第6話 「初めての依頼」
「依頼?」
翌週、教室でリリアが首をかしげた。
---
「そう」
アリア先生が頷く。
「見習い冒険者として初実習を行います」
教室がざわついた。
---
冒険者。その言葉だけで興奮する生徒も多い。将来を夢見て入学した者ばかりだからだ。
もちろんリリアも興奮していた。ただし方向が少し違う。
「可愛い依頼かな」
「依頼に可愛いとかあるの?」
ミレーユが聞く。
「あるかもしれない」
「ないと思う」
---
アリア先生は説明を続ける。
「内容は薬草採取です」
全員が少し安心した。危険な依頼ではない。初心者向けである。
「二人一組で行動してください」
その言葉で教室がざわつく。
「やった」
リリアが言った。
「まだ組み合わせ決まってないよ?」
ミレーユが言う。
「でもミレーユでしょ?」
「どうして」
「友達だから」
即答だった。
結局、教師も最初から組み合わせを決めていた。
リリア。ミレーユ。
「ほら」
リリアが勝ち誇る。
「なんで得意そうなの……」
ミレーユがため息をついた。
---
翌日、二人は村近くの森へやって来た。春の森だった。風が気持ちいい。鳥も鳴いている。
「遠足みたい」
「依頼だからね?」
「分かってる」
分かっている顔ではなかった。
---
依頼内容は簡単だった。青い葉を持つ薬草、十本、採取するだけ。
「簡単だね」
「油断しちゃだめ」
ミレーユは周囲を警戒していた。真面目だった。とても真面目だった。
リリアはというと。
「おーい」
薬草ではなく蝶々を追いかけていた。
「リリア!」
「なに?」
「そっち違う!」
「本当だ」
本当に違った。開始十分で迷子になりかけていた。
---
その後、なんとか薬草を集める。九本。あと一本。
「見つからないね」
「お腹空いた」
会話が噛み合わなかった。
---
その時だった。
「うぅ……」
小さな声が聞こえた。二人は顔を見合わせる。声の方へ向かう。すると、男の子がいた。八歳くらい。足を怪我している。どうやら森で転んだらしい。
「大丈夫?」
リリアがしゃがみ込む。
「いたい……」
泣きそうな顔だった。
ミレーユが周囲を見回す。
「一人?」
男の子が頷いた。どうやら薬草採りに来て迷ったらしい。
「どうする?」
「治す」
---
ぽたっ。指先から水滴が落ちる。男の子の傷へ触れる。淡い光。
「え?」
男の子が目を丸くする。傷が少し薄くなった。
ぽたっ。もう一回。
ぽたっ。さらにもう一回。
すると、傷はほとんど目立たなくなった。
「すごい!」
男の子が立ち上がる。
「痛くない!」
笑顔だった。リリアも笑う。
「よかった」
ミレーユも安心した。薬草より先に人助け。いかにもリリアらしかった。
---
帰り道、男の子を村まで送り届ける。母親が飛び出してきた。
「ありがとう!」
何度も頭を下げる。リリアは困った。
「そんなに?」
「そんなにだよ」
ミレーユが言う。普通の人にとっては大事件だった。
---
学校へ戻る。薬草は九本、足りない。
アリア先生が確認する。
「一本不足ね」
「ごめんなさい」
ミレーユが頭を下げる。だが、先生は報告書を見る。迷子の救助。怪我の治療。無事帰還。しばらく考える。そして言った。
「合格」
リリアが万歳した。
「やった!」
「依頼の本質は薬草ではないわ」
「困っている人を助けること」
リリアは少し考える。難しい話だった。三秒後、
「じゃあ助けたから満点?」
「そういうところよ」
先生は笑った。
---
帰り道、夕焼けが綺麗だった。
「依頼楽しかった」
「うん」
「また一緒に行こうね」
「もちろん」
最初の依頼。最初の成功。まだ小さな冒険だった。
だが、リリア・フォルネスは知らない。この先、何百という依頼をこなし、数え切れない人々を助けることになる。その始まりが、今日の小さな薬草依頼だった。
そしてリリアは、
「次は可愛い依頼がいいな」
最後まで、いつも通りだった。




