悲痛な選択
倒れた兵の数が3桁になろうかという頃、殆どの兵は絶対に勝てない事を悟り、絶望に打ちひしがれながら、膝を付いた。
「おやおやおやおや、もう終わりですか? 詰まらないですねぇ」
レックスは涼しい顔のままやれやれと首を振る。
結局、誰一人としてレックスの防御障壁を破れる者はいなかった。
どんな攻撃も全て阻まれ、障壁内から一方的に攻撃をされる。
「ない」
全ての兵達が諦めて静まり返っている中、一つの呟きが聞こえた。
「諦め、ない」
レックスが声の方に視線をやると、一人の少女が肩を震わせながら立っていた。
「諦めてたまるかぁ!」
ルキアは叫んだ。
自身の恐怖を振り払うように。
「クロノは、私が守るって決めたんだ!」
守られるばかりは嫌だ。
これからはお互いを助け合って生きていく。
そう誓ったのだから。
「圧縮率120%! ホーリーレーザァア!」
ルキアのロッドの先端から細い白色の光線が放たれる。
見た目の大きさに反し、極限まで圧縮された光線は大地を溶かし、山をも貫く。
高濃度高魔力同時がぶつかり合い、目が眩むほどの光と、荒れ狂うエネルギーの余波が近くにいた兵達を吹き飛ばす。
「貫けぇぇぇぇぇ」
ロッドを握りしめながら、ありったけの魔力を注ぎ込む。
「これは」
レックスの眉間にシワが寄る。
今回は演技などではなく、本当に表情が固くなる。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ルキアが一層の魔力を込めた瞬間、金属が砕ける音が鳴り響いた。
「え?」
しかしその音はレックスの防御障壁を突き破った音ではなかった。
「ロッド、が」
ルキアの持つロッドが、大きすぎる魔力に耐え切れず砕け散ったのだ。
「本当に、危なかったですね」
レックスは内心胸を撫で下ろすと、ルキアを睨みつける。
「あの魔力は危険ですね」
ルキアはその視線に気付かず、ロッドが砕けた事で茫然自失となっている。
レックスはルキアは生かしておくべきではない、と判断した。
「赤燈。圧縮―空喰―集え」
レックスの周囲に炎の塊が発生し、轟々と燃え盛っている。
「ファイアブレッド」
つい、と指先をルキアへ向けると炎弾が一直線に放たれる。
ルキアが攻撃に気付いた時には回避が間に合わない状態へとなってしまっていた。
「いやぁ!」
炎弾は狙いを狂わせることなく当たって弾けた。
「ふむ、これで私を脅かす存在はなくな…」
レックスの台詞が止まる。
それは目に映る光景がそうさせていた。
「よくもまぁその身体で」
視線の先にいるのはルキア、ではなかった。
「ク、クロノ?」
酷く怯えたような震えた声でその名が呼ばれる。
「ルキア、様、ご無事、ですか?」
炎弾を全て受け止めたクロノが立ち塞がるように立っていた。
「いや……いやぁ、クロノぉ」
涙を流しながら首を振る。
「が、ふっ」
クロノはルキアの無事な姿を確認すると、糸が切れたように倒れた。
「クロノ……クロノぉ……」
クロノは何処から見ても瀕死の重態だ。
いつ事切れてもおかしくない。
「ひっく……クロノ」
ルキアは倒れたクロノに縋り付きながら、名前を呼びながら嗚咽を漏らす。
「ルキ…様、お逃げ…さい。生…伸び…下さい」
息も絶え絶えに、クロノは言葉を掛ける。
「嫌だよ! クロノを置いて逃げるなんて出来ない!」
だだをこねる子どもの様に、ルキアは強く首を振る。
「お願…します、逃…て…さい」
穏やかに、諭すようにクロノは話す。
「そんなのできないよ! ずっと、ずっと一緒にいるって…」
大粒の涙を零しながら、ルキアはクロノの胸に顔を押し付ける。
「私は、貴女…護れ…せん…した。 …から、せ…て生き…欲…い」
一つの文字を声に出すだけで全身に激痛が走る。
それでもクロノの声は優しかった。
「クロノがいないと、私一人だけ生きるなんて嫌だよ…お願いだから一緒にいて」
それは呪いにも似た想い。
縛られた決意。
譲れないエゴ。
そして、そんなルキアの目に、先程砕け散ったロッドの破片が写った。
その時、ルキアの脳裏を一つの記憶が過ぎる。
それは一ヶ月以上前のこと。
姉のシィルと手合わせをした日。 初代国王の銅像の前で聞いた話。
『初代国王は、ある剣を用いて革命を成功させた』
それは天使の贈り物か、悪魔の囁きか。
『その剣の材料は…』
どちらにせよ、救いと破滅両方を糾う禁断の糸。




