形勢逆転
「そうはいかないっ」
ルキアがそう発言すると同時、アニエスの身体が横から殴られたように吹っ飛んだ。
「なっ!?」
すぐさま体勢を立て直したアニエスは、何が起こったのかという顔でルキアを見た。
「何が起こったのかって顔だね。答えは簡単。10引く9は?」
それを聞いたアニエスは気が付いた。
ルキアが先程放ったホーリーレーザーは10発。
自身に降り注いだのは9発。
1発は弾いたまま、消え去ったわけではなかった。
「今のは相当効いたと思うけど、まだやる?」
ルキアはロッドの先をアニエスに向け、逆に今度は問いかける。
「これで優位に立ったおつもりですか?」
アニエスは当たり前に立ち上がる。
「そのロッドの秘密、分かりましたよ」
そう言ってルキアのロッドを指差した。
ルキアは答えない。
しかし明らかに動揺した様が分かる。
「貴女は私の攻撃を防いでいましたが、初撃と先程の膝は防げなかった。何故か? その違いはロッドの先端に付いている宝石の色でした」
そこまで指摘され、ルキアの表情は焦りから、諦めにも似たものへと変化した。
「そうだね、そこまでバレてるなら隠しても仕方ないかな。そう、このロッドには切り替え出来る2つの機能が付いてるの」
「白く輝いている時はホーリーレーザーの詠唱短縮。緑に輝いている時は自動防御、というところでしょう?」
「正解。さすがアニエスだね! でも、だからって負けないよ!」
ルキアのロッドに再び魔力が集まる。
「圧縮率1%降り注げ! ホーリーレーザー!」
ルキアのロッドから放たれた光の塊は一直線に空へと舞い上がり、まばゆい閃光と共に弾けた。 「光の雨ですか」
雨の比喩に相応しい程の光が、アニエスを中心に降り注ぐ。
「逃げ場はないよっ。さぁ、どうする!?」
ルキアの挑発にも似た問いに、アニエスは涼しい顔で返す。
「こうします」
アニエスは空を仰ぐと、迷わずルキアの方へと歩みだした。
「へっ?」
ルキアの口から素っ頓狂な声が出た。
それは目の前の光景の有り得なさに因るものだった。
アニエスは軽やかな足運びと体捌きで、雨が如く降り注ぐ光弾の中を全て避けながら進んでいく。
輝く世界で舞う踊り子のように、無駄のない流れるような動き。
ルキアが呆気に取られ、もとい見惚れていたうちに、光の雨の最後の一粒が地面に落ちた。
「一つも当たらないなんて」
「下手な鉄砲は数撃っても当たらないものですよ」
アニエスはにっこり微笑むと、一足飛びでルキアへと肉薄する。
「くぅっ! インペリアルガード!」
すぐさま自動防御状態へと切り替える。
その一瞬後、アニエスの手刀が繰り出され、すんでの所でルキアは防御に成功した。
ルキアが必死にロッドを押さえ込む反面、アニエスはいたって涼しい顔で押し込む。
「ルキア様、その自動防御……インペリアルガードですが、弱点がいくつかありますね」
「なんのことかな?」
ルキアの目が泳ぐ。
「ルキア様は本当にごまかしたりするのが下手ですよね」
「うっ」
アニエスのジト目に、声を詰まらせるルキア。
「まぁそれは今は置いておきましょう。では弱点のお披露目といきましょうか」
アニエスはそう言うと、ロッドを押し込んでいる手に力を込め、勢いよく振り切った。
「きゃぁぁぁ!」
ルキアは一瞬すら踏ん張りきれず、押し飛ばされた。
数メートル飛んだ所で、何とかバランスを取って着地する。
アニエスは人差し指をピンと立てて言う。
「これが弱点その1。防御する側の単純な腕力不足です」
攻撃自体はロッドで防げても、結局扱うルキア本人が非力なら押し負ける。
「次はその2です」
アニエスは人差し指と中指を立てると、高速で移動しルキアの視界から外れる。
アニエスはルキアのロッドを握ると、器用に片手と足払いで投げ飛ばした。
「あぐっ」
背中から地面にたたき付けられ、悶絶する。
「投げ技には対応できない、です。他にも貴女にダメージを与える方法はいくつかありますし、例え魔法攻撃に切り替えても詠唱の時間なんて与えません。もう貴女に勝ち目はありません」
だからこれ以上痛い目に合わない為に降参しろ、アニエスは言外にそう告げていた。




