感情の決壊
クロノは真っ暗な自室で、ベッドに仰向けに寝転がり天井を見つめていた。
シィルに自分の気持ちを指摘されてからというもの、寝付けずに天井と睨めっこをする日々が続いていた。
「ルキア様」
無意識に名前が呟かれた。
その時、ゆっくりと扉が開いた。
クロノは基本的に部屋の鍵をかけないので、誰でも簡単に入れる。
体を起こし扉の方を窺うと、のそりと影がはい出てきた。
「クロノ」
それはルキアだった。
顔は蒼白、足取りは覚束ず、扉に体重を預けてようやく立っているような状態だ。
「ルキア、様?」
その普通ではない様子を見て、クロノがルキアに駆け寄る。
「クロノ!」
クロノの姿を見ると、ルキアは倒れ込むように抱き着いた。
「クロノ、クロノ」
そしてそのままクロノの胸の中でボロボロと涙を零す。
「ルキア様」
クロノはそんなルキアを静かに優しく抱きしめる。
そうすると、ルキアはクロノにしがみつき、更に涙を流した。
「うぅ…ひっく…ん…」
ルキアは落ち着いてきたようで、声が小さくなってきた。
と、そこで急に後ろ手で扉を勢いよく閉めた。
「ルキア様?」
あまりに強く閉めた為、クロノが不安そうにルキアの名を呼んだ。
するとルキアは俯いて黙ったままクロノを強く押した。
予想外の事に、クロノは踏ん張りがきかず後退する。
なおもルキアはクロノをぐいぐいと押す。
俯いているために、その表情は窺えない。
「ル、ルキア様?」
数歩下がった所で、クロノはベッドに足を取られ、後ろ向きに倒れ込んだ。
ルキアはそのまま進み、クロノの上に馬乗りになった。
相変わらず顔を伏せており、クロノからは表情が見えない。
「……」
ぐりぐりとルキアの額がクロノの胸に押し当てられる。
「ルキア様?」
クロノは三度名前を呼び、顔を覗き込もうとする。
「……ないで」
「え?」
「顔、見ないで。今、すごく、酷い顔に、なってる、から、見ないで」
涙声で途切れ途切れになっていた。
その様子を見てクロノは、
「問題ありません。ルキア様の残念な状態の顔なら、起こしに行っている時にいつも見ていま、痛い痛い痛いです」
台詞の途中でルキアがバシバシとクロノの顔を叩いてきた。
「バカ」
ルキアはそう呟くと、叩く手を止めた。
「すいません」
クロノは穏やかな声で返事をすると、あやすようにルキアの頭を撫でる。
「……ん」
ルキアはこくりと頷くと、手を引っ込めた。




