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『恋の便利屋は、今日も依頼で恋をする。』  作者: 春野ケイ


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12/20

第12話 初恋は、まだ見つからない。

──────────────

Today's Heroine

朝倉 結衣

CLIENT DATA

年齢:22歳

身長:158cm

職業:小学校教師

雰囲気

・明るい

・素直

・少し天然

・子ども好き

外見

・肩までの茶髪

・白いブラウスに紺色スカート

・トートバッグ

主人公への第一印象

★★★★☆

恋愛タイプ

一途

依頼内容

『初恋の人を探してください。』

秘密

『会いたい理由は、好きだからじゃない。』

ドキドキ度

★★★★☆

──────────────


 午前十時。


 神崎湊は駅前の時計台の前で、一人の女性へ声を掛けた。


「朝倉さんですか?」


 白いブラウスに紺色のスカート姿の女性が、ぱっと顔を上げる。


「あっ、神崎さん!」


 柔らかな笑顔で頭を下げた。


「朝倉結衣です。本日はよろしくお願いします。」


「神崎です。よろしくお願いします。」


 二人は軽く頭を下げ合う。


 湊はスマホに届いていた依頼文を思い出す。


『初恋の人を探してください。』


 恋人役でもなければ、荷物運びでもない。


 人探しの依頼は初めてだった。


「初恋の人を探すって……。」


 湊が切り出すと、結衣は少し照れくさそうに笑った。


「よく勘違いされるんですけど。」


「復縁したいわけじゃないんです。」


「そうなんですか?」


「はい。」


 トートバッグから一枚の古い写真を取り出す。


 そこには、小学生の頃らしい男女が並んで写っていた。


「この男の子です。」


「名前は佐伯悠斗くん。」


「小学四年生のとき、転校しちゃって。」


 写真を見つめる目が、少しだけ懐かしそうになる。


「その子に、一度だけ『ありがとう』を言いたいんです。」


 湊は写真を静かに見つめた。


「何かあったんですか?」


 結衣はゆっくりとうなずく。


「私、小さい頃は人前で話すのが苦手で。」


「クラスでも、よく一人でいたんです。」


 少しだけ笑う。


「そんなとき、悠斗くんだけが普通に話しかけてくれて。」


「一緒に遊ぼうって言ってくれました。」


 風が写真の端を揺らす。


「そのおかげで学校が好きになったんです。」


「でも、お礼を言う前に転校しちゃって……。」


 結衣は写真を大事そうにしまった。


「だから先生になれた今、一度だけ伝えたいんです。」


「ありがとうって。」


 湊は静かにうなずいた。


「一緒に探しましょう。」


 その一言に、結衣は安心したように微笑んだ。


「よろしくお願いします。」



「まずは、小学校へ行ってみませんか?」


 結衣が提案した。


「卒業アルバムが残っているかもしれないので。」


「いいですね。」


 二人は結衣の母校へ向かった。


 職員室で事情を説明すると、昔の卒業アルバムを見せてもらえることになった。


「懐かしい……。」


 結衣はページをめくるたび、小さく笑う。


「この先生、まだいるんです。」


「この子は今も仲良しで。」


 思い出話が止まらない。


 そんな中、一人の女性教師が声を掛けてきた。


「あれ? 朝倉先生?」


「やっぱり!」


 結衣は振り返る。


「久しぶりです!」


 どうやら教育実習でお世話になった先生らしい。


 しばらく話したあと、結衣は本題を切り出した。


「佐伯悠斗くんって覚えてますか?」


 先生は少し考え込む。


「佐伯くん……。」


「ああ、転校した子ね。」


「卒業前に市外へ引っ越したはずよ。」


「その後は分からないなぁ。」


 期待したほどの手掛かりは得られなかった。


「ありがとうございます。」


 結衣は笑顔で頭を下げた。


 学校を出ると、小さく息を吐く。


「簡単には見つかりませんね。」


「まだ始まったばかりですよ。」


 湊が言うと、結衣も前を向いた。


「そうですね。」


     ◇


 二人は写真に写っていた公園へ向かった。


「ここです。」


 結衣はベンチを指差す。


「放課後は、いつもここで遊んでました。」


 ブランコは新しくなっていたが、公園の景色はどこか昔の面影を残していた。


「先生。」


 近くで遊んでいた小学生が結衣を見つけ、駆け寄ってくる。


「朝倉先生!」


「こんにちは!」


「こんにちは。」


 結衣は自然に目線を合わせ、笑顔で話しかける。


「宿題ちゃんとやってる?」


「やってる!」


「嘘だー!」


 子どもたちが笑い出す。


 その様子を見ていた湊も、思わず笑みを浮かべた。


 子どもたちが帰っていくと、結衣は少し照れくさそうに笑う。


「学校の近くだから、たまに会うんです。」


「人気の先生なんですね。」


「そんなことないですよ。」


「でも……。」


 結衣は公園を見回す。


「悠斗くんも、こんなふうに笑わせてくれる子でした。」


     ◇


 その後も二人は何軒か聞き込みを続けた。


 しかし、手掛かりはなかなか見つからない。


 時計を見ると、もう夕方だった。


「今日は見つからないかもしれませんね。」


 結衣は少しだけ寂しそうに笑った。


「そうですね。」


 湊が答えた、そのときだった。


「あれ?」


 結衣が一軒のクリーニング店を見つめる。


「ここ……。」


 店先に立っていた年配の女性が二人へ気付く。


「何かお探しですか?」


 結衣は古い写真を見せた。


「この子を探しているんです。」


 女性は写真を見るなり目を細めた。


「ああ、悠斗ちゃん?」


 二人は思わず顔を見合わせる。


「ご存じなんですか?」


「ええ。」


「今は消防士さんになってるよ。」


 結衣の目が大きく開く。


「消防士……。」


「この町にはいないけど、隣の市の消防署へ勤めてるはず。」


 ようやく見つかった、大きな手掛かりだった。


 結衣は写真を胸に抱きしめる。


「ありがとうございます!」


 深く頭を下げる。


 店を出たあと、結衣は嬉しそうに笑った。


「やっと見つかりそうです。」


 湊もうなずく。


「あと一歩ですね。」


 二人は夕焼けに染まる道を歩き出した。


 初恋の人へ伝えたかった「ありがとう」まで、あと少しだった。



 翌日。


 二人は隣町の消防署を訪れていた。


「本当にいるかな……。」


 結衣は緊張した様子で制服姿の消防士たちを見つめる。


「会えなかったとしても、ここまで来たことに意味はあります。」


 湊がそう言うと、結衣は小さくうなずいた。


「……はい。」


 受付で事情を説明すると、一人の消防士が奥へ入っていく。


 数分後。


 足音が近づいてきた。


「お待たせしました。」


 現れた男性を見た瞬間、結衣は息をのんだ。


「……悠斗くん?」


 男性も足を止める。


 しばらく結衣を見つめていたが、やがて驚いたように目を見開いた。


「……朝倉?」


「結衣?」


 その一言だけで、二人とも思わず笑顔になった。


「覚えててくれたんだ。」


「忘れるわけないだろ。」


 悠斗は少し照れくさそうに笑う。


「急に転校しちゃって、ちゃんと挨拶もできなかったから。」


 結衣は胸の前で手をぎゅっと握る。


「私も。」


「ずっと会いたかったの。」


     ◇


 消防署の近くの公園へ移動し、三人はベンチへ腰を下ろした。


 湊は少し離れた場所から、二人を静かに見守る。


「消防士になったんだね。」


「子どもの頃からの夢だったから。」


 悠斗は照れ笑いを浮かべる。


「結衣は?」


「小学校の先生。」


「やっぱり。」


 悠斗は嬉しそうに笑った。


「昔から、小さい子の面倒を見るの上手だったもんな。」


 結衣は少し笑って首を振る。


「違うよ。」


「先生になったのは……。」


 一度息を吸う。


「悠斗くんのおかげ。」


 悠斗は首をかしげた。


「え?」


「私、小学生の頃、人と話すのが苦手だった。」


「学校も嫌いだった。」


「でも。」


 結衣はまっすぐ悠斗を見る。


「悠斗くんだけは、毎日話しかけてくれた。」


『一緒に遊ぼう。』


『一人じゃつまらないだろ。』


 そんな何気ない言葉が、どれだけ嬉しかったか。


「学校が好きになったの。」


「人と話すのも、少しずつ楽しくなった。」


「だから。」


 結衣は深く頭を下げた。


「ありがとう。」


「ずっと言えなかった。」


「でも、今日やっと言えた。」


 悠斗は照れくさそうに頭をかいた。


「そんな昔のこと。」


「俺、全然覚えてなかった。」


「でも。」


 少しだけ笑う。


「先生になったって聞けて、なんか嬉しい。」


「ありがとう。」


 二人は笑い合った。


 もう、そこに「初恋」のぎこちなさはなかった。


 長い時間を越えて再会した、昔の友達の笑顔だった。


     ◇


 消防署へ戻る前。


 悠斗は湊にも頭を下げた。


「今日はありがとうございました。」


「こちらこそ。」


 湊も笑顔で返す。


「結衣さんの『ありがとう』が届いてよかったです。」


 悠斗はうなずき、職場へ戻っていった。


 その背中を見送りながら、結衣は大きく息を吐く。


「終わっちゃいました。」


「後悔はありますか?」


 湊が尋ねる。


 結衣は少し考えてから、首を横に振った。


「ありません。」


「初恋は実らなかったけど。」


 空を見上げて微笑む。


「今日、やっと思い出になりました。」


 その表情は、どこか晴れやかだった。


「先生になってよかった。」


「そう思えました。」


 湊も優しく笑う。


「きっと、その気持ちがお礼になったんだと思います。」


「そうですね。」


 結衣は元気よくうなずいた。


「依頼して、本当によかったです。」


     ◇


 結衣と別れたあと。


 湊のスマホが震える。


『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』


 画面を開く。


『妹の彼氏を見極めてください。』


「見極める?」


 続きを読む。


『彼氏の本性を知りたいので、一日だけ私の恋人になってください。』


 湊は思わず苦笑した。


「……また恋人役か。」


 便利屋の仕事は、今日も一筋縄ではいかない。


次回『妹の彼氏、面接します。』

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