十五話【一回戦】
「ドォン!」と空砲の爆音が響き、それと同時に地上からゴムボールらしきものが上がる。人が数人は余裕で入りそうなそれは、空中のアメンボたちのさらに上まで一気に上昇した。速度を次第に緩めたゴムボールは、ぴたりと止まると今度は落下を始める。再びアメンボたちの高さまで近づいたところで、両チームのアメンボが一機ずつ飛び出し、その脚でゴムボールを絡め捕ろうとする。
見事ボールを捕らえたのは青いアメンボのNo.1、キルシュバオムチームだ。ボールを取り損ねた緑アメンボのNo.1とその近くにいたNo.2は、ボールを奪い取ろうと蹴りを入れるように脚を振り回す。
狙われた青アメンボは機体を傾けてボールを蹴り上げ、その攻撃を空振りさせる。その隙をついてボールに追いつくよう急上昇し、機体を回転させてボールを前に蹴りだす。勢いよく弾かれたゴムボールは、キーファーのゴール近くまで接近した青アメンボのNo.3に接近する。その進路をふさごうとまた別の緑アメンボが出力を上げるが、間に合わない。青アメンボの風を切るパスは見事に通った。
三機の緑アメンボを抜いたことで、バルーンを守るキーファーチームは一人。それに対峙するように、正面には二機の青アメンボ。こうなれば勝負は決まっていた。
抜かれたアメンボたちはバルーンを守るため引き返すが、時すでに遅し。二機の青アメンボはスムーズなパスで最後の一機を抜き去ると、ポンとボールをバルーンに向けて蹴りだした。
軽やかに飛び出したボールは、キーファーの陣地のバルーンに「ポスン」と命中し、その丸い体を揺らした。
「ドン! ドン! ドン! ドン!」と、威勢のいい祝砲が何発も鳴らされる。そして審判機の持つ得点表が一枚めくられ、キルシュバオム側に「1」と大きく表示される。今のシュートで得点が入ったのだ。
放っておかれたゴムボールは、これにも浮遊石が入れられているらしい。ぷかぷか浮かびながら、悔しがるキーファーチームを眺めている。
得点を入れられたキーファーチームはボールを回収し、パスを回しながら散開している。獲物を狩る獣のように、じわりじわりと戦線を上げていく。対するキルシュバオムチームは、自陣のバルーンを守るように機体を固めて壁を作り上げていく。
一方はその壁を突き崩すために揺さぶりをかけ、もう一方はわずかな隙に付け込もうと機体を揺らす。
「どうだセオ、わかったか? これが大体のフロッカーの流れだ」
ずっとその様子を見上げていたセオは、ロットンに声をかけられ慌てて首を戻した。
「要は、ボールを奪って、相手のバルーンにボールをぶつければ得点が入るっていうことかな?」
「よし、それが分かれば大体はオーケーだ。こんな感じで前後半それぞれ十分ずつ得点を取り合い、より多く点を取った方の勝ちだ。シンプルだろ?」
なるほど確かにシンプルだ。口には出さないが、ロットンにピッタリとも言える。
その後も、激しい静と動を繰り返しながら両チームは一進一退の攻防を見せる。
最初の痺れるようなゴールから一転、お互い得点を得られずに小競り合いが続く。一点を死守するキルシュバオムと、まずは一点をと防御の穴を探すキーファー。その緊張感が汗となり、空から降ってきそうだ。セオを含めた観客たちも、その様子をかたずをのんで見守っている。
そうして前半の十分を終えた。一点を死守したキルシュバオムチームが優勢だ。
数分の休憩のために選手たちがゆっくりと降りてくる。
キャノピーの中から覗く選手たちは、極度の集中を経た後でかなり憔悴しているようだった。一つ間違えれば大事故につながるからだろう、短時間と言えどその疲労は計り知れない。その姿に、観客たちの激励が浴びせられる。
軽い休息とミーティングを終えた後、再び彼らは戦場に舞い上がった。キーファーの住民たちだろう、その後ろ姿に一際大きな叫びを投げかけている。
そんな彼らには申し訳なく思いながら、セオは既に『キルシュバオムが勝つ』とあたりをつけていた。
フロッカーに関して素人のセオだが、どちらの実力が上かはこの十分の両者の動きを見てよくわかった。
そしてもう一つ、休憩時の選手たちの表情だ。
他でもない、選手たちは互いの実力を見極めていた。そして分かったのだろう。「俺たちはキーファーに勝てる」「俺たちはキルシュバオムに勝つのは難しい」と。その認識から来るわずかな表情の変化を、セオは見逃していなかった。
結果は、セオの予想した通りとなった。後半戦が始まって五分ほど後、キルシュバオムは駄目押しとなる二点目のゴールを決めた。勝利を確信したのだろう、キルシュバオムは油断からエラーを起こし、そこを見事に突いたキーファーが一点を返した。しかしわずかに残された時間では、逆転劇を演じるには達しなかった。
試合の終了を告げる空砲が鳴った。その瞬間、この試合の勝者が決定したのだ。
勝利に沸く者、敗北にうなだれる者、両者の健闘を称える者。それぞれがそれぞれの形で試合の終わりを飾る。
「ぃよっしゃぁ! やったぜ、さすが俺たちのヒーローだぜ!」
「ガッハッハ! こりゃ今年も美味い酒を呑めそうだぜ!」
試合に釘付けになっていたロットンとゴルドーの二人が、これ以上ない上機嫌で声を上げている。それが火種となって、辺り一帯の熱気がさらに上昇する。
レイカの方は、興奮で紅潮しつつ安堵の表情を浮かべている。試合を控えている彼女からすれば、少しでも勝利を稼いでもらった方が気が楽になるからだろう。
普段は声を張り上げることなどしないセオも、この時ばかりは周りの熱気を借りて、拳を突き上げて思い切り喜んでみた。




