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デッドリィ・ストライプ  作者: 鳩峰浦
第二章 ハルシネーション・モンキーズ
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8 ミカワ/復帰許可

 「……そんなにすごいんですか?」

 「……ああ、とんでもねぇぞ……」

 小松坂小隊長が、腕組みをしながら引き締まった表情でそう言った。

 

 小松さんの視線が注がれた手元には、あたしが手渡した紙のチケット。

 今時、紙媒体のチケット。しかも、ラーメン屋。


 捜査第5課の矢島さんから、部隊復帰許可が出たお祝いにもらったものだった。なんでも、「見る人が見たらものすごいプレミアだから。ラーメン好きな奴に見せてみな」と言われた。お札の半分位の大きさの長方形の、画用紙みたいな紙質のチケット。


 日付と、時刻、そしてチケットの右端に、「麺所 ミカワ」と小さく書かれている。

 何か変なものもらっちゃったな、と思いつつ、矢島さんが繰り返し「価値のある物だぜ」と言っていたので、よっぽどなんだろうと思う。とはいえ、全く価値が分からないので、ラーメンが好きな人に見てもらおうと思ったのだ。

 

 ラーメンが好きな人、と言えば小松さん。

 そして、「小松さん、これなんですけど」と、私がチケットをちらつかせた瞬間、小松さんは目を見開いて硬直し、私が差し出したチケットを、恐る恐るといった様子で手に取った。

  

 「間違いない……幻の麺所、ミカワのチケットじゃないか……お前、これ、一体どこで……」


 「矢島さんにもらったんです。部隊復帰祝いだって。日付限定品で、矢島さん、予定合わなくなっちゃったらしくて。お店に相談したら、身元確認できる人なら譲渡して良いって言われたんだって。私、この日は出動なければ定時後に行けるんで、行こうかなって。これそんなすごいんですか?」

 「すごいなんてもんじゃないぞ……この店自体紹介制で、申し込んでから順番回ってくるまで1年近く待たされることもある……畜生、うらやましい……感想、聞かせてくれ」


 「あ、これ小松さんの分です」

 「え?」


 「2枚あるんです。矢島さん、お知り合いと行く予定だったらしいんですけど、二人とも差し支えらしくて。うちでラーメン好きって言ったら、小松さんだし」


 「……冗談だろ?」

 「本当ですよ」


 「……お前、良い奴だったんだな……」

 「……どういう意味ですか……取り上げますよ……」


 「すまん、口が滑った。……ん? 2枚?」

 「あ、車は私出しますよ、運転好きなんで」

 

 私は、自分のチケットを小松さんの目の前でヒラヒラさせた。


挿絵(By みてみん)


 小松さんがややぼんやりと、チケットの動きを目で追う。

 

 「新首都高で、川崎の方だろ? 30キロちょっとか? 良い、俺が車出す。燃料代と飲み物ぐらい奢ってやる。それより、お前、部隊復帰手続。イザナギの接続チェック後報告書、まだ出してないだろ。ゲンさんからデータもらって、早く出せよ。俺が佐藤補佐に怒られる」


 あ、やべ、まだ出してなかった。

 小松さんがパソコンのモニターに顔を戻した。 雑談はおしまい、仕事するか……。

 はーい、と言って背中を向けて歩き出す。

 

 「当日は、何もなければ2時間休をとって、コンディション整えてから出発する」


 は?


 「気合い入りすぎじゃないですか?」

 「そんぐらいする価値のある店だ。ランニングして腹減らしてからいく」

 

 まじでイカれてるなー。

 まぁ、でも喜んでるっぽいから、いいか。


***


 「あら、この日はお二人とも、川崎方面。ですか?」

 情報処理課との定例ミーティング、と言っても第二小隊隊長の俺と、整備課課長のゲンさん、そして情報処理課責任者の篠崎夏美の3人が小規模短時間で行うものだが。


 「諸事情でな。まぁ、30キロちょいだから、緊急出動が必要なら、すぐ戻れる」

 「デートですかね」

 「げほっ」


 紙コップのコーヒーが若干気管に入った。


 「なぜ俺が西園寺とデートしなくてはならないんだ? 一回り以上年上の上司に対して、一切の敬意を持たず、タメ口を織り交ぜ、挙げ句の果てに喧嘩をふっかけてくるようなガキに……」


 「私、西園寺さんなんて一言も言ってませんよ? 川崎のあのあたり、研究都市としての開発と、外国人観光客向けの観光開発が進んで、最近は屈指のデートスポットですから、小松坂さんも西園寺さんも、それぞれ、どなたかと行かれるのかと思って」

 

 ……。


 篠崎がそのクールな顔立ちのまま、口元をほんの少し緩めて、よく見るとニヤニヤしている。

 高度な表情の作り方をする奴だ。ほんとに、こいつだけは、頭が良すぎて一周回って何考えてるかさっぱり分からない。


 「……西園寺が、矢島さんにものすごく珍しいラーメン屋のチケットをもらったんだ。それが2枚あったんで、一緒に行くことになっただけだ。同行してるから、どっちかが連絡に気付けば、ばすぐ対応する」


 「あら、本当に2人でデートだったんですか?すみません……無粋な質問を……」

 「小松っちゃん……お前……」


 「ゲンさんが誤解してるだろ! そこは明確に否定したはずだ!」


 「そうでした。すみません。いえ、別に2枚目を渡す人は、たくさんいるのでは……と思ったんですが。第一小隊の海原さんもラーメン女子ですし、なんなら私も一人で行くんですけどねぇ」


 「そうなのか? そんなのみんな表に出してないだろ。じゃあ、次からは篠崎や海原を誘えって言っておく」


 「あら、ありがとうございます。でも、お邪魔しては悪いので」


 「小松っちゃん、邪魔なのか?」

 「いや、だから……篠崎!」

読んでいただいてありがとうございます!

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