残酷な現実
ルキアの誕生日まで一週間となった。
シィルがルキアの部屋を訪れて三日間、ひたすらクロノの事を考えていた。
クロノの事を考えないために、会わないようにしたというのに、クロノとの別れについてずっと頭を悩ませていた。
そのせいで、ルキアは実生活に於いても支障をきたしかねないほどに、弱っていた。
そんな日の事、ルキアは別れの挨拶のために、ある貴族の屋敷を訪れていた。
ここ一月程、ひたすらこうやって縁者の元を回っている。
屋敷につくと、その貴族の夫婦は丁重にルキアを迎えてくれた。
そこで、ルキアは二人の子だという少年に出会った。
「いらっしゃいませ、ルキア様!」
「はい、お邪魔しますね」
「ルキア様、ご結婚おめでとうございます!」
その結婚の意味など知らない少年は、たどたどしい口調で祝福をしてくれる。
「うん、ありがとう」
ルキアも気持ちを受け取り、お礼を言う。
この時のルキアの心中は比較的穏やかだった。
しかし、子どもとは無知故に稀に残酷な言葉を無邪気に突き出す。
「ルキア様、赤ちゃんは男の子がいいですか? 女の子がいいですか? 僕は男の子がいいですっ」
少年は結婚をすれば勝手に子どもが出来るものだと思っていた。
また、子が生まれることは無条件で良いことなのだと。
「男の子だったら、一緒に遊ぶんだ!」
少年は底抜けに明るい笑顔をルキアに向ける。
しかし、ルキアの顔は青ざめ、今にも倒れそうになっていた。
そこからの記憶はあやふやだった。
ルキアは気付いたらベッドに倒れ込み、天井を見ていた。
「子ども」
ふと無意識にその単語が口をつく。
(そうか、子ども、作ることになるよね)
もちろん、少年と違ってルキアはその意味を理解していた。
政治的な事も、立場の事も、行為の事も。
一瞬だけその事が頭をよぎる。
「ひっ」
背筋に寒気が立ち、悲鳴が漏れた。
ルキアは頭を強く横に振ると、頭まで布団を被り、目を閉じた。
何も考えないように、ひたすらそれだけに専念する。
そして、そうしている内にいつしかルキアは眠りに落ちていた。
(あれ? ここは?)
ルキアは知らないベッドに寝転がらされていた。
場所を把握しようと首を廻らせると、一人の男が目に入った。
(クロノ? ううん、違う。誰?)
次第に輪郭がハッキリしてくる。
そして気付く。
金の髪に金の瞳。
(レックス!?)
レックスは服も着ずに、ルキアが横たわるベッドにこちらを向いて座っていた。
(何? どういうこと?)
何が起こっているのか。
ルキアは必死に声を出そうとするが、何故か音が喉に詰まる。
代わりに手足を動かそうにも、緩慢な動きしか出来ない。
そうして、ルキアが四苦八苦している間にレックスがこちらに近付き、覆いかぶさるように、ルキアを上から覗き込む。
口元には相変わらず気分の悪くなりそうな笑みが張り付いている。
そしてレックスはゆっくりとルキアへ手を伸ばす。
(何をする気!? 止めて! 触らないで!)
しかし、ルキアの手足は動いてはくれない。
抵抗が出来ないまま、レックスの手がルキアの頬に触れる。
触れられた瞬間、ルキアの全身に悪寒が走った。
そんなルキアの反応を知るか知らいでか、その手を下へと下げていく。
(いや! 止めて!)
そしてルキアの胸へと手が乗せられる。
そこで気がついた。
ルキアは何も着ていなかった。
その為、レックスの手は直接ルキアの胸に触れている。
(ひっ!)
悪寒・吐き気・嫌悪感が一気に沸き上がる。
さらにレックスの手は全身を這い回るように撫でていく。
その間もルキアは動けないし声も出ない。
ひたすらに気持ち悪さを我慢するしかなかった。
それがどれだけ続いたか、レックスはルキアの腰を抱くように抱えた。
そして、腰を押し付けるようにルキアの下腹部へ突き出してくる。
――まさか。
ルキアはこれまで以上の嫌悪感、いや恐怖を感じた。
(いや、止めて。お願い、止めて! お願いします! 止めて! いや、いや、いや!)
その懇願は聞き届けられることなく―




