第53話 「十人目、正式加入」
翌日の夕方、帝都冒険者育成学校、談話室。いつもの場所だった。だが、今日は少し違う。
昨日の訓練場での騒ぎのあと、談話室にはいつものメンバーが揃っていた。ルシェは商人科の授業終わりに、そのまま様子を見に立ち寄っていた。
「今日も差し入れです」
小さな包みを机に置きながら言う。
「毎日律儀ね」
ミレーユが苦笑する。
ティアも、工房の仕事が一段落したところで顔を出していた。
「ユナの正式加入だって聞いたからな」
「わざわざ来てくれたんですか」
「暇じゃないが、これくらいは」
そう言いながらも、席に着く様子を見ると、まんざらでもなさそうだった。
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「というわけで!」
ユナが立ち上がる。元気だった。昨日と変わらない。
「正式にお世話になります!」
深々と頭を下げる。拍手が起きた。ルシェが拍手。エレノアも拍手。ティアも拍手。フィアナも。
「よろしく」
ノアがぽつりと言った。短い一言だったが、ユナはその声にも、しっかりと頭を下げ返した。
「よろしくお願いします!」
ユナが言う。
「よろしく」
セリナが頷く。
「よろしくですわ」
エレノアも笑う。和やかな空気だった。
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その時、ぴこん。静かな音。ユナが固まった。
「あれ?」
全員知っていた。来た。確実に。ユナの前へ文字が浮かぶ。
【ユニークスキル:夜型】
沈黙。
「え?」
数秒後、
「えぇぇぇぇぇ!?」
談話室に悲鳴が響く。盛大だった。
ミレーユが肩を叩く。
「落ち着いて」
「落ち着けません!」
当然だった。
「なんですかこれ!?」
ルシェが優しく説明する。
「夜型です」
「見れば分かります!」
元気だった。カレンが頷く。とても真面目な顔で。
「私もそうでした」
「カレンさんも?」
「はい」
「なんでそんな落ち着いてるんですか!?」
「もう、だいぶ前に諦めました」
説得力があった。
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ユナはリリアを見る。リリアはお茶を飲んでいた。平和そうだった。
「先輩」
「なに?」
「これ何ですか?」
リリアは考える。五秒、十秒。そして、
「夜型?」
説明になっていなかった。ミレーユが頭を抱え、フィアナがため息をつき、エレノアが苦笑する。いつもの光景だった。
ユナだけが新鮮な反応をしている。
「なんで共有されるんですか!?」
ルナが手を挙げた。
「仲間だから!」
即答だった。
「意味が分かりません!」
当然だった。被害者の会、また一人増加。これで全員揃った。カレン、ユナ、新旧被害者が並ぶ。少し面白かった。
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その時、リリアが立ち上がる。
「もう一回数える」
全員を見る。嫌な予感はしなかった。今回は。
リリアは指を折る。ミレーユ、セリナ、エレノア、ティア、フィアナ、ルシェ、ノア、カレン、ユナ、そしてルナ
しばらく数える。珍しく真面目だった。そして、
「やっぱり十人だ」
昨日確認したばかりの数字を、もう一度、噛みしめるように呟く。
「達成した!」
その言葉で、みんな気付く。リリアが帝都へ来た理由。仲間を集める理由。最初の夢。全部、ここにあった。
「おめでとう」
ミレーユが言った。
「ありがとう」
リリアが笑う。それは、いつもより少しだけ眩しかった。
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しばらくして、お祝いのお菓子が並んだ。ルシェが用意した。珍しく太っ腹だった。
「経費です」
「便利な言葉ね」
フィアナが言う。全員で笑った。賑やかな時間が流れる。
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その時だった。ミレーユがぽつりと言う。
「そういえば」
「なに?」
リリアが聞く。
「みんなの夢は聞いたわよね」
静かになる。セリナは強くなりたい。エレノアは領地を良くしたい。ティアは良い武器を作りたい。フィアナは帝国と同盟国を繋げたい。ルシェは大商人。ノアは居場所。カレンは世界の仕組みを知ること。ユナは立派な冒険者。みんな夢を持っている。
「リリアは?」
静かになる。全員の視線が集まった。
リリアは首を傾げる。
「可愛い子十人!」
即答だった。全員笑う。
「それはもう達成したでしょ」
フィアナが言う。
「あ」
間抜けな声だった。今気付いたらしい。
「本当だ」
達成していた。
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しばらく考える。珍しく。本当に珍しく。静かだった。
窓の外を見る。夕日が帝都を赤く染めている。みんなの笑い声が聞こえる。セリナがティアと話している。ルシェがユナへ何か説明している。カレンは紙に何かを書いている。エレノアは穏やかに微笑んでいる。フィアナは呆れた顔で笑っている。ミレーユはいつものようにため息をついている。ノアは、そんな光景を静かに眺めながら、小さく呟いた。
「賑やかだ」
「嫌?」
リリアが聞く。
「嫌じゃない」
短いやり取りだったが、ノアらしい答えだった。いつもの景色だった。
リリアは小さく呟く。
「強くなりたい」
静かになる。今度は、誰も笑わなかった。
セリナが少し驚いた顔をする。
「珍しいな」
「そう?」
「お前なら可愛い子百人とか言うと思った」
フィアナが言う。少しだけ笑いが起きる。リリアも笑った。
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そして続ける。
「強くなりたい」
今度ははっきりと。
「みんなを守れるくらい」
談話室が静かになる。ルシェが目を丸くする。ユナも。カレンも。みんな聞いている。
リリアは少し考えながら続けた。
「弱いの嫌だから」
ぽつりと言う。
「友達が泣くのも嫌」
静かな声だった。
「怪我するのも」
「苦しそうなのも」
「いなくなるのも」
夕日が差し込む。誰も喋らない。リリアはみんなを見る。そして、笑った。いつもの笑顔で。
「だから守れるくらい強くなりたい」
短い言葉だった。だけど、それがリリアの本音だった。回復水を作る理由。危険な依頼へ行く理由。仲間を増やした理由。助けを求める人を放っておけない理由。全部そこに繋がっていた。
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ミレーユは少し目を伏せ、そして笑った。
「リリアらしいわね」
「そう?」
「ええ」
セリナも頷く。
「良い夢だ」
ティアは腕を組む。
「守る奴がいるなら、今より更に強い武器を作る意味がある」
「おお」
リリアは感心した。
「格好いい」
ティアは少し照れた。
フィアナは苦笑する。
「国を救うとか言わないのね」
「大変そう」
即答だった。全員吹き出した。それもリリアだった。
ルナだけは静かに見ている。神様とは思えないくらい穏やかな顔だった。そして、優しく笑う。
「きっと叶うよ」
神様らしい言葉だった。珍しく。リリアは頷く。
「うん」
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迷いはなかった。夢は達成した。可愛い子十人も集まった。でも、終わりじゃない。もっと強くなる。もっと助ける。もっと笑う。みんなと一緒に。そのために、リリアは前を向く。夕日が十人を照らしていた。
こうして仲間は揃った。夢も見つけた。
そして、まだ誰も知らない大きな出来事。それでも、リリアは笑う。仲間と一緒なら、きっと大丈夫だと思えた。




