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Forget me not  作者: 林檎亭
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悲劇の始まり

ふいに、パチ、パチと不釣り合いな拍手が響く。

「いやぁ、素晴らしい。実に素晴らしい!」

拍手の主は、金の瞳を輝かせてその場に登場した。

「身をていして姫を護る騎士に、満ち溢れる親子愛! 何と美しくも眩しいのでしょう!」

大仰に拍手をし、金の髪と赤の衣を揺らしながらレックスは城から歩み出てくる。

そのあまりにもの場違いさに唖然とする兵士達。

「あぁ、本当になんと素晴らしい……茶番劇でしょう」

そこで拍手が止んだ。

茶番。

目の前で繰り広げられた死闘を一笑に伏された兵士達は、一様に殺気立つ。

「レックス殿、いかな用件ですかな?」

兵士達の殺気を制しつつ、王はレックスに問う。

「いえ、少しばかりね」

ゆらりとレックスの身体がぶれる。

「王!」

いち早く反応したのはグラフだった。

動くことも敵わない身でありながら、身体を王の前に投げ出す。

瞬間、グラフの身体から鮮血がほとばしる。

「ぐあああああああ!」

「グラフ!?」

「おやおや、外してしまいましたか」

レックスは手を前に突き出したまま、なんでもなかったかのようにうそぶく。

「貴様っ、何のつもりだ!?」

王が声を張り上げる。

状況から見て、レックスが王に向かってなんらかの攻撃を行ったのは間違いない。

王が問い詰めると、レックスは何の悪気もなく答えた。

「いえ、折角の機会なので貴方を暗殺しようかと思いまして」

「なっ!?貴様、その発言が何を意味するのか分かっているのか!」

「もちろんですよ。そもそも、ルキア姫を迎え入れる件もこの国を潰す計画の一端なのですから」

絶句した。

王だけではなく、それを聞く全ての人間が耳を疑った。

「本来はルキア姫を人質にして、徐々に国力を奪い、弱った所を一気に叩くつもりだったのですが、都合のいいことに、脅威として抑止力になっていた厄介な3人が手負いになってるではありませんか」

レックスの言う3人とは、グラフ・クロノ・アニエスの事だというのは誰もが察した。

「その3人がいないのなら、こんな国は今すぐにでも充分に落とせます」

レックスはそう言うと、再び王へと手をかざし狙いを定める。

「弓兵総員構え!ぅてえっ!」

しかし、魔法発動より速くアニエスの声が響く。

訓練による条件反射で、アニエス部隊の弓兵が矢を放つ。

数十の矢が王を避け、レックスにのみ飛ぶ。

「紫赤。焼炎―熱鞭―喚び請え―幾奪―薙ぎ払え! フレイムウォール」

レックスの手から灼熱の炎が溢れだし、迫り来る矢を悉く焼き払う。

「おや?」

その隙をついて、クロノが王とグラフを担いで退避していた。

「さすがのチームワークと言った所ですか。逃げられてしまうとは」

レックスは大きく落ち込んだようなそぶりを見せ、すぐに歪な笑顔へと表情を変える。

「まぁ、皆さん全員に死んでもらうので、関係ありませんがね」

「させるか!」

二人を兵士に頼み、クロノはレックスへと切り掛かった。

レックスは相当強い。

クロノらはそれを感じ取っていた。

並の兵なら束になっても敵わないだろう。

だから、いま戦えるのはクロノだけだった。

腹に穴は空いているが、グラフが臓器の隙間を縫うように刺してくれたため、戦えない程ではない。

(とは言っても、重傷なのには変わりない。数回剣を振るぐらいで血が足りなくなる)

そう考えたクロノは一撃に全てを賭け、剣を振り下ろした。

「くひっ」

レックスの口から気味の悪い笑い声が漏れる。

それは愉悦。

目の前の人間の、驚愕と絶望の表情を見たために漏れ出た感情。

「な、に?」

クロノの剣はレックスの鼻の先くらいの位置で、見えない壁に阻まれていた。

「ぐっ!」

クロノは更に力を込めて剣を押す、がびくともしない。

「くそおお!」

次は幾度も目の前の壁を斬り付けるが、やはり一切剣は通らない。

「残念でしたね」

レックスは無駄な足掻きを十二分に堪能すると、右手の掌をクロノへ向ける。

「濁赤。 圧縮―回り留れ―巻束―爆ぜろ。 フレイムプレッシャー」

先程クロノがワイアードに使ったものと同じ魔法をレックスは発動させる。

しかし、その威力は比較にならない程だった。

クロノを巻き込んで、直径20メートルの範囲に爆発が起きる。

「クロノ!」

ルキアの悲痛な叫び声が爆音に掻き消される。

「覆白。 呑罪―糾纏―焼き貫き―安寧―混沌―豊饒―荒廃―普く遍き―神判―咎忌―聖責―指向―圧焔―奇跡よ!」

クロノが倒された事を確認すると、アニエスは間髪入れずに詠唱に入る。

魔力の増幅にレックスが気付いた時にはすでに魔法は編み上がっていた。

「ホーリーレーザー!」

極太の白色の光線がレックスを飲み込もうとするが、それも見えない壁に阻まれる。

「危ないですね、全く」

余裕たっぷりに肩を竦めるレックス。

その背後で、何かを噛み締めるような音が聞こえた。

レックスがその音に気が付き振り向くと、魔法を放ったはずのアニエスが剣を口にくわえて襲い掛かってくる所だった。

「何を!?」

完全に不意を突かれる形となったレックスの顔に焦りの表情が浮かぶ。

(さっきのホーリーレーザーで障壁の展開域は確認できた。すぐ後ろは障壁が及んでない!)

「っ!」

使えなくなった両手をぶら下げたまま、アニエスはくわえた剣を押し付けるように体ごと突進する。

「なんてね」

一瞬でレックスの顔が余裕で満ちる。

グチャリと、全速力で壁にぶつかった音と共にアニエスの体が空中で止まる。

「残念ながら、この防御障壁は全方位に展開されてるんですよ。 先ほどの魔法に対してはわざと前面にしか展開してませんでしたが」

「くそ! 全員でかかれ!」

アニエスが倒れ、レックスに対抗出来る者がいなくなったことを知った兵の一人が号令を上げる。

愛国の兵達が次々と押し寄せるようにレックスへと襲い掛かる。

しかし、まるで赤子の手を捻るように、いとも簡単に兵達が倒れていく。

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