近衛騎士
そして、夜が訪れる。
見張り以外が寝静まった時間を見計らって、クロノとルキアは城の裏口で落ち合った。
「ルキア様、こちらです」
先に着いていたクロノが、後から来たルキアを呼び寄せる。
「クロノっ」
約束通り待ってくれていた事に喜びつつ、ルキアはクロノの元へ駆け寄る。
「ルキア様、準備は整っていますか?」
「ばっちりだよ」
ルキアは片手に下げた鞄を持ち上げながら答えた。
「では、もたついている時間もありませんし、早速行きましょう」
見張りのいない場所と時間を選んではいるものの、状況から見て長居はすべきではない。
ルキアも異論なく頷く。
それを確認したクロノはルキアの手を取り、裏口から飛び出す。
手を取り合って逃げる二人はまるで、お伽話の一枚の絵のようだった。
目論見通り、周りには誰もおらず、あとは裏口から城壁までの数十メートルを走り抜けるだけ。しかし、数メートル進んだ時点でクロノは気が付いた。
「ルキア様!」
クロノはいきなり叫ぶと、ルキアの手を思い切り引っ張って、前方へ跳んだ。
すると、先ほどまで二人が居た場所に、地面を揺らすほどの轟音と共に大きな塊が着地した。 「な、なに?」
ルキアが落ちてきた塊を確認すると、それは知っている人物だった。
「ワイアード…」
近衛騎士8席ワイアード。
2メートルを超える長身に、巨きな肥大した筋肉。
見るからに腕力自慢の、大男だ。
「よぉ、クロノ。よく避けたじゃねぇか」
ワイアードは二人を見下ろすと、不敵で傲慢な笑みを浮かべる。
クロノは黙ったまま辺りを見回した。
すると、クロノ達が出てきた裏口から何十人もの兵士が現れ、まだ城壁側からも多数の兵士が姿を見せた。
その先頭には見覚えのある顔が二つ。
「ルキア様、クロノさん、早まったことを」
悲しげに呟くのは、近衛騎士3席アニエス。
踵まで届くほど長い金髪をいくつもの三編みににしており、白い鎧に見を包む近衛騎士唯一の女性だ。
「クロノ君、残念ながら逃避行はここまでだよ」
眼鏡を中指で上げながら淡々と話すのは、近衛騎士5席スミス。
正規の制服を一切の乱れなく着用し、横に流した前髪の隙間から切れ長の目が光る。
「そんな。近衛騎士が三人も」
ルキアの口調には諦めが含まれていた。
騎士の中でも上位の実力者10名までに与えられる近衛騎士の役職。
彼等は一騎にて千の兵に相当すると言われる強者達だ。
それが同時に三人も立ち塞がっている。
言わば三千の兵を前にしているに等しい。
それを前にし、諦めを感じたルキアの心境は正しいものだった。
しかし、クロノの目には力が宿っていた。
クロノはルキアの手を握る力を強くし、
「大丈夫です、ルキア様。私が、絶対に私達の未来を護りますから」
そう言い切った。
迷いのない言葉はルキアに希望を与える。
「うん!」
そうしてルキアは一瞬にして諦めの感情を断ち切った。
会話が終わったのを見届けた3席アニエスが口を開いた。
「クロノさん、勇気と無謀は別のものです。今ならまだ間に合います。投降してください」
彼女は二人を真剣に心配した上で忠告を行ったのだが、クロノの返事は変わらなかった。
「アニエスさん、ご心配はありがたく思いますが、残念ながら聞けません」
それを聞いた8席ワイアードが笑う。
「ガハハハ! ならば我等と戦うと言うのか!」
「戦います。そして、勝ちます」
5席スミスは嘆息する。
「やれやれ、正しい判断とは言い難いですね」
「私は、私の気持ちに対して正しい判断をしただけです」
クロノは譲らない。
ルキアを護るという確固たる信念がクロノを揺るがせない。
「そうですか、残念です。ならば、力付くで阻止するまでです!」
「押し通らせていただきます!」
そして、戦いの幕が上がった。




