受け答えを見て、千夏は心の中で少し拍子抜けする。
(……思ったより、ちゃんとしてる。)
「今日はね!」
美咲が嬉しそうに笑う。
「映画を観て、ご飯を食べて、それから少し買い物する予定なの!」
「せっかくだから、四人で一日楽しもうって決めたんだ!」
「いいですね。」
湊が笑うと、翔太もうなずいた。
「上映まで四十分くらいあるので。」
「その間に雑貨を見ようって話してたんです。」
「じゃあ行こう!」
美咲は翔太の手を引き、少し前を歩き始める。
その後ろで、千夏が小さな声で話しかけた。
「神崎さん。」
「はい。」
「妹って、意外と鋭いんです。」
「だから……今日だけは、妹たちの前では恋人らしくお願いします。」
少し照れながら続ける。
「手をつないだり、少し距離が近くなったりしても……演技だと思ってください。」
湊は穏やかにうなずく。
「分かりました。」
「今日は最後まで、恋人役を務めます。」
千夏はほっとしたように微笑んだ。
「よろしくお願いします。」
こうして四人のダブルデートが始まった。
◇
雑貨店へ入ると、美咲は楽しそうに店内を歩き回った。
「このマグカップかわいい!」
「翔太、見て見て!」
「本当だ。」
翔太は笑いながらマグカップを受け取り、値札をちらりと見る。
「でも、こっちの方が軽くて使いやすそうじゃない?」
「確かに!」
二人は自然と相談しながら商品を選んでいる。
その様子を見て、千夏は小さくつぶやいた。
「ちゃんと相手のことを考えてる。」
「いい彼氏ですね。」
湊も静かにうなずいた。
そのときだった。
「お姉ちゃん!」
美咲が振り返る。
「彼氏さんと距離遠くない?」
「え?」
「せっかくのデートなんだから、もっと近く歩こうよ!」
千夏は一瞬だけ固まる。
依頼のことを思い出し、小さく息を吸った。
「……神崎さん。」
「はい。」
「お願いします。」
湊は小さくうなずく。
千夏は少し照れながら、そっと湊の腕へ自分の腕を絡めた。
「あ……。」
思っていたより近い。
二人とも少しだけ照れてしまう。
「うんうん!」
美咲は満足そうに笑った。
「そのくらい仲良しじゃないと!」
翔太も苦笑しながらうなずく。
「仲が良さそうで安心しました。」
その言葉に、千夏は思わず苦笑した。
(演技なんだけどね。)
◇
映画館へ向かう。
上映まであと十分。
四人はポップコーンと飲み物を買い、シアターへ入った。
席は四人並びだった。
美咲がチケットを見比べながら笑う。
「あ、お姉ちゃん。」
「彼氏さんと離れてるよ。」
見ると、
千夏―美咲―翔太―湊
という並びになっていた。
「これじゃ変だよね。」
美咲は楽しそうにチケットを交換する。
「はい!」
並びは、
湊―千夏―美咲―翔太
になった。
「これで完璧!」
千夏は小さくため息をつく。
「妹には敵いません。」
「美咲さんは、元気ですね。」
湊が笑うと、千夏もつられて笑った。
◇
映画が始まる。
館内が暗くなると、自然と会話も止んだ。
途中、突然大きな効果音が鳴る。
ドンッ!
「きゃっ。」
千夏は思わず肩を震わせる。
反射的に、湊の腕をぎゅっとつかんでしまった。
「あ……。」
我に返り、慌てて手を離す。
「す、すみません!」
「びっくりして。」
「大丈夫です。」
湊は小さく笑う。
「映画ですから。」
そのまま映画に視線を戻す。
千夏は自分の鼓動が少し速くなっていることに気付き、頬を赤くした。
◇
映画を見終えた四人はフードコートへ向かった。
「面白かったね!」
美咲は嬉しそうに笑う。
「最後、泣きそうになっちゃった。」
「俺もちょっと危なかった。」
翔太も照れ笑いを浮かべる。
食事中も、翔太は自然に美咲の飲み物を運び、空いたトレーをまとめて片付けていた。
店員への「ごちそうさまでした」も忘れない。
その姿を見ながら、千夏は小さく息を吐く。
「……もう十分ですね。」
湊も静かにうなずいた。
「僕もそう思います。」
◇
帰り際。
翔太が千夏へ向き直った。
「お姉さん。」
「今日はありがとうございました。」
「正直、少し緊張してました。」
千夏は少し驚く。
「どうして?」
「初めて会うので。」
翔太は照れくさそうに笑う。
「認めてもらえるか、不安でした。」
一度、美咲を見る。
「でも。」
「僕は本気で美咲さんを幸せにしたいと思っています。」
「まだ頼りないところもありますけど。」
「よろしくお願いします。」
千夏は少しだけ目を潤ませながら笑った。
「……うん。」
「妹をよろしくね。」
美咲は嬉しそうに千夏へ抱きつく。
「お姉ちゃん!」
「幸せになるから!」
「分かってる。」
千夏は優しく頭をなでた。
◇
二人を見送った帰り道。
千夏は空を見上げながら笑う。
「妹の彼氏。」
「合格です。」
湊も笑った。
「満点だったと思います。」
千夏は少し照れながら続ける。
「それと。」
「神崎さん。」
「はい。」
「恋人役も、合格でした。」
湊は思わず苦笑する。
「ありがとうございます。」
二人は顔を見合わせ、自然と笑い合った。
◇
湊のスマホが震える。
『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』
画面を開く。
『娘に、サンタさんをお願いできますか?』
「……サンタ?」
便利屋の仕事は、今日も誰かの笑顔のために続いていく。
次回『真夏のサンタクロース。』




