第63話 「帝国の未来」
帝都へ戻って数日後。
「呼び出しです」
伝令の言葉に、談話室が静かになった。
「また?」
ミレーユが言う。
最近多かった。帝国軍。帝城。会議。依頼。ろくな予感がしない。
「今度は何ですかね」
ユナが不安そうに言った。
「夜型解除とか」
カレンが言う。全員が期待した。一秒だけ。
「ないわね」
フィアナが即答した。夢を見るのは自由だった。現実は厳しい。
その時、ソファに寝転がっていたルナが、珍しく起き上がった。
「私は今回、留守番する」
「珍しいわね」
ミレーユが少し意外そうに言う。いつもなら真っ先について来たがるはずだった。
「なんとなく」
それだけ言うと、ルナはまた寝転がってしまった。理由は分からなかったが、誰も深くは追及しなかった。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
いつもと変わらない、気楽な見送りだった。
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そして翌日、リリアたちは帝城へ呼ばれた。豪華な会議室。以前より明らかに偉そうな場所だった。リリアは落ち着かない。
「お菓子ない」
そこか。ミレーユがため息をついた。
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しばらくして、数人の貴族と軍関係者が入室する。その中には、以前報告書を読んでいた老紳士もいた。穏やかな雰囲気の人物だった。
「本日は来ていただき感謝します」
優しい口調だった。少し安心する。ユナだけは緊張していた。
老紳士は続ける。
「今回は依頼ではありません」
全員が少し安心する。
「では何ですか?」
エレノアが尋ねた。
「君たちの意見を聞きたいのです」
静かになる。意外だった。
「意見?」
セリナが聞く。
老紳士は頷く。
「帝国の未来についてです」
さらに静かになる。重い空気だった。フィアナが小さく息を吐く。
「なるほど」
ようやく呼ばれた理由が分かった。若い世代の意見を聞きたいらしい。
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まず話し始めたのはセリナだった。
「冒険者を育てるべきだと思います」
真面目な答えだった。
「最近の災害でも人手不足が問題になった」
全員頷く。確かにそうだった。
続いてルシェ。
「物流です!」
力強かった。
「橋と街道にもっと投資するべきです!」
商人らしい意見だった。老紳士も興味深そうに聞いている。
エレノアは言った。
「地方との連携を強めるべきですわ」
貴族らしい視点だった。
続いて、ノアが小さく手を挙げた。
「森の情報、大事」
短い発言だった。老紳士が続きを促す。
「詳しく聞かせてもらえますか」
「地形も、獣道も、災害の前触れも、森を知ってる人にしか分からないことがある。狩人の意見、もっと聞いた方がいい」
普段の口数の少なさからは想像できないほど、まとまった意見だった。老紳士が感心したように頷いた。
ティアも、少し遅れて口を開く。
「装備の話をするなら、俺は現場を知る職人の意見も反映してほしい。書類の上だけで決められると、現場が困ることが多い」
鍛冶師としての立場からの、実感のこもった一言だった。
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フィアナも続く。
「同盟国との交流を増やした方がいいと思います」
会議室が少し静かになる。だが、誰も反対しなかった。フィアナは続ける。
「今回の災害で分かりました」
「困っている人は同じです」
「国境は関係ありません」
優しい声だった。老紳士もゆっくり頷く。
「良い意見ですね」
フィアナは少し照れた。
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カレンも、手帳を開きながら発言した。
「データが足りていません。災害の発生傾向、地質、季節による変化。感覚だけで対応するより、記録を積み重ねて予測できる体制を作るべきだと思います」
理屈っぽい提案だったが、老紳士は真剣な顔でメモを取っていた。
「有意義な視点です」
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やがて、話題はリリアへ向いた。
「リリア殿はどう思いますか?」
静かになる。全員が見る。嫌な予感しかしない。
リリアは考える。長かった。珍しく。本当に珍しく。そして、
「仲良く」
短かった。会議室が静かになる。ミレーユが頭を抱える。
「説明しなさい」
「えー」
嫌そうだった。しかし、少し考えてから続ける。
「みんな仲良い方がいい」
「帝国も」
「同盟国も」
「街の人も」
「冒険者も」
さらに考える。
「困ってる人が少ない方がいい」
静かになる。誰も笑わない。リリアは真面目だった。本人も気付いていないくらい。
「助けられるなら助けたいし」
「笑ってた方がいい」
それだけだった。難しい理論はない。立派な政策もない。ただの本音だった。
しかし、会議室の空気は柔らかくなっていた。老紳士は微笑む。
「なるほど」
小さく頷く。
「それが一番難しいのかもしれませんね」
会議はそこで終了となった。
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帰り道、帝城の廊下を歩く。ユナが聞いた。
「先輩って凄いですね」
「なにが?」
「帝国の未来について話してました」
リリアは首を傾げた。
「ご飯の話じゃなかった?」
全員が止まる。数秒後、フィアナが吹き出した。ルシェも笑う。セリナも苦笑する。
ミレーユは天井を見上げた。
「やっぱりリリアだったわ」
安心したような声だった。
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拠点へ戻ると、ルナが窓辺に座って、ぼんやりと空を見上げていた。
「ただいま」
リリアが声をかける。
「おかえり」
いつもの調子だったが、その視線は、どこか遠くを見ているようだった。
「留守番、暇だった?」
「うん、まあまあ」
ルナはそう言って、いつもの笑顔に戻った。だが、ほんの一瞬だけ見せた真面目な横顔を、リリアは少しだけ覚えていた。
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その日の夜、帝城。老紳士は窓の外を見ていた。帝都の灯りが美しい。机の上には会議記録。最後の頁には一言だけ記されていた。
『困っている人が少ない方がいい』
老紳士は小さく笑う。
「単純だ」
そして、
「だからこそ忘れやすい」
誰にも聞こえない独り言だった。
帝国の未来は、まだ分からない。だが、少なくとも今、その未来を考える若者たちは確かに存在していた。




