苦戦
「ぬぅぅうん!」
ワイアードが巨大な両刃の戦斧のハルバートを振り回しながらクロノへ突進し、全力で振り下ろす。
その巨体に似合わない速度の攻撃をクロノはギリギリで横へ避ける。
しかし、そこへ待ち構えていたかのように、スミスがレイピアと呼ばれる刺突に特化した剣でクロノへ襲い掛かる。
「くっ」
クロノは咄嗟に背負っていた自身の剣を構え、応戦した。
クロノの剣は訓練などで用いたものとは違い、三日月を模したクロノの身長ほどもある大剣だ。それを楯のようにし、スミスの刺突を防ぐ。
その瞬間、ワイアードが再びハルバートを振り回してくる。
そしてワイアードの攻撃を回避した所へ、スミスが間髪入れずに剣を突きだしてくる。
二者の、単純だが隙のないコンビネーションにクロノは防戦一方となっていた。
さらには遠距離でアニエスが魔法発動のタイミングをはかっており、クロノが二人から距離を取った瞬間に魔法が飛んでくる。
クロノは既に手詰まりの状態へと追い込まれていた。
「さすがですね」
ふと急にスミスが声をかけてきた。
攻撃の手はまったく緩められてはいないまま。
「私達二人の攻撃を避けながらも、アニエスの魔法の射線には身をさらさない。素直に感心しますよ」
「それは、ありがとうございます」
「実を言うと、近衛騎士の中に貴方達の恋路を邪魔したいと思っている者はいないんですよ」 「なら、見逃していただいても構いませんよ」
「出来ればそうしたいですが、王命には逆らえませんし、国の未来がかかってますので。ですからせめて、苦しまないように殺してあげます」
その台詞を言い終わるとスミスの殺気が明らかに膨れ上がった。
「っ!」
何か来る。そう感じたクロノは全意識を防御へと集中させた。
「はあぁぁぁ、震風刃!」
裂帛の気合いと共に繰り出された突きは、先程までの牽制のものとは違い、必死の一撃だった。 「ぐ!」
クロノはなんとか剣でそれを防ぐことは出来たが、その勢いに圧され、後方へと吹き飛ばされてしまう。
開いた距離。
その隙を待ち侘びていたアニエスの口が高速で呪文を詠唱する。
「白威。千貫―刺証―数え給え―形成―降り与る―散殉―碑神―浄化―終域―明く下し―断罪せよ!」
アニエスの頭上高くに白い魔力の塊が現れる。
その塊は幾百幾千もの十字架となり、全ての切っ先がクロノへと向く。
「ジャッジメント!」
そしてそれらが全て一度にクロノへと降り注いだ。
(これは避けきれない!)
クロノの頭を敗北という言葉がよぎる。
しかしそこへ、
「クロノ伏せて!」
ルキアがクロノの目の前へと踊り出た。
「ルキア様!?」
ルキアは持っていたロッドを構え、叫ぶ。
「詠唱工程をカット! 圧縮率70%にて射出! ホーリーレーザー!」
ルキアのロッドから幅が2メートルはありそうな白い光線が、二人を目掛けて落ちてくる十字架を目掛けて放たれた。
十字架は光線に触れた瞬間に蒸発し消え去っていく。
そして、クロノとルキアがいる場所へ落ちてきていた十字架を全て消し去ってしまった。
「クロノ、大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です」
「よかった」
ルキアはクロノの無事を確認し微笑むと、アニエスの方を向いた。
アニエスは苦い表情で、こちらへ問い掛ける。
「ルキア様、どういうおつもりですか?」
「どうもこうもないわ。私も戦う」
その言葉に一番驚いたのはクロノだった。
「いけません! ルキア様が戦われるなど…」
しかしクロノの台詞をルキアは遮り、
「ううん、戦う。私思ったの。二人で生きていくなら護られてばかりじゃダメだって。助け合っていかなきゃって」
「しかし」
「しかしなんて聞かないわ。実際それでクロノがやられちゃったらどうするの? 変に意地張って、結果お互いがやられちゃったら意味ないじゃない」
「う」
先程までやられかけていたクロノとしては返す言葉もなかった。
「だから、アニエスの相手は私がするから、クロノはあっちの二人をお願い」
クロノはしばし考えたあと、
「分かりました。しかし、無茶はしないで下さいね」
「うん! 二人が無事じゃないと意味ないもんね」
そして二人はお互い頷き合うと、それぞれの相手へと向き直った。




