第12章 移動要塞と、村人の悲鳴
巨大要塞が夜の森をゆっくりと進む音は、まるで大地が泣いているようだった。
四つの巨大車輪が地面を軋ませ、魔力灯が周囲を青白く照らす。
俺とタカシは操縦席(元・中央広場を改造した豪華な部屋)に座り、交互に毒を吐き合いながら旅を続けていた。
「タカシ、速度落とせ。
木が倒れて道を塞いでるぞ。
お前の要塞、でかすぎて通行不能レベルだ。」
「大丈夫だって! この車輪、障害物自動粉砕モード搭載してるから。
見てろよ、今から派手にいくぜ!」
タカシが操縦レバーを倒した瞬間、要塞がガクンと加速した。
前方にあった巨大な古木が、車輪に巻き込まれて粉々に砕け散る。
木片が四散し、鳥が大慌てで飛び立つ。
俺は頭を抱えて全力で叫んだ。
「うわああああああ!!
やめろよ!! 自然破壊しすぎだろ!!
『Brave New World Online』の制作チームが、
環境破壊イベントなんて用意してねえよ!!
お前、プレイヤー時代からこうだったもんな……山削って、川変えて、
今度は移動しながら森林破壊ツアーかよ!!」
タカシは大笑いしながら操縦を続ける。
「ははは! ユウタの絶叫、久しぶりに生で聞くと最高だな。
昔、画面越しに聞いてた時より迫力あるぜ。」
「笑うなよ!!
お前が俺の体でやってたことを、今お前が自分で体験してるんだぞ!
どうだ? リアルに木を粉砕するの、気持ちいいか?」
「意外と重い責任感じるわ……ごめん。」
二人はそんな会話を繰り返しながら、夜通し要塞を走らせた。
時々タカシが自動採掘ゴーレムを展開して資材を集め、
俺は魔力無限スキルで要塞の動力源を補充する。
喧嘩半分、協力半分。
親友同士の歪んだ共同作業は、予想以上に息が合っていた。
翌朝。
最初の街——「リルベール」の城壁が見えてきた。
通常の勇者なら馬で数日かかる距離を、要塞移動でわずか一晩で到着した。
要塞が街の外れに近づくと、城壁の上から見張りの兵士たちの悲鳴が上がった。
「な、なんだあれ!!」
「巨大な……城が動いてるぞ!!」
「魔王軍の新兵器か!? 警報鳴らせ!!」
街全体に鐘が乱れ打ちされ、住民たちがパニックに陥る。
子供が泣き、商人たちが荷物を抱えて逃げ惑い、
衛兵たちが慌てて門を閉めようとする。
俺は操縦席から顔を出して、大きく手を振った。
「待て待て! 俺は勇者だ! 星野勇太だぞ!
魔王討伐のために作った移動要塞だ! 敵じゃない!!」
しかし、要塞のあまりのデカさと異様さに、誰も信じない。
矢が何本か飛んできて、要塞の壁に当たって跳ね返る。
タカシが笑いながら俺の肩を叩いた。
「ほら見ろ、ユウタの英雄イメージ、完全に崩壊だぜ。
『勇者様が巨大要塞で街を踏み潰しに来た!』って伝説ができそう。」
「うるさい!! お前の変態建築のせいだろ!!
うわああああああ!! 俺の勇者デビュー、台無しじゃねえかよ!!!」
俺はタカシを軽く蹴りながらも、要塞を停止させた。
そして自分の意志で飛び降り、街の門に向かって歩いていく。
タカシも慌てて後を追ってきた。
門の前で、震える衛兵長が槍を構えていた。
「勇者……様? 本当に? 女神様の予言にあった白い服の……」
「ああ、そうだ。
この要塞は……まあ、ちょっと特殊な事情で作った移動拠点だ。
魔王討伐に使う。
街に被害は出さないから、安心してくれ。」
衛兵長は要塞をまじまじと見上げ、
震える声で言った。
「被害……出してませんけど……
山が二つ消えて、森が半分なくなってるって報告が……」
俺はタカシを横目で睨んだ。
タカシは眼鏡を直しながら、にこやかに手を挙げた。
「ごめんねー。効率重視で少しやりすぎちゃった。
でもこれからは街の近くは丁寧に通るよ!」
「丁寧に通るんじゃなくて、最初から小さく作れよ!!」
俺の毒が炸裂する中、衛兵長は恐る恐る門を開けた。
街の中に入ると、住民たちの視線が痛い。
子供たちが要塞を指差して「動くお城だ!」と興奮している一方で、
大人たちは「勇者様が魔王より怖い……」と囁き合っている。
俺たちは街の酒場に入り、情報を集めることにした。
酒場のマスターが、震えながら俺たちにビールを出す。
「勇者様……魔王の居城は北の『黒曜の山脈』を越えた先です。
ただ、最近魔王軍が活発で……強力な四天王が三人も配置されていると……」
タカシが目を輝かせた。
「四天王!? いいね、ボスラッシュだ。
俺の要塞で一気に踏み潰そうぜ、ユウタ!」
「踏み潰すなよ!!
ちゃんと戦って倒せよ!!
お前、四天王を建築資材にしようとしてるだろ!?」
俺が全力で突っ込むと、酒場のお客さんたちが一斉に引いた。
マスターが恐る恐る聞いてくる。
「あの……もう一人の方は? 勇者様のお供……?」
タカシが胸を張った。
「俺は建築士だ! この要塞の設計者兼操縦者!
勇者と一緒に魔王をぶっ倒すぜ!」
「……建築士?」
店内が静まり返った。
俺は深いため息をつきながら、ビールを一気に飲んだ。
「はぁ……説明すんの面倒くさい。
とにかく、俺たちは協力して魔王を倒しに来た。
情報ありがとう。
報酬は後でちゃんと払うから。」
店を出ると、タカシが俺の横でニヤニヤしていた。
「ユウタ、意外と英雄っぽく振る舞えてるじゃん。
俺がプレイヤー時代にお前を無視してクエスト飛ばしてた時より、
全然いい感じだぞ。」
「褒めんなよ……お前のせいで俺のイメージが最悪なんだから。
移動要塞で街に来た勇者とか、伝説になるわこれ。」
二人は要塞に戻りながら、今日集めた情報を整理した。
魔王城までの道のり、四天王の特徴、隠しルートらしき情報……。
タカシが操縦席に座りながら言った。
「明日からは本格的に北上だな。
道中で四天王の一人に出くわしたら、
俺の要塞で迎撃して、お前がチートスキルでトドメ刺す。
完璧なコンビネーションだろ?」
「……まあ、悪くない。
でも、絶対に街や村は踏み潰すなよ。
お前がまた山削り始めたら、俺が本気で殴るからな。」
「了解了解。
でもユウタ、俺とお前が一緒にやるの、結構楽しいよな。
昔みたいで。」
俺は少し黙ってから、軽く笑った。
「ああ……まあ、な。
でも絶対に言うなよ。
お前が俺の体でやったことを、全部忘れたわけじゃないからな。」
要塞が再び動き始めた。
車輪の音と、二人の笑い声と絶叫が混じり合い、
『Brave New World Online』の空に響いていく。
制作側が絶対に想定していなかった、
親友二人の歪で最高の魔王討伐旅は、
まだ始まったばかりだった。
第12章 終わり




