第57話 「聖女様」
翌朝、避難村は慌ただしかった。だが、昨日とは違う。明るい。明らかに人々の表情が良くなっている。その理由は一つ、リリアだった。
「聖女様!」
朝一番で呼ばれた。リリアは振り返る。
「誰?」
自分だとは思っていない。当然だった。
「リリアさんですよ!」
住民達は笑顔だ。子供達も集まってくる。
「聖女様!」
「回復のお姉ちゃん!」
「ありがとう!」
大人気だった。リリアは困る。
「違うよ」
否定する。しかし、
「なんて謙虚なんだ」
住民達は感動する。逆効果だった。
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少し離れた場所で、ミレーユ達が見守っている。
「悪化してない?」
フィアナが聞く。
「悪化してる」
セリナが答える。満場一致だった。
エレノアは、少し困った顔で村人たちを見ていた。
「訂正して差し上げた方がよろしいのでは」
「無駄だと思うわ」
ミレーユが力なく答える。
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昼頃、住民達から食事を振る舞われる。豪華だった。避難所とは思えないほど。
「おいしい」
リリアは幸せそうだった。その様子を見た住民が言う。
「質素な食事でも喜んでくださる」
「素晴らしい人格だ」
「さすが聖女様」
リリアは気付いていない。
「何言ってるの?」
本気だった。
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その頃、カレンは頭を抱えていた。
「なんで英雄扱いなんですか」
「助けたからじゃない?」
ルシェが言う。
「それだけなら理解できます」
カレンは手帳を開き、真剣な顔で続けた。
「でも聖女は違います。聖女というのは、神格化された、崇拝の対象を指す言葉です。リリアさんがしたのは、あくまで魔法による治療と、みんなで協力した衛生改善です。功績と信仰を混同するのは、記録として不正確です」
理路整然としていたが、誰もそこまで求めていなかった。
「言いたいことは分かるけど、村の人は気にしないと思うわよ」
「不正確なままにしておくのは、気持ちが悪いんです」
研究者らしい潔癖さだった。
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その頃、ティアとノアは、村の外れで昨日組み立てた浴槽の補修をしていた。
「昨日の今日で、もう傷んでるな」
ティアが板の継ぎ目を確認する。
「使う人、多かったから」
ノアが手伝いながら答える。二人とも、村の中で騒がれている「聖女」の話は、あまり耳に入っていないようだった。
「リリア、なんか呼ばれてたな」
「聖女、って」
「似合わないな」
「うん」
短いやり取りで、意見は一致していた。
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夕方、さらに事件が起きる。帝国軍の一隊が村へ到着したのだ。隊長は診療所を見回り、改善した状況を確認する。そして、リリアへ向かって敬礼した。
「感謝する」
静かになる。村人達も見る。兵士達も見る。リリアだけが分からない。
「なにが?」
隊長は少し笑った。
「多くの命を救った」
「そう?」
「そうだ」
短い会話だった。だが、周囲の人々には十分だった。拍手が起こる。歓声も上がる。リリアは困惑する。
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その時、ルナが後ろから現れた。
「人気者だね」
楽しそうだった。
「違う」
リリアは否定する。ルナは笑う。
「そうかな?」
そして、少しだけ真面目な顔になる。
「助けたんだから褒められていいんだよ」
珍しい言葉だった。リリアは少し考える。それから、笑った。
「じゃあよかった」
単純だった。でも、それで十分だった。
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夜、村には久しぶりに明るい声が響いていた。子供達は笑い、大人達も笑う。その中心には、いつの間にかリリアがいた。
本人だけが、なぜそうなったのか分かっていなかったけれど。




