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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

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第58話 「凱旋」

避難村での支援活動を終え、リリアたちは帝都へ戻ることになった。馬車に揺られながら、フィアナがからかうように言った。


「聖女様なんて呼ばれてましたね」

「やめて」


リリアは即答した。


「でも本当のことでしょう」

「聖女じゃない」

「じゃあ何なの?」


リリアは少し考えた。


「回復水の人」


説明になっていなかった。ミレーユが苦笑する。


「その認識で合ってるのか怪しいけどね」

「間違ってない」


リリアは自信満々だった。カレンが小さくため息をつく。


「呼び方はともかく、してきたことは事実です。そこは否定しません」

「ある意味なのね」


フィアナが呟いた。相変わらずだった。


「言葉の定義には拘りますけど、事実そのものには拘りません」


カレンなりの一貫した理屈だった。


隣で話を聞いていたルナが、けらけらと笑う。


「聖女様、いい響きじゃない」

「ルナまで言う」

「本人が嫌がるほど、面白くなるよ」


神様の悪ふざけだった。リリアはがっくりと肩を落とした。


---


しばらくして帝都の城壁が見えてくる。長い支援活動も終わり、全員少しだけ疲れていた。それでも、無事に帰って来られたことは嬉しい。


馬車はゆっくりと門へ近付く。そして異変に気付いた。人が多い。妙に。門の周辺に人だかりができていた。


「あれ?」

リリアが首を傾げる。

「何かありますわね」


エレノアも見る。フィアナが苦笑する。


「嫌な予感がする」


その予感は当たった。門をくぐった瞬間だった。


「あっ!」


誰かが叫ぶ。続いて、


「聖女様だ!」

「本当にいた!」

「回復水の人だ!」

「助かったって聞いたぞ!」


人々が集まってくる。リリアは後ずさった。


---


その人だかりの中から、ひときわ甲高い声が響いた。


「お姉さまぁぁぁ!」


聞き覚えのある声に、全員が振り返る。ユナだった。両手を大きく広げ、まっすぐこちらへ突っ込んでくる。


「ユナ、なんでここに」


言い終わる前に、ユナがリリアへ勢いよく飛びついた。


「聞きました! 村を救ったって! 感謝状もらったって!」

「まだ何ももらってない」

「もうすぐもらうんですよね!?」


興奮のあまり、話が先走っていた。ミレーユが呆れたように口を挟む。


「あなた、授業はどうしたの」

「終わったので、走って来ました! 凱旋するって聞いて!」


息を切らせながらも、目はきらきらと輝いていた。三学年下の後輩にとって、憧れの先輩の帰還は、大事件だったらしい。


「増えてる」

「増えてるわね」


ミレーユも同意した。ユナ一人が加わっただけで、人だかりの熱気がさらに増した気がした。


セリナが周囲を警戒するように、リリアの前へ半歩踏み出す。


「人が集まりすぎだ。危なくないか」

「悪意はなさそうだけど」


ノアも短く言う。


「気配、穏やか」


二人とも、いつもの慎重さで様子を見ていた。ユナだけは、リリアの腕にしがみついたまま離れなかった。


ルナは、人だかりを面白そうに眺めながら、小さく手を振っていた。


「みんな嬉しそう」

「ルナも手振らないで、余計に集まる」


ミレーユが慌てて止める。だが、もう遅かった。


---


ルシェが周囲を見る。


「噂ってこんなに早く広まるんですね」

「帝都ですもの」


エレノアが言う。


「情報の速さは商人も貴族も変わりませんわ」


住民達は笑顔だった。感謝を伝える者。手を振る者。頭を下げる者。みんな好意的だった。リリアは困る。


「なんで?」

「助けたからよ」


ミレーユが言う。


「そう?」

「そう」


それでも、本人はまだ納得していない様子だった。


---


その時、フィアナが帝都の街並みを見上げた。そして小さく呟く。


「同盟国では考えられないな」


ルシェが首を傾げる。


「何がですか?」

「平民出身の冒険者が、ここまで評価されること」


フィアナは少し笑った。


「帝国って変な国ね」


否定ではなかった。むしろ、少しだけ好意的な響きだった。帝都へ来た頃とは、かなり違う。


---


学校へ戻ると、エリス教官が待っていた。腕を組んでいる。そして少し疲れていた。ユナは、まだリリアの隣を片時も離れずについて歩いていた。


「お疲れ様」

「教官も疲れてます?」

リリアが聞く。


エリス教官は即答した。


「あなたの噂対応でね」


意味が分からなかった。リリアだけは。当然である。


一緒に馬車で戻ってきたティアも、呆れた顔で成り行きを眺めていた。


「聖女様、村でも工房の連中の間でも、その呼び方しか聞かなかったぞ」

「ティアまで」

「事実だから仕方ない」


リリアは肩を落とした。味方がいなかった。ユナだけが、その隣で誇らしげに胸を張っていた。


---


教官は一枚の書類を差し出す。立派な封筒だった。帝国の紋章入り。


フィアナが目を丸くする。


「帝城?」

「ええ」


エリス教官は頷いた。


「正式な感謝状よ」


静かになる。ユナが我慢できずに叫んだ。


「すごすぎます!」

「すごいですわね」


エレノアも驚いている。リリアだけが理解していない。


「何これ」

「感謝状」

「なんで?」

「本当に分かってないのね」


ミレーユが言う。少しだけ呆れながら。


エリス教官は続けた。


「今回の活動は帝国上層部にも届いているわ」

「多くの住民を助けた」

「避難を支えた」

「想像以上に評価されている」


静かになる。リリアはしばらく考えた。そして、


「大事だった?」

「大事だったのよ」


教官は苦笑した。その答えを聞いて、リリアは小さく頷く。


「ならよかった」


それだけだった。


---


夜、談話室。全員が集まっている。いつもの場所。いつもの空気。ユナも、当然のように輪の中に混ざっていた。


「私も次は連れて行ってください!」

「今回は上級生だけの依頼だったから」

ミレーユが宥める。

「早く追いつきます!」


やる気だけは十分だった。


ルシェがお茶を飲みながら聞く。


「これからも聖女様って呼ばれるんでしょうか?」

「絶対嫌」


リリアは即答した。迷いもなかった。


「じゃあ否定し続けるしかないわね」

ミレーユが言う。

「してる」

「してるのに広まってるのよ」


フィアナが呆れる。カレンも頷いた。


「もう手遅れでは?」

「やめて」


悲しそうだった。ルナだけは、その様子を眺めながら、楽しそうにお菓子を頬張っていた。


---


一方その頃、帝城。静かな執務室。一人の老紳士が報告書を読んでいた。


『被災地支援活動報告』

『回復水使用記録』

『住民評価』

『通称・聖女』


老紳士は静かに書類を閉じる。そして窓の外を見る。帝都の夜景が広がっていた。


「民が希望を求める時代か」


小さな呟きだった。誰も聞いていない。老紳士は微かに笑う。


「ならば希望はあった方がいい」


それが善意なのか。それとも別の思惑なのか。まだ誰にも分からない。もちろん、リリアにも。


その頃、談話室では、


「お腹空いた」


リリアが言った。


帝国の希望と呼ばれ始めた少女は、明日の朝ご飯のことを考えていた。

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