私を忘れないで
「ルキア様?」
黙りこくるルキアを見て、クロノが不思議そうに声をかける。
反応がないかと思いきや、ルキアはゆっくりと顔を上げ、クロノの目を見つめた。
「クロノ、必ず助けてあげる」
「何を…?」
クロノの疑問に答えることなく、ルキアはクロノの手をしっかりと握り、目を閉じた。
「創反。命を転じて銘と成す」
ルキアがそう唱えた瞬間、魔力の奔流が二人を包む。
その様子を見たレックスは、直感的に危険を察知した。
何を行う気かは分からないが、行わせてはいけない、と。
「させませんよ!」
レックスは邪魔をするべく、二人へ向かって手をかざし、炎弾を打ち出す。
詠唱を完全破棄した為に威力はかなり減退しているが、詠唱の邪魔をするには十分だ。
一つ、ルキアの肩に直撃する。
しかし、詠唱は止まらない。
「瞳を飾りて脚を柄に、骨に納めて腕を鍔に」
脂汗を流しながらも、痛みに耐えて呻き声すら漏らさない。
「くっ」
レックスは次々と炎弾を打ち出す。
額に頬に胸に腹に腕に。
全てが直撃するが、ルキアの詠唱は一切途切れない。
「心の熱を以って血で鋳す」
ルキアを包む光は一層輝きを増す。
「くそ! ならば肉片も残らない程に焼き尽くしてさしあげましょう!」
一向に止まらないルキアに対し、レックスは高位の魔法を放つべく詠唱を開始する。
「ルキア様。なに、を?」
クロノの問いに、ルキアは哀しいような優しいような複雑な表情で微笑む。
「クロノ、私が貴方を護ってみせる。でもきっと、これを使うともう元には戻れない。だから、お願い」
ルキアはそこで言葉を切ると、そっとクロノへ顔を近付ける。
「ん……」
唇が触れ合う。
そこからお互いの身体に想いが溶け込んでいく。
その僅かな幸せの時間を終えると、ルキアは照れたようにはにかむ。
「ルキア様?」
そして、言葉を繋げる。
「髪を刃に、心と身を芯とする!」
白銀に輝く魔力が二人を覆い隠す。
「だから、だからお願い―」
それは、ルキアの最後のお願い。
「私を忘れないで」




