第11章 変態建築士と毒舌勇者の、歪んだ共同作業
朝日が巨大要塞の石壁を赤く染める頃、俺は塔のてっぺんで腕を組んで立っていた。
下ではタカシがすでに作業を開始していた。
眼鏡を光らせながら、インベントリから大量の資材を取り出し、
要塞全体を「移動可能な超巨大要塞」に改造しようと狂った計画を立てている。
「おいタカシ! 本当に移動できるようにする気か?
このデカい城を、車輪つけて動かすとか、正気かよ!」
俺が叫ぶと、タカシは下からニヤニヤしながら手を振ってきた。
「正気だよ! 『Brave New World Online』の物理エンジン、俺がやり込んで把握してるから大丈夫。
車輪じゃなくて、魔力浮遊システム+巨大車輪のハイブリッドでいくぜ。
制作チームが絶対想定してない『移動要塞』完成させて、魔王城にそのまま突っ込むんだ!」
「……はぁ。
お前、プレイヤー時代からこのノリだったもんな。
俺が操作されてる時は『ただのコマンド』だったけど、
今お前が実際にやる側になると、ほんと狂気に見えるわ。」
俺は毒を吐きながらも、塔から降りてタカシの作業を手伝い始めた。
チートスキルの「魔力無限」を使って、魔力回路を繋いだり、
重い石材を浮遊させたりする。
タカシは汗だくになりながらも、楽しそうに指示を飛ばしてくる。
「ユウタ、そこ! もう少し右に魔力結晶埋めて!
バランス崩れると要塞ごと横転するぞ!」
「わかってるよ。
……お前が俺にやらせてた時は、こんな細かい指示一切なしで『建築コマンド』一発だったくせに。
今は全部俺が調整してるんだぞ。立場逆転、気持ちいいな。」
「ごめんって! だから今、俺が全力で働いてるだろ!」
タカシが叫びながら巨大な車輪状の構造物を組み上げていく。
直径十メートルはあろうかという石と金属の複合車輪を、四つも作っている。
しかもただの車輪じゃない。
魔力で回転を補助し、障害物を乗り越えられる特殊機構まで仕込んでいる。
作業は丸一日かかった。
夕方近く、ようやく「移動超巨大要塞・改」が完成した。
要塞全体が、ゆっくりと地面から数センチ浮き上がり、
四つの巨大車輪がゴロゴロと回転を始めた。
試運転で少し移動させてみると、意外とスムーズに進む。
俺は呆然としながら毒を吐いた。
「……マジで動いてる。
お前、ほんとゲームの制作意図をぶっ壊す天才だな。
勇者一人で魔王討伐するはずのRPGを、
巨大要塞で魔王城ごと押し潰すルートに変えるとか……
制作さん、許してくれよ。」
タカシは要塞の操縦席(元・中央広場)に座り、満足げに笑った。
「これで移動時間も大幅短縮。
魔王城まで最短ルートで突っ込める。
道中の村とか街は……まあ、ちょっとびっくりするだろうけど、
『勇者の新兵器』ってことにしとけ。」
「村人がパニックになる未来しか見えねえよ……
うわああああ!! お前と一緒に旅するの、絶対面倒くさいわ!!」
俺が全力で絶叫すると、タカシは大笑いした。
「ははは! ユウタ、相変わらずツッコミが面白いな。
昔からそうだったよ。お前がゲームやってるとき、
俺が変なプレイすると毎回『タカシやめろ!』って叫んでたもんな。」
「……思い出すなよ。
お前がマイクラで地球作って『これで十分だろ』って言ってきた時とか、
本気で呆れたわ。」
二人は要塞のてっぺんに並んで座り、夕焼けを見ながら少し昔話をした。
タカシが急に真面目な顔になった。
「ユウタ……お前が死んだ時、俺、本当にショックだったんだ。
だからこのゲーム、ただのゲームじゃなくて……
お前の分まで生きてるみたいな感覚で、やり込んでた。
変態プレイだったのは認めるけど……少しは、許してくれるか?」
俺はしばらく黙ってから、軽く頭を小突いた。
「許さねえよ。完全に。
でも……まあ、寂しかったって言うなら、
少しだけ、ありがとな。
でも次からは、普通に魔王倒すルートを提案してくれよな。」
「了解。
でも俺の建築は絶対活かすからな!」
「その変態建築が役立つ日が来るとは思わなかった……」
その夜、要塞は本格的に出発準備を整えた。
食料、回復アイテム、武器、防具を大量に積み込み、
タカシがさらに「自動採掘ドローン」みたいな小型ゴーレムまで量産し始めた。
俺はため息をつきながら、それを見守る。
「もう完全に、戦争準備だな……
勇者と親友が巨大要塞で魔王城に突撃とか、
誰が想像したよ。」
タカシが操縦席から笑顔で振り返った。
「明日は最初の街に寄って、情報収集しようぜ。
そこで村人たちに『勇者様が巨大要塞を……!』って驚かれるの、
俺、めっちゃ楽しみなんだよね。」
「楽しむなよ!!
俺の英雄イメージが台無しになるだろ!!
うわああああああ!!!」
要塞がゆっくりと動き始めた。
車輪が地面を軋ませ、夜の森を照らす魔力灯が揺れる。
二人の笑い声と絶叫が、要塞の中に響き渡った。
『Brave New World Online』の世界で、
これまで最も異質な魔王討伐パーティが、
ついに本格的に旅立った。
喧嘩と笑いと毒と、
奇妙な友情を武器に、
二人は制作側が絶対に想定していなかった
クリアへの道を、突き進もうとしていた。
第11章 終わり




