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アリシュタン  作者: sen
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2/4

2話 前日

サルミ兄のいる広場まで、私は全力で走った。


森の道はでこぼこだけど、慣れてるから平気だ。


町でしか食べられない甘いやつ。

ふわふわしたやつ。


ちゃんと分かってくれるかな。


……シュイだから、たぶん大丈夫。


でも、それより。


この前、負けた。


悔しかった。


シュイはすごい。

きっとこれからもっと強くなる。


だったら、私ももっと強くならなきゃ。


シュイが町に行ってる二週間、いっぱい木剣を振ろう。

サルミ兄にもたくさん相手してもらおう。


次に会ったら、絶対勝つ。



「サルミ兄ー!」


薪を抱えていたサルミ=バラが振り向く。


「おう、コル。今日はなんか食ってきたな?」


「えへへ」


「シュイとだろ」


なんで分かるんだろ。


「今から勝負しよ!」


「飯前だから一回だけな」


「やった!」


サルミ兄は笑いながら薪を下ろした。


木剣を持って構える姿は、やっぱりかっこいい。


私も木剣を抜く。


「今日は勝つよ!」


「この前も言ってたな」


「今日はほんとに!」


「毎回ほんとだろ」


むぅ。


でも今日はほんとだ。



地面を蹴る。


最初の一歩で間合いを詰める。


「はやっ」


サルミ兄が笑いながら半歩下がる。

そのまま木剣を横に払ってきた。


私はしゃがんで避ける。

風が髪をかすめた。


そのまま踏み込み、胴へ打ち込む。


――がつん。


「いっ!」


手がしびれた。


いつの間にか、サルミ兄の木剣が先にそこにあった。


「まだまだ動きが素直すぎるな」


「むぅ……!」


悔しい。


すぐに離れて構え直す。


サルミ兄は強い。


でも、だから好きだ。


本気で振らないと届かない。



私は息を吸って、もう一度踏み込んだ。


今度は上から。


振り下ろす直前で手首を返し、横薙ぎへ変える。


「おっ」


少し驚いた顔。


でも、防がれる。


なら次。


弾かれた勢いのまま身体を回し、逆側から打つ。


「へぇ」


これも止められた。


「コル、お前また速くなったか?」


「えへへ!」


褒められた。


でも勝ててない。


私は口をきゅっと結んで、また飛び込んだ。



何度も打って、何度も止められる。


腕が熱い。

足も重くなってきた。


それでも、止まりたくない。


シュイは明日から町へ行く。


しかもミミ婆さんと二週間一緒だ。

村で一番すごい魔法使いとずっと一緒なんて、絶対もっと強くなって帰ってくる。


そう思うと、じっとしていられなかった。


私も強くならなきゃ。


「っ!」


踏み込んで、今度こそと思って木剣を振り抜く。


そのときだった。


「コルー! ご飯できたよー!」


お母さんの声が森に響いた。


「あっ」


思わずそっちを向いてしまう。


サルミ兄がぽんっとコルの頭を叩き、吹き出した。


「集中切れすぎだろ」


「うぅー……」


悔しい。


でも、お腹は空いていた。



「また明日!」


木剣を抱えて、私は走り出す。


広場を抜け、家々の間を駆ける。


途中で石につまずきかけたけど、くるっと一歩回ってそのまま走る。


「……ほんと、なんなんだあいつ」


去っていく背中を見送りながら、サルミ兄は苦笑した。


もう、ほとんど手加減なんてしていない。


それでも食らいついてくる。


あと少し育てば――本気でも負ける。



家に入ると、いい匂いがしていた。


「遅い!」


「ごめんなさーい!」


お母さんが呆れながら皿を並べている。

お父さんは椅子に座って笑っていた。


「またサルミに付き合わせたのか?」


「もっと頑張らないと、シュイに置いてかれちゃうの!」


「おお、やる気だな」


「うん! がんばる!」


椅子に飛び乗るように座る。


お腹がぺこぺこだった。



「明日は早いんでしょ?」


お母さんがスープをよそいながら言う。


「うん! シュイたち見送りいく!」


「寝坊するなよ」


お父さんが笑う。


「しないもん!」


言い返しながら、私はパンをちぎった。


明日、シュイは町へ行く。


少しさみしい。


でも二週間だけだ。


その間に私はもっと強くなる。

木剣だって毎日振る。


帰ってきたシュイをびっくりさせるんだ。


そう思うと、なんだか楽しみになってきた。

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