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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

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第52話 「後輩がやってきた」

野営で振る舞われたリリアの手料理から、十日ほどが経っていた。


今日は午前授業のみで、昼過ぎからは自由時間だった。帝都冒険者育成学校、談話室。


「増えたわね」


ミレーユが言った。視線の先にはカレン。加入から少し経ち、すっかり馴染んでいた。


「納得できません」


カレンが言う。今日だけで十回目だった。


「諦めなさい」

フィアナが言う。

「嫌です」

「私も最初はそうだった」

セリナが言う。

「そこから諦めたんですか?」

「はい」


早かった。カレンは頭を抱える。理論派だった。しかし、夜型は理論の外側にいた。少し可哀想だった。


「そういえば、この前の野営料理、まだ夢に見ます」

カレンがぽつりと呟く。

「今度、また作ってほしいですわね」

エレノアも懐かしそうに言う。


すっかり、談話室の共通話題になっていた。


その時、談話室の扉が開き、ルシェが顔を出した。商人科の授業終わり、両手に大きな包みを抱えている。


「差し入れです!」


包みを開くと、色とりどりの焼き菓子が並んでいた。


「商人科の実習で扱った店の余りです。安く分けてもらいました」


「私も、あの料理また食べたいです」


遅れて席に着いたルシェが、話に加わりながら言う。


---


その焼き菓子に、真っ先に飛びついたのはルナだった。


「これも美味しい」


次々と手を伸ばし、あっという間に半分近くを平らげていく。


「相変わらず商魂逞しいわね」


ミレーユが苦笑しながら、ようやく一つ手に取った時には、既に残りは少なくなっていた。


「ちょっと、私の分も残しといて」

ルシェが慌てて声を上げる。

「神様に取り分は関係ない」

「あります!」


---


その時、ばたんっ。勢い良く扉が開いた。全員が振り向く。知らない少女だった。茶色の髪。元気そうな顔。目が輝いている。


「いましたー!」


大声だった。リリアが固まる。


「私?」


少女は走ってくる。一直線だった。


「会いたかったです!」

「誰?」


即答だった。少女も固まる。数秒。


「ユナです!」


胸を張る。


「知りません!」


元気だった。リリアが言った。


「知らない」


さらに固まる。少女、改めユナ。


「えぇっ!?」


ショックだったらしい。


「覚えてないんですか!?」

「うん」


正直だった。ユナはその場に崩れ落ちる。


「そんなぁ……」


ルシェが少し可哀想になる。


「知り合いなんですか?」


ユナは立ち上がった。勢いよく。


「三年前です!」


誰も分からなかった。三年前というと、リリアがまだ故郷にいた、十歳かそこらの頃のはずだった。


「市場で迷子になってました!」

「たくさん泣いてました!」

「私を助けてくれたんです!」


静かになる。リリアは考えた。一分ほど。長かった。


「覚えてない」


ユナが再び崩れ落ちた。二回目だった。


「ひどいです!」

「ごめん」


反省はしていた。たぶん。


その様子を、ルナは焼き菓子を食べながら興味深そうに眺めていた。


「面白い子」

「誰ですか、あなた」


ユナが今度はルナに気付き、目を丸くする。


「ルナ」

「ルナさん、また新しいご友人ですか」

「友人じゃないよ。神様」


さらりと言われた一言に、ユナは反応に困った顔をした。


「……ボケてます?」

「本気なんだけど」


被害者の会全員が、揃って首を横に振った。


「気にしなくていい」

「気にしたら負けよ」


ミレーユとフィアナが、口々に諭す。ユナはますます混乱していた。


---


その時、ミレーユが聞く。


「つまり?」


ユナが立ち上がる。目を輝かせて。


「憧れてました!」


嫌な予感。被害者の会全員。


「やめなさい」


綺麗に揃った。ユナが固まる。


「え?」

「やめておきなさい」

フィアナ。

「おすすめしませんわ」

エレノア。

「苦労する」

ノア。


珍しく三文字以上喋った。ユナは混乱していた。当然だった。


「なんでですか!?」


全員がリリアを見る。リリアはお茶を飲んでいた。平和そうだった。


「見れば分かる」

セリナが言う。

「分かりません!」


正論だった。


---


その後、ユナは談話室に居座った。二時間、三時間。帰らない。ルシェも、差し入れの菓子がまだ残っていることを理由に、そのまま居残っていた。


「帰らないの?」

ルシェが聞く。

「帰ります!」


元気良く答える。しかし、帰らない。カレンと同じだった。


「増えたわね」


ミレーユが呟く。本日二回目だった。


---


夕方、訓練場。ユナは木剣を振っていた。一生懸命だった。すっかり居着いてしまったルシェも、成り行きで見学についてきていた。


「頑張るね」

リリアが言う。

「はい!」


元気だった。


「リリア先輩みたいになります!」


被害者の会全員が固まる。


「それはやめなさい」


フィアナが言った。即座に。


「なんでですか!?」


三回目だった。事情を知らないとそうなる。当然である。


---


その時、訓練場の入口から声がした。


「注文の剣、届けに来たぞ」


ティアだった。工房からの納品のついでに、様子を見に立ち寄ったらしい。木箱を抱えたまま、稽古中のユナに目を留める。


「お、新顔か」

「ティアさん!」


ルシェが手を振る。ティアは木箱を近くの木陰に置くと、そのまま見学がてら残ることにしたようだった。


---


セリナが木剣を受け取る。


「見せてみろ」


模擬戦が始まる。もちろん、結果は圧倒的だった。だが、ユナは諦めない。何度も立ち上がる。何度も向かう。泥だらけになりながら。


「根性あるな」

ティアが言う。

「あります!」


即答だった。少しだけ、リリアに似ていた。嫌な意味で。


---


日が暮れ始め、訓練が終わる。ユナは座り込んでいた。疲れ切っている。だが、笑顔だった。


「楽しかったです!」


心から言っているらしい。リリアも笑う。


「うん」


そして、当然のように聞いた。


「友達?」


静かになる。ミレーユが天を仰ぐ。また始まった。ユナは一瞬固まる。それから、満面の笑みになった。


「はい!」


即答だった。早かった。リリアも嬉しそうだった。


「やった」


リリアは指を折りながら数え始めた。ミレーユ、セリナ、エレノア、ティア、フィアナ、ルシェ、ノア、カレン、ユナそしてルナ


「十人」


小さく呟く。だが、確かに聞こえた。


その場の空気が、一瞬止まった。


「……今、十人って言った?」

ミレーユが聞く。

「言った」


リリアは、自分でもまだ実感がなさそうな顔をしていた。ずっと前から掲げていた目標。可愛い子十人。その言葉が、ようやく現実になった瞬間だった。


そして、ユナもまだ知らない。本当に知らない。仲間になった瞬間、人生が少し変わることを。被害者の会へ、また新たな犠牲者が近付いていること、そして、自分がリリアの目標そのものを達成させた張本人であることを。

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