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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

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第55話 「橋を守れ」

翌朝、リリアたちは帝都を出発した。目的地は帝都から半日ほど離れた川沿いの町。帝国軍から依頼された支援任務の最前線だった。


見送りには、ユナも来ていた。


「行ってらっしゃい!」


元気に手を振る。まだ少し悔しさの残る顔だった。


「今度こそ、次は連れて行ってください!」

「うん、約束」


リリアがそう言うと、ユナはぱっと表情を明るくした。


馬車が走り出す。ルシェが地図を広げながら言った。


「橋ってそんなに大事なんですか?」


その問いに、フィアナが答えた。


「大事よ。避難するときも使うし、物資を運ぶのにも使う」


ルシェも頷く。


「商売も橋がないと困ります」


その横で、リリアは寝ていた。非常によく寝ていた。


「勉強しなさい」

ミレーユが言う。

「起きてる」


目を閉じたまま答えた。信用されなかった。当然である。


窓の外を眺めていたルナは、今回も同行を許されていた。神様という立場もあってか、隊長からの扱いは特別だったが、本人はいつも通り気楽な様子だった。


「私、何すればいい?」

「見てるだけでもいい」

ミレーユが答える。

「見てるだけって退屈」


さっそく文句が出た。


---


昼前、町へ到着する。思っていた以上に人が多かった。避難民。兵士。荷車。子供。みんな慌ただしく動いている。橋の近くでは兵士達が補強作業を行っていた。


帝国軍の隊長が近付いてくる。


「来てくれたか」

「こんにちは」


リリアが手を振る。隊長も少し笑った。


「状況を説明しよう」


全員が集まる。隊長は川の向こう側を指差した。大きな山が見える。その一部が崩れていた。


「数日前の地震で山肌が崩れた」

「避難民は増えている」

「だが物資が足りない」


さらに橋を見る。古い石橋だった。


「この橋が壊れれば終わる」


静かになる。重要性は十分伝わった。


「敵は?」

セリナが聞く。

「いない」


隊長は首を振る。


「敵は時間だ」


その言葉に、みんな少し納得した。戦う相手は魔物だけではない。そういう依頼だった。


「怪我人もいますの?」

エレノアが尋ねる。

「ああ、崩落の際に何人か。今、仮設の救護所にいる」


エレノアは頷き、その方角へ視線を向けた。


---


作業はすぐ始まった。セリナとノアは周囲の警戒に回った。


「怪しい動きがあれば、すぐ言う」

ノアが短く言う。


避難で混乱している場所は、盗みや揉め事も起きやすい。狩人らしい鋭さで、周囲へ視線を巡らせていた。


ティアは補強工事を手伝う。カレンは橋の構造を調べ始めた。


「面白いです!」


楽しそうだった。職業病だった。


ルシェは物資確認。ルナは、しばらく物珍しそうに現場を歩き回っていた。


エレノアは、真っ先に救護所へ向かった。


---


救護所には、簡易ベッドが並んでいた。包帯を巻かれた人々、うめき声、慌ただしく動く医師たち。エレノアはその光景を一目見て、状況を把握した。


「人手が足りませんわね」

「その通りです。見ての通り、猫の手も借りたい状況で」


疲れきった医師が答える。エレノアは袖をまくり、手伝いを始めた。包帯を運び、水を配り、負傷者に声をかける。貴族令嬢とは思えない、手際の良い動きだった。


「わたくし、これでも一通りの応急処置は習っておりますの」

「ありがたい限りです」


しばらく働いた後、エレノアはふと、あることに気付いた。負傷者の数に対して、治療の手段が明らかに足りていない。薬も、清潔な水も、限られている。


「少々、お待ちくださいませ」


---


一方その頃、リリアは隊長から声をかけられていた。


「子供達の相手をしてくれ」


言われるまま、橋の近くの広場へ向かう。すぐに子供達が集まってきて、賑やかな声が響き始めていた。


「すごーい!」

「もう一回!」


リリアが風魔法で葉っぱを舞い上げる。子供達は大喜びだった。完全に遊んでいた。


「遊んでるわね」

ミレーユが呟く。

「結果的に役立ってます」


フィアナがフォローした。確かに。泣いていた子供達も笑っている。母親達から感謝もされていた。


---


そこへ、エレノアが息を切らせながらやってきた。


「リリアさん」


呼ばれて、リリアが振り返る。


「なに?」

「少し手を貸してほしいんですの」


子供達には「また後で来る」と約束し、リリアは素直について行った。救護所に着くと、エレノアは大きめのタライをいくつか用意させていた。


「一滴ずつでは、とても間に合いませんわ。まとめて出せますこと?」

「桶いっぱいなら」


以前、研究の実験で出した、あの大きな水球のことを思い出しながら答える。


「タライでも大丈夫ですかしら」

「たぶん」


リリアは両手をタライの上にかざす。集中する。ぽこん。顔ほどの大きさの水球が生まれ、タライの中へ広がった。透き通った水が、なみなみと満たされていく。


「これで足りる?」

「十分すぎますわ」


エレノアは満足そうに頷き、医師の方を振り返った。


「たくさんありますから、遠慮なくお使いくださいませ」


医師は、目の前の光景が信じられないという顔をしていた。


「これが……噂の」

「回復水ですわ。効果は保証いたします」


エレノアが淡々と説明する横で、医師は震える手でタライの水を掬い、近くの負傷者の傷口へそっとかけた。傷が、みるみるうちに塞がっていく。


「おお……!」


周囲の避難民からも、驚きの声が上がる。


「もう少し出せる?」

エレノアが聞く。

「うん」


リリアは、次々とタライに水球を生み出していった。骨折した子供、深く切った腕の兵士、熱を出した老人。順番に、治療の水が行き渡っていく。


「これは……」


隊長も、噂には聞いていたが、実際に目にするのは初めてだったらしい。


「ありがとうございます」


治療を受けた兵士が、涙ぐみながら頭を下げた。リリアは少し照れたように笑う。


「どういたしまして」


「よくやりましたわ」

エレノアが、リリアの肩に軽く手を置く。

「エレノアが呼んでくれたから」

「お互い様ですわ」


一通りの治療を終えると、二人は再び子供達のところへ戻っていった。


---


橋の横では、リリアが戻ってくるのを待っていたように、子供達がまた集まってくる。


ルナも子供達の輪に加わり、一緒に笑い転げていた。神様であることは、この場では誰も気付いていなかった。


---


夕方、問題が発生した。橋の一部に大きな亀裂が見つかったのである。兵士達が騒ぎ始める。


「まずいな」


隊長が眉をひそめた。大勢が通れば崩れる可能性がある。しかし避難は止められない。


セリナが橋を見る。ティアも見る。カレンも見る。全員真面目な顔だった。


その時、「直せない?」リリアが聞く。


ティアが腕を組む。


「できなくはない」

「時間が足りない」


悩ましい状況だった。


---


すると、カレンが橋のひび割れを指でなぞりながら口を開いた。


「亀裂の走り方、規則性があります。ここと、ここ」


一部を指差す。


「魔力を通す術式なら、応力を分散させられるはずです。故郷の学科で、崩落した坑道の補強に似た事例を読んだことがあります」


理論だけでない、根拠があった。それでも即答は難しい話だった。


「本当か?」

隊長が聞く。

「成功率は、高くはないと思います。でも、やらないよりはいいはずです」


正直な言葉だった。だが、やるしかなかった。


ティアが補強。カレンが術式。兵士達が資材運搬。全員で作業を始める。リリアも手伝った。珍しく。本当に珍しく。


「私も手伝う」


ルナが術式の光に、興味深そうに手をかざす。


「触らないで」

カレンが慌てて止める。

「触らないよ、見てるだけ」


言葉とは裏腹に、指先が何度も光に近付いていた。


その間も、ノアとセリナは警戒を続けていた。


「作業中、一番無防備になる」

ノアがぽつりと言う。

「分かってる」


セリナが短く応じ、二人並んで周囲へ目を光らせていた。


---


そして、日が沈む頃、補強は完了した。橋は持ちこたえた。避難も続行できる。


隊長は大きく息を吐く。


「助かった」


心からの言葉だった。みんな少し嬉しくなる。戦っていない。魔物も倒していない。それでも、誰かを助けることはできた。


「治療の方も、本当に助かりました」


医師も駆け寄ってきて、深く頭を下げた。エレノアが微笑む。


「わたくしたちにできることをしたまでですわ」


---


リリアは橋を見上げる。少し考える。そして言った。


「橋ってすごい」

「今さら?」

ミレーユが言う。

「みんな渡れる」


単純な感想だった。だが、間違ってはいない。その橋のおかげで、今日も多くの人が助かったのだから。


夕日が川を赤く染める。避難民達は少しずつ橋を渡っていく。それを見ながら、リリアは小さく笑った。


「守れたね」


セリナも頷く。


「ああ」


初めての帝国依頼。その最初の一歩は、確かな成功だった。

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