第71話 「帰ろう」
神代の施設での調査は終わりを迎えていた。最後まで分からないことは多かった。古代文明。ダンジョン。神器。封印。世界が滅びかけた戦い。神代の記録。知ったことは多い。だが同時に、分からないことも増えた。
それでも調査隊は成果を持ち帰ることになった。帝国の学者たちは忙しそうに記録をまとめている。カレンなど完全にその一員になっていた。
「帰りません」
真顔だった。
「帰れ」
ティアが即答する。
「研究が」
「帰れ」
「資料が」
「帰れ」
結局連行されそうになったところで、カレンが隊長の元へ駆け寄った。
「隊長、お願いがあります」
「なんだ」
「学者の皆さんと一緒に、資料整理のためこちらに残らせてください。帰りは調査隊の便に同乗させていただければ」
真剣な顔だった。隊長はしばらく考え、それから頷いた。
「学者たちの許可が取れるなら、構わない。だが、単独行動は禁止だ。必ず誰かと一緒に動け」
「約束します!」
即答だった。ティアが呆れたようにため息をつく。
「結局残るのか」
「正式な許可、もらいましたから」
胸を張るカレンに、これ以上は何も言えなかった。
「向こうで、また会おう」
セリナが声をかける。
「はい、必ず!」
こうして、カレンだけは学者たちの調査隊とともに、しばらく現地に残ることになった。帰りは別便での帰還となる。
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一方、リリアたちは地下都市の出口へ向かっていた。来た時は長く感じた道。だが帰りは不思議と短く感じる。
「終わっちゃったね」
ユナが呟いた。
「そうですわね」
エレノアも頷く。世界の秘密に触れた。神話のような話を聞いた。地下に眠る都市も見た。空飛ぶ都市の記録も見た。数週間前なら誰も信じなかっただろう。
「変な旅だった」
フィアナが笑う。
「ダンジョンありましたし」
ルシェ。
「神代もあった」
ノア。
「神器も古代技術だった」
セリナ。全員少しずつ笑う。本当に変な旅だった。
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その時だった。後ろを歩いていたルナが立ち止まる。足音が止まる。リリアが振り返った。
「どうしたの?」
ルナはしばらく地下都市の奥を見つめていた。静かだった。いつものような笑顔もない。お菓子も持っていない。珍しかった。
「お別れ」
ぽつりと言う。全員が立ち止まった。ルナは地下都市を見る。壊れた都市。失われた文明。長い時間の果てに残された世界。
「知り合いがいっぱいいた」
小さな声だった。誰も何も言わない。神様だった。ルナはこれまでずっと昔を知っていた。神代も。古代文明も。世界が今とは全く違った頃も。そしてその全てを失った。
「寂しい?」
リリアが聞く。
ルナは少し考える。そして笑った。
「ちょっとだけ」
その返事に、何となく安心した。
「じゃあ帰ろう」
リリアが言う。
「私はいるし」
ルナが固まる。
「みんなもいる」
当たり前みたいな声だった。
「だから大丈夫」
静寂。フィアナが苦笑する。
「慰め方が雑」
「リリアですから」
ルシェ。
「リリアだな」
セリナ。満場一致だった。しかしルナは笑った。今度は本当に楽しそうだった。
「うん」
短く頷く。
「帰ろう」
こうして調査は終わった。巨大な穴を上る。何日もかけて。少しずつ。やがて、眩しい光が見えた。久しぶりの青空だった。
「おおー」
リリアが感動する。
「空だ」
「当たり前ですわ」
エレノアが笑った。地下生活が長かったのだ。風も気持ちいい。ユナが大きく背伸びをする。フィアナも目を細める。ルシェなど本気で嬉しそうだった。
「太陽ですね!」
「太陽だな」
少し感動が薄かった。
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帝都へ戻る馬車の中。みんな疲れていた。しかし悪い疲れではない。達成感だった。
セリナは眠る。ユナも眠る。ノアも眠る。ルシェも眠る。フィアナも眠る。エレノアも眠る。ミレーユも眠る。ティアも眠る。気付けば、ほとんど全員が眠りに落ちていた。
リリアだけ起きている。窓の外を見る。流れていく景色。目を閉じる。地下都市で見たものを思い出す。
未来へ託す。あの言葉。昔の人たちは未来を信じた。だから記録を残した。だから封印した。だから世界を守った。
リリアには難しいことは分からない。古代文明も。神代も。政治も。歴史も。全部は理解できない。それでも一つだけ分かっていた。守りたい人がいる。それで十分だった。
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夕方、帝都が見えてくる。巨大な城壁。賑やかな街並み。人々の暮らし。見慣れた光景。けれど少しだけ違って見えた。世界を知ったからだ。
帝都は広い。でも世界はもっと広い。知らないことも多い。まだ見たことのない場所もある。そして、まだ終わっていない問題もあった。
馬車が帝都へ入る。その時、遠くから鐘の音が聞こえた。一回。二回。三回。様子がおかしい。
「警報?」
セリナが目を開く。フィアナも起き上がる。眠っていた全員が、次々と目を覚ました。街の様子が慌ただしい。兵士たちが走る。人々が集まる。何かあった。
「嫌な予感」
ミレーユが呟く。全員同意だった。リリアだけは首を傾げる。
「何だろう」
ルナが窓の外を見る。珍しく笑っていなかった。そして小さく呟く。
「早かったなぁ」
その一言に、リリアたちは顔を見合わせる。何が早かったのか。まだ分からない。だが確実に、何かが始まろうとしていた。
人助けから始まった旅。仲間を集めるための冒険。可愛い子を追いかけていただけの毎日。その積み重ねが、やがて帝国の未来へ繋がっていく。
少女たちはまだ知らない。これまで助けてきた人々が。これまで繋いできた縁が。これから訪れる最大の試練を支えることになるのを。
そして、帝国と同盟国の運命を変える戦いが、静かに幕を開けようとしていた。
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