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【完結】可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第7章 世界の秘密編

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第68話 「神様のお願い」

巨大地下都市の中心部。調査開始から数日。リリアたちは石碑の発見以降も探索を続けていた。しかし今日は少し違った。ルナが静かだった。


「静かですね」

ルシェが言う。

「静かだな」


セリナも頷く。普段のルナならもっと適当なことを言う。お菓子も食べる。空も飛ぶ。人をからかう。だが今日は違った。ずっと前を見ている。


「どうしたの?」

リリアが聞く。


ルナは少し考えた。


「んー」


珍しく言葉を選んでいる。


「近いから」

「何が?」

ミレーユ。


ルナは前方を指差した。


「目的地」


静かになる。目的地。その言葉に全員反応した。


「最初から目的があったの?」

フィアナが聞く。

「うん」


即答だった。全員固まる。


「先に言いなさいよ!」


ミレーユが叫んだ。


「聞かれなかったし」


神様だった。いつものことである。


---


この日は、被害者の会の担当区域が特に広く、隊長と、隊長付きの隊員二名、そして職員が同行していた。他の冒険者パーティーや学者たちは、それぞれ別の区画を任されており、この一帯には近付いていない。


「今日は珍しく人が少ないな」

隊長がぽつりと呟いた。

「進行方向、他のパーティーとは被らないよう調整されてます」


職員が地図を確認しながら答える。


「ルナ様の希望らしいので」


その一言に、ミレーユが眉をひそめた。


「え、それも知ってたの?」

「うん」


ルナは悪びれもせず頷いた。誰にも咎められる前に、既に段取りを整えていたらしい。


隊員の一人が、周囲を警戒しながら小声で相方に言う。


「聞いてた話より、規模が段違いだな」

「今日一日で何回驚いたか、数えるのやめました」


もう一人の隊員も苦笑していた。二人とも、この調査に同行してから、常識が何度も塗り替えられているらしい。


---


しばらく進む。遺跡の様子が少しずつ変わっていく。建物は減り、通路は広くなる。そして、巨大な扉が見えた。今まで見たどの建造物より大きかった。高さ十メートル以上。白い金属のような材質。傷だらけなのに壊れていない。


「何これ」

ユナが呟く。

「扉」


ルナ。


「見れば分かる」


全員頷いた。それは分かった。問題は、何の扉なのかだった。


隊長も、目の前の建造物を見上げて息を呑んでいた。


「これほどの規模の建造物、これまでの調査記録にはない」

「報告が必要ですね」


職員も緊張した面持ちで、手元の記録用紙にペンを走らせ始めた。隊員二人も、扉の大きさを目測しながら、何やらメモを取っている。


扉の中央には見慣れた紋章が刻まれていた。リリアが固まる。


「あれ?」


近付く。そして目を丸くした。


「神器と同じ」


その瞬間、リリアの手が、吸い寄せられるように紋章へ伸びた。


「触らないで!」


ミレーユ、セリナ、ティア、そして隊員二人までもが、ほぼ同時に叫んだ。数本の手が、リリアの腕や肩を掴んで引き止める。


「またか!」

「学習しろ!」

「経験上、絶対に良いことがない!」


口々に叫ばれながら、リリアは紋章の手前で完全に押しとどめられていた。


「触ってない、まだ触ってない」

「触ろうとしたでしょう!」


ミレーユが叫ぶ。隊員の一人が、額の汗を拭いながら息を吐いた。


「噂には聞いていましたが、本当なんですね……」

「事前に聞いておいて助かった」


もう一人の隊員も、心底安堵した顔をしていた。


空気が変わった。全員も気付く。確かに同じだった。神のイタズラが発動する時、リリアの前に現れる紋章。それとよく似ている。


「本当ですわ」

エレノア。

「同系統だな」


ティアも頷く。石材の継ぎ目や意匠を、職人らしい目で観察していた。


「加工技術が、今の帝国の水準を明らかに超えている」


カレンは既に興奮していた。


「関連施設!」


危険だった。非常に危険だった。


「落ち着け」

セリナ。

「無理です!」


いつも通りだった。


隊長が、少し困った顔で二人を見ていた。


「これは、正式な報告が上がってから、上層部の判断を仰ぐべき案件かもしれん」

「ですが、隊長」


職員が声をかける。


「今この場を離れれば、扉が再び閉じてしまうかもしれません。それに」


ちらりとルナを見る。


「神が同行されている以上、この判断は我々だけのものではないかと」


隊長はしばらく黙り込んだ後、小さく頷いた。


「……分かった。ここは、彼女たちに任せよう」


隊員の一人が、もう一人に小声で囁いた。


「俺たち、今日のことを報告書にどう書けばいいんだ」

「正直に書いたら、上に信じてもらえない気がする」


二人とも、遠い目をしていた。


---


ルナは扉の前に立つ。そして、珍しく真面目な顔になった。全員が黙る。神様が真面目。それだけで緊張する。


数秒。やがてルナが振り返った。


「お願いがある」


静かな声だった。リリアたちも姿勢を正す。遊んでいる時のルナではなかった。神様としてのルナだった。


「お願い?」

リリアが聞く。


ルナは頷く。


「うん」


少しだけ笑う。でもどこか寂しそうだった。


「この場所を調べてほしい」


全員顔を見合わせる。


「それだけ?」

ルシェ。

「それだけじゃない」


ルナは扉へ手を置く。


「ここには昔の記録が残ってる」

「古代文明の?」

フィアナ。

「もっと前」


静寂。全員固まった。古代文明より前。そんなものがあるのか。


「神代」


ルナが言う。風が止まる。誰も話さない。神代。神話の時代。誰も実在したとは思っていない時代。


「本当にあったの?」

ユナ。

「あったよ」


ルナは当然みたいに答えた。


「私その時いたし」


全員。


「あ」


忘れていた。神様だった。当事者だった。


「そうでしたわ」

エレノア。

「そうだったな」

セリナ。

「そうでした」

ルシェ。


少しだけ緊張が消えた。ルナが苦笑する。


「ひどい」

「よく忘れるから」


フィアナ。正論だった。


ルナは小さく肩を落とした。それから再び扉を見る。


「昔ね」


静かな声。


「守れなかった」


全員がルナを見る。初めて聞く声だった。冗談もない。笑顔もない。ただ少しだけ悲しそうだった。


「だから知ってほしい」

「何を?」

リリアが聞く。


ルナは答える。


「本当のこと」


短かった。でも、それだけで十分だった。神様ですら忘れたくなかったもの。神様ですら残したかったもの。それがこの先にある。


隊長、隊員二名、職員は、少し離れた場所で静かにその様子を見守っていた。これは自分たちが立ち入るべき場面ではない、そう感じ取っているようだった。


リリアは扉を見る。怖さはある。知らないものへの不安もある。でも、


「分かった」


即答だった。


「見に行こう」


ミレーユが苦笑する。本当に迷わない。セリナも笑った。


「そういうと思った」


ルシェも頷く。


「ここまで来ましたしね」


フィアナも前を見る。


「帰ったら気になり続けそうだし」


エレノアは優雅に微笑む。


「最後まで付き合いますわ」


カレンは既に調査する気満々だった。ティアも頷く。ノアも静かに立ち上がる。


「行く」


短い一言だったが、迷いはなかった。ユナは少し緊張しながらも笑った。


十人全員、同じ方向を向いていた。


ルナはそんな仲間たちを見て、少しだけ安心したように笑う。


「ありがとう」


神様らしくない言葉だった。


隊長が小さく敬礼をした。


「ここから先は、報告義務を一時保留する。存分に確かめてくるといい」


そして、ルナへ向き直ると、少し声のトーンを落とした。


「ルナ様、皆様に危険はありませんよね?」


真剣な問いだった。神への礼儀を保ちながらも、部下のように扱ってきた少女たちを案じる気持ちが、はっきりと滲んでいた。


ルナは少し考えてから、正直に答えた。


「絶対とは言えない。でも、私も一緒に行く」


隊長はしばらく黙り込んだ。それが、今出せる精一杯の保証なのだと理解したらしい。


「……分かりました。無事の帰還を待っています」

「感謝します」


職員も深く頭を下げた。隊員二人も、緊張した面持ちで敬礼を返す。二人の見送りを受けながら、巨大な扉が、ゆっくりと動き始める。


失われた歴史。神代の記録。世界の真実。その全てが眠る場所が、ついに少女たちの前に姿を現そうとしていた。

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