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『恋の便利屋は、今日も依頼で恋をする。』  作者: 春野ケイ


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10/20

第10話 秘密の誕生日作戦。

──────────────

Today's Heroine

高橋 由奈

CLIENT DATA

年齢:21歳

身長:157cm

職業:大学3年生

雰囲気

・明るい

・行動力がある

・少しおっちょこちょい

・家族思い

外見

・肩までの黒髪

・黄色のカーディガン

・デニムパンツ

主人公への第一印象

★★★★☆

恋愛タイプ

好きな人には素直

依頼内容

『父の誕生日を成功させたいんです。』

秘密

『父は十年間、一度も自分の誕生日を祝っていない。』

ドキドキ度

★★★☆☆

──────────────


 午前十時。


 神崎湊は駅前のカフェへ足を運んだ。


 今日の依頼人は、高橋由奈。


 窓際の席では、黄色のカーディガンを羽織った女性が、何度もスマホを確認していた。


 目が合うと、ぱっと立ち上がる。


「神崎さんですか?」


「はい。神崎です。」


「高橋由奈です! 本日はよろしくお願いします!」


 元気よく頭を下げる姿に、湊も思わず笑顔になる。


 二人は席に着くと、由奈は少しだけ真剣な表情になった。


「早速なんですが……。」


「父の誕生日を成功させたいんです。」


「誕生日ですか。」


 湊が聞き返すと、由奈は大きくうなずく。


「でも、お父さんって祝われるのが大嫌いなんです。」


「毎年、『そんなことしなくていい』って。」


「ケーキを買っても、『もったいない』って言うし、プレゼントも『自分に金を使うな』って。」


 少し困ったように笑う。


「だから今年は、絶対にサプライズで祝いたいんです。」


「なるほど。」


「飾り付けとか、買い物とか、一人じゃ絶対ばれちゃうので……。」


「手伝ってもらえませんか?」


 湊はうなずいた。


「もちろんです。」


「じゃあ、お父さんを驚かせましょう。」


 由奈の表情がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます!」


     ◇


 二人が向かったのは、大型の雑貨店だった。


「風船って意外と種類あるんですね。」


 由奈は店内を見回しながら目を輝かせる。


「数字のバルーンもありますよ。」


「五十二歳だから……『5』と『2』ですね!」


 嬉しそうにカゴへ入れる。


「これもかわいい。」


「これも!」


 気付けばカゴの中は飾りでいっぱいになっていた。


 湊は苦笑する。


「ちょっと買いすぎじゃありません?」


「え?」


 由奈はカゴをのぞき込み、


「あ……。」


 照れ笑いを浮かべた。


「楽しみになっちゃって。」


「気持ちは分かります。」


「ですよね!」


 その一言だけで、由奈はまた笑顔になった。


     ◇


「あと一つだけ。」


 由奈は棚の一番上を見上げた。


「星のガーランドが欲しいんです。」


 しかし、高い棚にあって手が届かない。


 つま先立ちになって腕を伸ばす。


「あと少し……。」


「届きませんね。」


「あと一センチなのに。」


 必死な姿が少しおかしくて、湊は笑いながら後ろへ回った。


「失礼します。」


 そのまま手を伸ばし、ガーランドを取る。


「はい。」


「ありがとうございます!」


 由奈は勢いよく振り返る。


「あっ。」


 思っていたより距離が近い。


 二人とも一瞬だけ動きが止まった。


「ち、近っ。」


 由奈は耳まで赤くしながら一歩下がる。


「すみません!」


「いえ。」


 湊も照れくさそうに笑う。


「取ることしか考えてませんでした。」


「私もです……。」


 二人は顔を見合わせると、思わず吹き出した。


 店内に、小さな笑い声が響いた。


(後半へ続く)の誕生日作戦。


──────────────

Today's Heroine

高橋 由奈

CLIENT DATA

年齢:21歳

身長:157cm

職業:大学3年生

雰囲気

・明るい

・行動力がある

・少しおっちょこちょい

・家族思い

外見

・肩までの黒髪

・黄色のカーディガン

・デニムパンツ

主人公への第一印象

★★★★☆

恋愛タイプ

好きな人には素直

依頼内容

『父の誕生日を成功させたいんです。』

秘密

『父は十年間、一度も自分の誕生日を祝っていない。』

ドキドキ度

★★★☆☆

──────────────


 午前十時。


 神崎湊は駅前のカフェへ足を運んだ。


 今日の依頼人は、高橋由奈。


 窓際の席では、黄色のカーディガンを羽織った女性が、何度もスマホを確認していた。


 目が合うと、ぱっと立ち上がる。


「神崎さんですか?」


「はい。神崎です。」


「高橋由奈です! 本日はよろしくお願いします!」


 元気よく頭を下げる姿に、湊も思わず笑顔になる。


 二人は席に着くと、由奈は少しだけ真剣な表情になった。


「早速なんですが……。」


「父の誕生日を成功させたいんです。」


「誕生日ですか。」


 湊が聞き返すと、由奈は大きくうなずく。


「でも、お父さんって祝われるのが大嫌いなんです。」


「毎年、『そんなことしなくていい』って。」


「ケーキを買っても、『もったいない』って言うし、プレゼントも『自分に金を使うな』って。」


 少し困ったように笑う。


「だから今年は、絶対にサプライズで祝いたいんです。」


「なるほど。」


「飾り付けとか、買い物とか、一人じゃ絶対ばれちゃうので……。」


「手伝ってもらえませんか?」


 湊はうなずいた。


「もちろんです。」


「じゃあ、お父さんを驚かせましょう。」


 由奈の表情がぱっと明るくなる。


「ありがとうございます!」


     ◇


 二人が向かったのは、大型の雑貨店だった。


「風船って意外と種類あるんですね。」


 由奈は店内を見回しながら目を輝かせる。


「数字のバルーンもありますよ。」


「五十二歳だから……『5』と『2』ですね!」


 嬉しそうにカゴへ入れる。


「これもかわいい。」


「これも!」


 気付けばカゴの中は飾りでいっぱいになっていた。


 湊は苦笑する。


「ちょっと買いすぎじゃありません?」


「え?」


 由奈はカゴをのぞき込み、


「あ……。」


 照れ笑いを浮かべた。


「楽しみになっちゃって。」


「気持ちは分かります。」


「ですよね!」


 その一言だけで、由奈はまた笑顔になった。


     ◇


「あと一つだけ。」


 由奈は棚の一番上を見上げた。


「星のガーランドが欲しいんです。」


 しかし、高い棚にあって手が届かない。


 つま先立ちになって腕を伸ばす。


「あと少し……。」


「届きませんね。」


「あと一センチなのに。」


 必死な姿が少しおかしくて、湊は笑いながら後ろへ回った。


「失礼します。」


 そのまま手を伸ばし、ガーランドを取る。


「はい。」


「ありがとうございます!」


 由奈は勢いよく振り返る。


「あっ。」


 思っていたより距離が近い。


 二人とも一瞬だけ動きが止まった。


「ち、近っ。」


 由奈は耳まで赤くしながら一歩下がる。


「すみません!」


「いえ。」


 湊も照れくさそうに笑う。


「取ることしか考えてませんでした。」


「私もです……。」


 二人は顔を見合わせると、思わず吹き出した。


 店内に、小さな笑い声が響いた。


買い物を終えた二人は、高橋家へ向かった。


 父親はまだ仕事中らしく、帰宅まで二時間ほどあるという。


「今のうちに飾り付けしちゃいましょう!」


 由奈は玄関を開けると、こそこそと声を潜めた。


「ただいまー……って、誰もいないんですけど。」


「つい癖で。」


 湊は思わず笑う。


「いい癖ですね。」


「父に聞かれたら、『そんな大きな声出すな』って怒られますけど。」


 そう言いながらも、由奈はどこか嬉しそうだった。


     ◇


 リビングでは、風船を膨らませたり、ガーランドを飾ったりと準備が始まる。


「神崎さん!」


「この風船、結べません!」


「貸してください。」


 湊が受け取ると、慣れた手つきで結ぶ。


「すごい!」


「昔、大学のサークルで飾り付けをしたことがあって。」


「便利屋さんって、何でもできるんですね。」


「何でもではないですよ。」


「できることを一つずつ増やしてるだけです。」


 その言葉に、由奈は感心したようにうなずいた。


「なんだか、神崎さんらしいですね。」


     ◇


 最後の風船を天井へ取り付けようとした、そのときだった。


 パンッ!


「きゃっ!」


 風船が突然割れ、由奈は驚いて体を震わせる。


 反射的に湊の腕へしがみついた。


「あ……。」


 数秒遅れて我に返る。


「ご、ごご、ごめんなさい!」


 慌てて腕を離し、顔を真っ赤にする。


「びっくりしちゃって……。」


「大丈夫です。」


 湊は笑いながら答えた。


「僕も少し驚きました。」


 その一言で緊張がほどけ、由奈も照れ笑いを浮かべる。


「父には内緒ですよ?」


「もちろんです。」


 二人は笑い合い、最後の飾り付けを終えた。


     ◇


 夕方。


 玄関のドアが開く音がした。


「ただいま。」


 低く落ち着いた声が響く。


 由奈は湊と目を合わせ、小さくうなずいた。


「せーの!」


「お誕生日、おめでとう!」


 クラッカーの音がリビングに響く。


 父親は目を丸くしたまま立ち尽くしていた。


「……何やってるんだ、お前。」


 照れ隠しのように頭をかく。


「こんなの、しなくていいって。」


「今日はするの。」


 由奈は笑って父の背中を押した。


「ほら、座って。」


 テーブルにはケーキと料理が並び、小さなプレゼントも置かれている。


「全部、お前が?」


「神崎さんにも手伝ってもらったけどね。」


 父親は湊へ頭を下げた。


「ありがとうございます。」


「いえ、今日は由奈さんが頑張った結果です。」


     ◇


 食事を終えたあと、由奈は一通の手紙を父へ差し出した。


「これ、読んで。」


「手紙なんて珍しいな。」


 父親は少し照れながら封を開く。


 静かな時間が流れる。


 読み終えた父親は、しばらく何も言わなかった。


「お父さん?」


 由奈が心配そうに声を掛ける。


 父親は目元を指でこすり、少し困ったように笑った。


「年を取ると、涙もろくなるな。」


「……。」


「ありがとう。」


 その一言だけだった。


 由奈は嬉しそうに笑う。


「お父さん。」


「お誕生日、おめでとう。」


 父親は照れくさそうに笑い返した。


「ありがとう。」


     ◇


 家を出たあと、由奈は夜空を見上げた。


「父が泣くところ、初めて見ました。」


「嬉し涙ですね。」


 湊が言うと、由奈は大きくうなずく。


「依頼して本当によかったです。」


「一人じゃ、こんな誕生日にはできませんでした。」


「でも。」


 湊は微笑む。


「一番喜んでいたのは、お父さんじゃなくて由奈さんだった気がします。」


「え?」


「ずっと、お父さんを笑顔にしたかったんですよね。」


 由奈は少し照れながら笑った。


「……バレちゃいました。」


 二人は笑い合う。


 その笑顔は、今日一番自然な笑顔だった。


     ◇


 由奈と別れたあと。


 湊のスマホが震える。


『便利屋みなと 新しい依頼が届きました。』


 画面を開く。


『一日だけ、婚約者のフリをしてください。』


「……婚約者?」


 続きを読む。


『祖母にだけ、安心してほしいんです。』


 湊は小さく息を吐き、苦笑した。


「恋人の次は、婚約者か。」


 便利屋の仕事は、今日も予想の少し上をいく。


次回『左手の指輪は、嘘。』

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